北朝鮮の非核化をめぐる6カ国協議の再開に向け、ようやくほの明かりが見え始めたと言えるのではないか。
金正日(キムジョンイル)総書記がおととい、平壌を訪れた中国の温家宝首相と会談した。そこで「米朝協議の進展」を前提としながらも「6カ国協議を含む多国間の会談を行う用意がある」と、初めて復帰の可能性に言及した。
かねてから米国との直接協議を望んでいる北朝鮮。しかし米国は「6カ国協議再開のためになら」と条件を付けていた。米国務省は早速「協議の枠組みの中で直接対話をする意思がある」との声明を発表した。協議再開の一歩になるなら大いに歓迎したい。
6カ国協議は昨年暮れ、核申告をどう検証するかで合意に至らず決裂したまま。北朝鮮は、今年に入って長距離弾道ミサイル発射や2回目の核実験を強行するなど、危機感をあおってきた。
それに対し国連安全保障理事会が制裁決議を採択したりすると、協議からの離脱をちらつかせた。国際社会に揺さぶりを掛けて、米国を直接交渉のテーブルに引っ張り出そうとするいつもの「瀬戸際外交」だった。
今回、金総書記自ら踏み込んだ発言をしたのはなぜか。
核兵器廃絶を掲げて対話重視の外交を打ち出した米オバマ政権に向けたメッセージであることは確かだろう。オバマ大統領の呼び掛けで、安保理が先月全会一致で採択した「核なき世界」決議。北朝鮮の非難声明は、それほど強い調子ではなかった。
食糧などの支援の約束をしてくれた中国への配慮もあろう。「譲歩」し、議長国としてのメンツを立てる。それによって中国を、米朝交渉を有利に運ぶための後ろ盾にしたいとの戦略が垣間見える。
金総書記の健康問題も無縁ではあるまい。映像で見る限りは、体調はひとまず落ち着いているようだ。取りざたされた後継問題も、沈静化したといわれる。
念願である「独裁」体制を続ける保証を自分の手で米国から取り付けるためには、このタイミングしかない―と考えたとしても不思議ではない。
米朝協議は月内にも始まるとの観測がある。ただ朝鮮戦争休戦協定を平和協定に転換するよう北朝鮮が要求してくれば、米側はすぐには応じられまい。
日本は、政権交代をてこに事態を動かしたい。鳩山由紀夫首相は、核兵器廃絶の先頭に立つとしている。北東アジアの核軍拡競争に加わらない姿勢を鮮明に示したことへの国際的な評価も高い。
北朝鮮も、日朝の対話を再開する用意があることを示唆している。この機をとらえ「核開発」と合わせて「拉致」の解決も急ぎたい。それには当事者の5カ国があらためて足並みをそろえることが欠かせない。
今週末には日中韓首脳会談が北京で開かれる。これまでの強硬一辺倒とはひと味違う、新たな選択肢を追求する時機が来ている。
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