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遺 言 |
相続させる遺言と遺言執行者の権限 カウンター相談(登記研究672) |
特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(以下「相続させる遺言」という。)がされているにもかかわらず、これと抵触する所有権移転登記がされている場合に、遺言執行者が遺言の執行としてこの所有権移転登記の抹消の登記手続に関与することができるか。 |
相続させる遺言に関するこれまでの判例の見解最高裁判所平成三年四月一九目第二小法廷判決(以下「平成三年判決」という。)は、相続させる遺言の趣旨は、正に民法九〇八条にいう遺産の分割方法を定めた遺言であり、他の共同相続人もこの遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、特定の遺産を特定の相続人に帰属させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が遺言で指定きれた相続人(以下「受益の相続人」という。)に相続により承継されるものと解すべきであるとしています。 |
また、最高裁判所平成七年一月二四日第三小法廷判決(判例時報一五二三号八一ページ。以下「平成七年判決」という。)は、相続させる遺言について、平成三年判決を引用し、受益の相続人は、被相続人の死亡の時に相続により、遺言で指定された不動産の所有権を取得したものというべきであるとして、このような場合に受益の相続人単独で相続による所有権移転の登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行としてこの登記の義務を負わないとしています。このように相続させる遺言を遺言の分割方法の指定と位置付け、遺産の分割方法の指定に物権的効果を認めるという判例の立場はほぼ定着したものと考えられます。 |
遺言執行者の権限 |
相続させる遺言に抵触する登記がされている場合の遺言執行者の権限 前述のとおり、不動産の登記名義人が遺言者である被相続人の場合には、受益の相続人は、単独で相続登記の申請をすることができるのですから、遺贈の場合と異なり、遺言執行者が関与する余地は生じないと解されています。そうだとすると、問題となるのは、相続人の一人又は第三者が遺言対象不動産について当該遺言の内容と抵触する登記を了しているような場合です。 これに対して、最高裁判所平成11年12月16日第一小法廷判決(「平成11年判決」という。)は、相続させる遺言がされた場合について、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害きれる状態が出現したようなときは、遺言執行者は、遺言執行の一環して、上記の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消手続を求めることができ、更には、受益の相続人への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続な求めることもできるとしており、相続させる遺言についても遺言執行者が登記手続に関与し得る場合があることを明らかにしています。 |
遺言執行者 遺言内容を確実に実現させる遺言執行者 |
相続発生後、遺言の内容を実現するためには、実に多くの手続を行う必要があります。例えば、受遺者への遺産引渡し、不動産の所有権移転登記、預貯金の解約・名義書換、株券などの有価証券の名義書換など・・・。上記のように、遺言の執行に関しては、法的な専門知識が要求されるケースが少なくありません。また、相続人や受遺者の利害関係が相反する場合も多く、手続がスムーズに進まないというケースも発生しがちです。そのようなときに、遺言内容の実現に必要な各手続を、第三者の立場から公平に実行してくれる人を選任するために設けられているのが『遺言執行者』の制度です。遺言執行者を選任しなくても、遺言内容が実行されないわけではありません。 しかし、争いの発生を防ぎ、遺言内容をスムーズに実現するためにも、遺言書を作成する際には、相続に利害関係のない人か、専門家をあらかじめ遺言執行者として選任していたほうがよいでしょう。 |