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さようならお父さん
先週末、シブヤ大学で講義し、翌日は静岡県の清水市に行きました。清水市の会場では、簡単な挨拶の後、本のサイン会が行われました。2時間近く待って下さった方々も大勢いらしたと思います。どうもありがとうございました。
今回は、特に子供がたくさん来てくれて、サインをしているテーブルからようやく顔をのぞかせる子供の顔や、そこから差し出される小さな手と握手していると、休日を返上し6時起き(つらかった。笑)をしてここまできて本当によかったな、と思いました。 僕は、子供と会う度に「何歳ですか?」と聞いていたんですが、なぜかその日、ほとんどの子供は「8歳」か「11歳」。学校の学年単位で参加しているのかと思ったら、そうではないらしく、主催者の方々も驚いていました。思えば、僕も11歳の時、宇宙エレベーターを描いた「楽園の泉」を読みました。その作品の存在感に衝撃を感じたものの、その時にはとても難しく感じたことを覚えています。そして、僕が大人になり宇宙エレベーターのプロジェクトに関わることになったとき、この本をもう一度読み返しました。 この本の作家は「アーサー・C・クラーク」氏。静止軌道を発見した科学者とも言われているクラーク先生は、小説を通して科学の面白さを伝えたいと「2001年宇宙の旅」の原作を代表とする数々の名作を発表しています。人に未来や科学を想像する力を与えるすばらしい作家といえるでしょう。 そして、彼は科学者としても活動しており、以前、僕も宇宙エレベータープロジェクトに関わった時に、何回か会いに伺ったことがあります。そんな交流の中、いつしか彼は僕にとっての子供時代のヒーローでもあり、もう一人の父親のような存在になりました。東京に戻ったら、久しぶりに連絡をしよう、僕はそう思っていました。 その翌朝、クラーク先生がスリランカで亡くなったと訃報が届きました。90歳だった彼は、最近はずっと病気がちで車椅子の生活でしたが、最後の本をどうしても書き上げたい、と頑張っていました。。。その作品の完成をみることなく、彼は逝ってしまいました。 僕がクラーク先生と出会い、その経験が力となり僕の未来が開けたように、僕と出会ったことで、世界のどこかで誰かが、私たちが最も望んでいる明るい未来を実現しようと夢を持ってくれることがあるとしたら、僕らの旅は今までもそしてこれからも、永遠に紡がれていくことになるのではないでしょうか。 さようなら、お父さん!! そのバトンを僕らは確かに受け取ろう。そして、次の旅へと出発したあなたを、心からの感謝で見送ろう。 この話を、ある人にした時、その場でBUMP OF CHICKENの「SUPERNOVA」という曲をiPodで聞かせてくれました。 -♪本当の存在はいなくなってもここにいる 僕らの時計はとまらないで動くんだ♪− |
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東京大学創立130周年記念事業
昨日は、東京大学創立130周年記念事業の公開シンポジウムで、講演とパネルディスカションを行いました。 映画やアニメーションの世界には、未来的な要素を含んでいることが多くあります。僕が映画を大好きなのも、未来にあり得るかあり得ないか、それがどんな未来をもたらすか、それは善なのか悪なのか、というようなことにとらわれず、自由に創造力を発揮し、未来を思い描くことが可能な世界だからだと思います。 科学者にとっても、現在の社会の価値にとらわれない、ということは、実はとても重要なことです。前に進むのは、科学だけでもアニメの世界だけでもなく、人間の社会も、そして人間自身も進化するものです。その上で、その進化したテクノロジーを使用するのは誰なのかを考えてみると、やはり未来にそれを判断するのは、その時の人類に他ならないのです。 このシンポジウムでは、東京大学における研究とアニメの連携による新たなアニメコンテンツ制作に取り組み、そこに開けるアニメの未来の可能性について考えるというもので、異なった立場の才能あふれる研究者、専門家、クリエーターなどが出演、お互いの意見や世界をディスカッションし、とても有意義なものとなったのではないかと思っています。 そして、今回、テーマとなっていたアニメ作品「RD潜脳調査室」は、4月8日(火)24時59分よ日本テレビで放送が開始されます。ちなみに、僕はここで科学面でのスーパーバイザーとしてコラボレーションをさせていただいています。 http://www.ntv.co.jp/RD/ 是非、みなさんご覧になって下さい。 |
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Le Citta Del Futuro- 未来の都市
ローマ市が主催している「Le Citta Del Futuro-未来の都市」と言う学会に参加するためにイタリアにきています。この学会にも参加しているサッジオ教授の紹介で、ローマラサピエンザ大学建築学部で講義する予定にもなっています。学会のテーマは「未来の都市」です。ローマというと、古代ローマ遺跡やロマネスク様式の建築物などの印象が強く、あまり未来というイメージにぴったりこない方もいるかもしれません。しかし、時間を直線に捉えるような考え方から抜け出してみれば、このローマだからこそ実現できる未来都市の在り方があるのではないか、と思っています。それには、ローマという町の未来予想図をはっきりと描き、必要なキーワードを絞り込むことが必要でしょう。
「Le Citta Del Futuro-未来の都市」のステージ この学会の委員長は、ローマ電力副代表のジョセペさん。左からローマ市長、イタリアの国土交通省大臣、プリツカー賞2007年の受賞者リチャード・ロジャース(建築家)が座っている、すごい顔ぶれのステージです。そんな素晴らしい人たちが並ぶ壇上の一番右側に、なぜ私が座っているか不思議ですね。笑 学会の特別講演はジョン・ジョハンセンと言うアメリカの建築家の方が行いました。1916年生まれ、ハーバードを卒業し、私が修士を取ったバウハウス大学を作ったマルセル・ブロイヤーやヴァルター・グロピウス氏とも仕事をしていて、とても豊かな経験を持っています。彼が発表したのは、未来にもしナノ技術が完成し、現実に応用されたら、いったいどんな都市になるだろう、すべての住宅生産システムが変わるだろう、という内容でした。若いデザイナーや建築家がこの講演を聞いたら、イマジネーションがどんどんわき出るような、素晴らしい講演でした。 私の講演内容は「ゴミが出ない住宅」 私は、今回の学会で一番若い参加者と紹介され、現在研究しているインフラフリーとそこから生まれた一つの提案である「ゴミが出ない住宅」を発表しました。今年、イタリアのナポリ市では、ゴミの埋め立て処分が限界に達し、ゴミの回収が停止し、町中にゴミが溢れかえってしまった、という事態が起きたばかりで、まさにぴったりのこのテーマをみなさん熱心に聴講してくださいました。 内容は、私が「社会インフラ」と呼んでいるゴミを家から出した後、処理場まで運ぶシステムを不必要なものとし、家内でゴミを電気や熱に切り替えれることができたら、ゴミの回収が停止になっても問題にならない未来があり得るだろう。これは未来のライフラインのために大変重要になるであろう。という様な内容です。 久々にアレンさんと再会です。 今回の学会には、外国人として3人が招待されていました。ヨハンセン氏以外では、私とBiosphere2のアレンさんです。東京大学でも講演をしてくれたことがあるアレンさんはもう78歳で、学会の限られた時間しか参加されませんでしたが、彼が15年前から考えてきた未来の話には、参加者の方々も大変興味を持っていました。今回のローマでの行動はいつもアレンさんと一緒で、「セルカンがいろいろと気をつけてくれるから助かるよ。」と気遣ってくれるやさしい方です。 やっぱり見つけた。笑 僕が、イタリアを最後に訪れたのは1987年。約20年ぶりにきたましたが、なんだかかわいい子供が増えた感じがしました。一番近くにいたかわいい子にお願いして、一緒に記念写真を撮ってもらうことに。笑 彼女に嫌がられるかな、と思いましたが笑顔で抱き合ってくれてうれしかったです。 明日は、ベニス市に移動する予定です。島の建築物を見学し、インスラと言う会社と打ち合わせを行います。川沿いに建っている建物の土台技術及び古い建物を建て直すとき、どんな方法でリニューアルするか、話を聞いてきます。ベニスに一泊してからミラノ市に移動、そこの大学で講義をし日本に帰る予定です。 |
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未来の住宅??
ベルギー最後の調査となったのは、ブラッセルズ郊外にある「リビングトゥモロー」施設の見学でした。ここは、僕の知り合いでもあるピーター・ボンガーズ氏が考え出した、未来の住宅を予想する実験的な施設です。
アニメの世界から出てきたようなデザイン 「リビングトゥモロー」の目的は、未来の暮らしを創造し、役に立つ技術を開発するために、いろいろな実験を行うことです。約450m2の面積で3階建ての建築物になっています。日本を含めて約100社以上の各国の企業が、共同で未来の暮らしに必要となる、または便利だと思われる技術を考えて、この住宅で応用しお客様に紹介しながら会社の宣伝も行う、というシステムで成り立っています。DHL、松下電器、ベルギー航空、ボルボ等、各分野で世界的リーダーとなっている企業が「リビングトゥモロー」を切っ掛けにし、新たな技術の開発に関わっていることはすばらしいことです。IT関係の開発技術を使い、若い人だけではなく、老人のための居住スペースが実験されている点は、日本で言うと松下電器の「エコEUハウス」に近いものであると思いました。 未来のキッチン 中でも、僕が一番印象的だと思ったのは、キッチン。まるで、僕が監修したアニメ「宇宙エレベータ」に描かれていたような、IT技術をメインにしたキッチンシステムです。例えば、冷蔵庫にチキンがなくなったら、このキッチンシステムが近くのスーパーにネットで情報を送り注文をしてくれる。更には、家にだれもいなくても、郵便冷凍ボックスにチキンが入っていて、帰宅時に受け取りが可能なのです。もっと画期的なのはアイロンで、写真では見づらいかもしれませんが、シャツを洗ったあと、この機械に着せてスタートボタンを押せば、あっという間にキレイにアイロンがけをしてくれるスグレモノです。しかもスチームも自動。是非欲しいと思いましたが、価格は800ユーロもします。あきらめました。笑 「リビングトゥモロー」を一日かけて見学し、僕はこんなことを思いました。技術を開発し、便利な生活に向かうことをIT社会と言っていますが、住宅で使う技術が増えれば増えるほど、住宅自体のエネルギー利用量も同時に増えて行きます。そして、今、居住空間に利用しようとしているそれらの多くの技術は、住宅から出る廃棄物という点をまったく考えていないものばかりです。ビーターにこの疑問を投げかけると、彼は「それはセルカンの研究でしょう?だからここまで君はやってきたんだ。」と笑いながら、こう続けました。 「君が研究している、一般住宅の廃棄物を利用したエネルギー循環システムが成功すれば、それは未来の「リビングトゥモロー」になり得るだろう。それこそが、この「リビングトゥモロー」の成功とも言えることなんだよ。」と。研究には、やはりゴールはありません。今の「リビングトゥモロー」も決して完成されたものではなく、次の世代の研究者があらたな提案をしていくことで、時を超えて、形を変えて、そのバトンは手渡されていくものなのです。 さて、実は、僕は一日だけ東京に戻ってきていました。ですが、翌日にはもうイタリアです。ローマ市からの招待で、ローマ市及びローマ電力が仕切っている学会やローマ大学で講義をします。本当に慌ただしい毎日です。笑 では、今度はイタリアから報告します。 |
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ベルギーの裏事情
ベルギーというと、日本の人は、ビールとチョコレートを連想するのではないでしょうか。ドイツとフランスの間に位置するたった人口1千万人のこの国は、三つの地方に分かれていて、北はフランダース(フランダースの犬の発祥地ですね)と呼ばれオランダ語、南はワロニアと呼ばれフランス語で話しています。真ん中にあるブラッセルズでは両方の言葉で生活をし、人口はおよそ100万人、ヨーロッパで重要な都市であり、EUやNATOの本部もおかれています。建築で言うとEXPO1958で建てた「アトミウム」が一番知られており、第二次世界大戦終戦後、初めて行われたこの万博で、ベルギーは国の復興を証明しました。当時、この102メートルの建築物を造るためにかかった人の動力をビデオで見ましたが、感動ものでした。
この日、僕が泊まったのは、ブラッセルズ市内。夜遅く到着することもあったのですが、、都市の様子を知りたいと思い、わざと市内のホテルを選びました。さっそく少しでも夜の雰囲気を見ようと思い出かけましたが。。。町には、誰もいません。時々見かける人も何が違うのでしょう、まったく違った人に見えて、怖くすら感じ、僕はすぐホテルに引き返しました。笑 今回のベルギー調査の目的は、未来における住宅実験所「リビングトゥモロー」の見学です。ただし、せっかくブラッセルまで来ているので、その前にSt.Lucas大学建築学部長であるピーターズ教授が、郊外町を案内してくれることになりました。 ピーターズ教授にお世話になりました。 ピーターズ教授とは、彼が日本を訪れた時に知り合いになり、インフラフリーの研究を紹介したところ、ベルギーの郊外に非常に必要だと言う意見をいただき、今回につながりました。実は、僕はその時にはあまりベルギーでの必要性をイメージできなかったのですが、実際にこうしてベルギーの郊外を車で案内をしていただいた結果、その理由を理解することができました。昨夜、市内の雰囲気があまりよくないと感じたのも、昔から人が郊外に住んでいるせいのようです。何と人口の70%が郊外住宅に住んでいるとか。日本とは逆ですね。 ベルギーの郊外街の雰囲気 ブラッセルズ市から一本道をひたすら車で走っていくと、道沿いには住宅が建ち並んでいて、それ以外のところはほとんど草原、という感じです。車を降りてみると、住宅の前には小川が流れていてのどかな雰囲気。と思いきや、住宅の目の前を流れているのは、下水道なんだと聞き驚きました。ベルギー郊外では下水道のない生活がほとんど。古い建築物の場合は、道路のすぐそばに建っていますが、新しい建築物の場合は、道路から建築物までは6〜10メートルとってあり、その間に排水用の川が流れている、という状況です。近年、EUから注意を受け罰金を払わされてからは、お金をかけて下水処理場を立て始めたものの、まだ量的に全然足りていないそうです。 ピーターズ教授は、インフラフリーハウスのように、住宅そのものが自立していて、排水を処理でき、環境に影響のない新たなシステムの構築が求められているが、これを実現するために一番難しいのは国民の理解を得ることなんだと話してくれました。今のところでは、とにかくお金がかからないで、将来的にライフサイクルのコストを減らせるシステムじゃないと受けいれられないそうです。5年前には1年間600ユーロかかったエネルギー代が、現在では1400ユーロかかっている現状を聞くと、その国民感情も当然と言えるでしょう。 そして、いつの時代も、コストというものは建築の最も難しいところであり、新しいものはとにかくお金かかってしまいます。けれど、例えば30年のライフサイクルで考えることができれば、今、お金かかっても総体的にはコストダウンになり、また環境や人の生活へ負荷も減らすことができます。ここベルギーで、エネルギーと水を統合させた新たなアプローチを構築できたら、なかなか面白い提案が可能になるだろうと思いました。 明日の朝、「リビングトゥモロー」を見てから、ドイツに帰ります。21世紀をITに基づく未来の暮らしという視点で予想した実験です。またブログで報告しますので、楽しみにしていてください。 |