2色のガーベラ 夫婦別姓資料館

 2004年(平成16年)は3月11日に法務部会が開催されました。それはそれは猛烈に反対意見が噴出したそうです。当日法案説明をした佐々木知子議員のHPによると法案説明の段階からすでに野次の嵐で、野生動物の雄叫びに近い勢いだったとか。Cafeglobe.comの「エンゼルあつみの永田町観察日記」の3月19日付けコラムでもその熾烈さが伝わってきます。

 残念なことに、法務部会は自民党内の部会なので当日も報道陣シャットアウトで行われたため、誰が何を言ったか定かではありません。また議事録も入手不可能です。自民党以外の人間は新聞記者が壁に耳を当てて入手した発言の断片を記事から読むことしかできません。新聞等で見聞した発言をいくつかを記します。

「国家解体運動の一環だ。一部マニアだけで議論してほしい」(朝日新聞)
「国家解体運動の一環」大前繁雄氏(東京新聞)


 これまでも家庭崩壊を危惧する声はありましたが、ついに国家解体まで持ち出すようになったようです。根拠に乏しく、誇大妄想も甚だしいです。発言主は国家とは夫婦の同姓で成り立っていると考えているようです。

 また「一部マニアで」とはずいぶんと排他的ですが、今後は法務部会以外の場へ議論を移すことには異存はないということですね。ところで大前氏は「一部マニア」に含まれるのでしょうか。含まれないなら、ご自分が退席すればいいのでは。

 ちなみに、4月に靖国神社近辺で花見客にビラが配られていたそうです。そこにはまさに「国家解体阻止宣言」とありました。そのビラにはあらゆる分野の政策が提言されており、特に社会政策では「一連の「家族つぶし政策」を見直せ」とあり、案の定「夫婦別姓の阻止」も列記されていました。さらにビラの隅をみると、「Voice March, 2004 166」とあります。どうやらPHP出版のVoiceという雑誌の3月号をコピーしたようです。バックナンバーにある目次と実際のビラにある執筆者名も一致します。大前氏はこの雑誌から強く影響をうけたようです。

「参院選前のどさくさに紛れて決めるのは認めない」(読売新聞)
「参院選挙後に仕切り直しすべきだ」保坂三蔵氏(東京新聞)


 後回しで足を引っ張る声も多くありました。「私は(この法案について)何も聞いていないから認められない」など、自分の勉強不足を棚に上げて傲慢な態度に出る新人議員もいたそうです。ちなみに上記の大前議員も前年の総選挙で初当選した新人議員です。

 野田聖子議員が「今まで13回も議論した。先送りしないでほしい」と説得を試みると「憲法改正は議論に入るのに50年もかかった」(朝日新聞)と反論する議員も。

 後の4月2日に推進派議員らが最終的に断念することになったのも、夫婦別姓議論に決着をつけてしまうと参議院選挙に不利になるという声が多くあったからです(朝日新聞 2004年4月3日朝刊)。自民党内では夫婦別姓を進展させると選挙に不利になるという考えが根強いようです。

「それで子どもが産めないというのだったら仕様がないじゃないか」(佐々木知子氏のHPより)


 夫婦別姓が法制化されるまで出産を控えている夫婦もいるといえば、この反論。正確には「そんなことで子供が増えなくてもいい」と切り捨てる語調だったそうです。その発言の主は少子化対策が喫緊の課題である厚生労働族議員だったとか。この発言に限らず、以前から「夫婦別姓を望むような夫婦は子供など産まなくていい」という声は数多く聞かれました。子供が欲しいという気持ちに対してなんて冷酷なのでしょうか。

 逆に「夫婦別姓を認めると少子化が進む」(朝日新聞)と発言する議員も。しかしこちらは明らかに倒錯です。夫婦別姓を認めないままでいることこそ、少子化が進む原因をひとつ増やすようなものです。

「(対案は、自分の)心の中にある」(Cafeglobe.comより)


 反対派があまりに猛烈に反対するので「そこまで反対するなら対案を出してほしい」と野田聖子議員がいうと「ぼくの心の中にある」と言った議員がいたそうです。それでは実在しないのと同然だということをこの発言主は理解できているのでしょうか。

 よくよく考えると、この反対議員は対案を出したくても出せないことを知っているのです。対案となる高市案は法制化が野田案に比べて格段に困難で、法務省などの行政も反対しています。出せば論破されることを察知しているのです。だから苦し紛れにこんなことを言ったのでしょう。しかしいくら苦し紛れでも、心の中に秘めている対案では議論になりません。法案に反対するなら対案を潔く出すべきです。

 上記の発言に限らず「通称使用を認めることで対応できる」と伊吹文明氏(毎日新聞)ら、口々に通称使用案でいいという声が多く上がりました。しかし誰一人として、通称使用案をちゃんと明文化していません。

「この問題は数学の世界と違って答えは出ない」伊吹文明氏(東京新聞)。


 伊吹氏は「この問題」が何を指すか、見当違いのことを考えているようです。民法が定める夫婦に夫婦別姓も含めるのかどうかという問題を、あたかも夫婦のあるべき姿や人生論かのように考えています。人生論や価値観の優劣では答えがでないからこそ、民法で定める夫婦の氏を「選択的」にしようとしているのです。

 こうした問題のすり替えにより、夫婦別姓の法制化を待つ夫婦の願いはいつまでも黙殺されています。現実に不利益を被る人がいる以上、早く国会で審議して法案として成立させて、この問題を打開すべきではないでしょうか。なかには「いつまでも議論していればいいのよ」と部屋を出た女性議員もいたそうです。このように反対派はなんとしてでも結論は先送りして、国会提出を徹底的に阻止しています。

 ちなみに野党はこぞって夫婦別姓に賛成です。もし国会提出されたら法案が成立する確率が高いことを反対派はよく理解しているからこそ、国会提出を阻止しているのでしょう。他にも「もともとは野党が言い出したこと。もし法案が通ったら(参院選で)『私がやった』と宣伝されかねない」と野党を気にする声もありました(朝日新聞)。

注:新聞は日付が記載してあるものを除き、すべて法務部会の翌日となる2004年3月12日付け朝刊から引用しました。

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