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社説

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日中韓―「共同体」の模索が始まる

 日中韓3国の首脳会議が北京できのう開かれ、「歴史を直視し、未来に向かう」と誓い合った。始まって10年になるこの会議は、日本の政権交代を受けて、相互信頼と対話の新たな段階に入ったと言えるのではないか。

 鳩山由紀夫首相が掲げている「東アジア共同体」は、共通の長期的な目標として共有することになった。

 鳩山政権のアジア外交は、歴史問題を抱えてまだぎこちない3国関係のベクトルを、共同体に象徴される未来の方へ向けることから取りかかろうとしている。

 オバマ米大統領が唱えるような、多国間協調を大切にする世界の外交の流れにも沿ったものだと考えたい。

 この勢いを今月下旬にタイで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議、来月のシンガポールでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議へとつなぐべきだ。

 東アジア共同体構想の萌芽(ほうが)は、マレーシアのマハティール元首相が唱えた東アジアの経済統合にあった。以来20年近く、多様な構想が政府や民間で浮かんできたが、まだまだ同床異夢の段階を超えてはいない。

 その間に、中国の台頭に伴って、経済的な相互依存が進んできた。様々な地域協力も動き出している。だが、体制の違いのほか、資源や領土問題などの課題も抱え、単純に欧州統合と並べてみることはできない。

 何より大きな問題は、米国の存在をどう考えるかだ。鳩山政権内ですら、首相が「除外するつもりではない」と言えば、岡田克也外相は「米国まで含めることになっていない」と語るなど、いろいろな見解がある。

 いずれにしても、米国と対立するような共同体はありえない。今度の首脳会議で鳩山首相は「日本は米国に依存しすぎていた」と述べた。自民党政権との違いを印象づけたいという狙いだろうが、ならばなおさら、その真意を内外に十分説明する必要があろう。

 自民党政権も、将来的な東アジアの姿に向け、経済や防災、犯罪防止などの分野で地域協力を進めてきた。これからもそうした協力の網を重層的に、厚く築いていかねばならない。

 とはいえ、目の前に北朝鮮の核という問題が立ちはだかっている。

 金正日総書記と会談したばかりの温家宝中国首相からは、北朝鮮が日韓との関係改善を望んでいるようだという説明があった。だが、6者協議再開への道筋が見えたわけではない。

 日中韓の首脳が未来のアジアの姿を念頭に置きつつ、地域の平和と安定に向けて率直に話し合えたのはいい。大切なのは、現実の難しさを乗り越える確かな方向性を共有することだ。時間はかかろうが、これが鳩山首相の言う「共同体」の原点ではないか。

連合20年―古賀新会長に望みたい

 民主党を支援してきた日本労働組合総連合会(連合)は、政権交代の高揚感に包まれているに違いない。

 おととい閉会した結成20周年記念の定期大会で、鳩山由紀夫首相が「これまで辛抱強く党に力を貸して頂いた」と謝辞を述べた。祝賀会では、小沢一郎幹事長が法被姿になって鏡割りの小づちを振った。

 800万人の組合員を抱えて発足した巨大組織は、当時あった民社党の支持労組でつくる同盟、社会党支持の官公労中心の総評など労働4団体を統一したものだ。非自民の政党の離合集散による内部のあつれきも抱えながら、政治への関与の歴史を刻んできた。

 98年に現在の形の民主党ができたことで政党支持は一本化され、連合も政権交代を目指す一翼を担った。

 一昨年の参院選では連合幹部が小沢氏と手を携えて行脚し、党公認候補の選挙を支えた。鳩山政権がめざす来夏の参院選での勝利に向けて、小沢幹事長は連合の協力を重視する。

 労に報いよとでもいうわけか、連合は政府に要請や陳情をしている。

 温室効果ガスの「90年比25%削減」の中期目標を鳩山首相が掲げると、高木剛前会長は電力や鉄鋼労組の意を受け、慎重な姿勢を取るよう首相に申し入れた。連合と自治労が長妻昭厚生労働相に社会保険庁で懲戒処分された職員が解雇されないよう求めもした。

 鳩山政権がこれから政権公約を実現しようとすれば、傘下の労組の利益に反する例もさらに出てくる。国家公務員の人件費2割削減や、労働者派遣法の改正なども、組合員の雇用や待遇に影響を与えていくだろう。

 政権交代を後押しした組織には、その責任もついてくる。政府の行政刷新会議に連合OBが加わることも決まった。野党を支援していた時代と同じように要求してばかりではすまない。

 労組の中央組織として、異なる意見の調整役も求められる。

 まず連合は、自分の足元をよく見なければならない。

 労組に加入する人は、雇われて働く人の18%にすぎない。連合傘下の労組員も675万人にまで減った。それも大企業の正社員が中心であり、非正社員の加入は進まないままだ。

 賃下げや失業の不安など、働く人を取り巻く環境は寒くなっている。

 新会長に就任した電機連合出身の古賀伸明氏は「18%の利益や幸せを追求するのでなく、働く者全体の幸せをどう追求するのかで、国民の共感を呼ぶかどうかが決まる」と話した。

 非正社員を含めた雇用対策をどう充実し、社会保障をどう立て直すのか。責任を自覚し、道筋を示して提言してほしい。新会長の決意がしっかりと実践されるかどうかが、労働運動の今後を決めることになる。

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