そろそろクライマックスだぜぇ!!
エロシー(略
「あ、あ……なんて事……フィリス、貴方……!」
「な?こんな脆い世界、アタシなら簡単にぶち壊せるんだ。
だから待っててくれよ、菫。
邪魔なものは綺麗さっぱり片付けてやるからさ。
そうすりゃアタシと菫だけの世界――」
「が……」
「フィリス!お、お願い、もう止めて!!」
変貌したフィリスに抱きついたその華奢な身体は、未だ小刻みに震えている。
だが、菫は必死に恐怖を抑えて想い人へ語りかける。
「どうして、どうしてこんな事をしているのか、分かりませんわ!」
「あ、貴方は、ぶっきらぼうだけれど優しくって、乱暴なようだけど可愛らしくて……
こんな、こんな恐ろしい事をやる人ではないわ!」
「お願い、フィリス!いつもの貴方に、私が、あ、憧れていた貴方に戻って!!」
「菫……」
呆けたような声がフィリスの口から漏れた。
正気に戻ってくれた?
菫は一縷の希望を抱き、恐怖を振りほどいてフィリスの顔を見る。
「フィ、フィリス……?」
「そんなに強く抱きしめられちゃさぁ、アタシだって興奮しちまうぜ…?」
「ッ…」
「あ、あああ!?きゃあああああぁぁっ!!」
その瞬間、肉の触手が菫の身体を捉え、中空に抱え上げた。
絶望を味わいかけた次の瞬間訪れたパニックに、抑えきれなくなった恐怖が菫を包み込む。
「いやっ!いやあっ!!フィリス、お願い、止めてぇっ!!」
「落ち着けよ、菫……」
「やっ…!降ろしてぇ!!お願いよ、フィリスぅ!!」
「菫はまだ普通の人間だもんな。
アタシと同じにしてあげないと、怖いのも無理ないよなぁ」
純真な笑顔のフィリス。
その笑顔の薄皮一枚むこうの狂気に見入られた菫は、もはや悲鳴をあげる事すら出来なかった。
「フィリ……ス……私は……」
「すぐに済むからな、菫……」
「しばらく寝てな。
目が覚めた時には、菫はアタシと"同じ"になってるからな……」
「ぐっ……うう……がはっ……」
その空間には、虫の息のレインが床に転がされていた。
上位淫怪人である自分が、何故人間如きに敗北したのだ?
途切れ途切れに思考を巡らせようとしても、薄れ行く意識が彼女を永劫の眠りに誘う。
「あ〜らら〜、言わないこっちゃない〜」
瀕死の彼女を嘲笑うかのように、暢気な声が響く。
「きさ…ま……イーズ……か……」
「はぁい、レイン。
何が起こったのか聞こうと思ったけど、無理そうね〜」
「わ…分からん……一体、あれは……何事だったの、か……ぐっ」
「あらら〜、本格的に駄目そうねぇ」
「……イーズ……恥を……忍んで……頼みが……ある……」
「頼み〜?」
「持っている……だろう……"あれ"を……一雫でいい……”あれ”を、くれ……!」
「……ん〜〜、そう来るか〜〜」
眉を困らせながらも、ニヤついた笑顔を崩さないイーズ。
レインはそんなイーズの態度に腹を立てる余裕もなく、気絶に抗うしかない。
「頼、む……この借りは、忘れん……どうしても……ヤツを……!」
数秒の間。
「分かったわ〜。
お友達を見殺しにするほど、冷たい女じゃなくってよ〜」
ぴちゃり。
イーズの指先から、何かの雫がひとすじ、零れた。
「恩に……着る……ぞ……んっ、はぁ……」
雫はレインの唇を辿り、舌を湿らせ、喉を潤す。
「ん〜。……それじゃあね、後は自分で、ね〜」
レインの身体に起こる変化を見届ける事なく、イーズはその場を去る。
その顔には、酷薄な微笑みを絶やす事なく。
「さて……、私の出番はここまでのようね〜。
後のことは知ーらないっと〜。
それにしても……あぁ、勿体無い」
どくん、どくん、どくん。
肉触手が脈打つ。
その不気味な胎動を、まるで愛おしそうに聴き耽るフィリス。
「ふふふ……菫ぇ、もうすぐだからな。
お前が出てきたら、あとはこの世界をぶち壊すだけだ……
アタシと菫の世界が、もうすぐ……」
ぴくり。
何かが近づいてくる。
フィリスの鋭敏な感覚が、敵意を持った相手が接近している事を告げる。
また妙な機械人形共か、それとも……
「そこまでよ!」
「ライブエンジェル見参!」
「フィリス!すぐに助けるからネ!」
「ああ……なんだ、アンタらかぁ。
アンタらも要らないな、アタシたちの世界には」
「フィリスさん、やっぱり完全に操られてるみたいね」
「でも、ゆなっちと約束したんダ、助けないト!」
「分かってる!手加減は出来そうにない相手だけど、必ず助けるわよ!」
「それにしても、あの触手の塊みたいなのは何かしら…?
恵、調べてみて!」
「はい!スキャナー、起動…!」
「えっ…!?こ、これは…!」
「お、女の人!?まさか……パターン照合……ま、間違いない!」
「大変です、二人とも!
あの触手塊の中には、菫さんが閉じ込められています!」
「ええっ!?」
「ナンだっテー!?」
「しかも、あの中は魔因子が充満してるみたい!
このままでは、菫さんも魔因子に侵食されてしまいます!」
「ケンカの前にグダグダ言うのが好きだなぁ、アンタら。
……アンタらは要らないって言ったろう?そろそろ片付けさせてもらうぜ……!」
「どうやら、急がないと駄目みたいね!
恵はフィリスさんに魔因子を供給してるポイントを探して!
ジョウ、一緒にフィリスさんを止めるわよ!」
「分かりました!」
「うン!行くヨ、フィリス!!」
「へへ……それじゃあ、ぶち壊してやるよ……!」
***
「よっと……ゆな、足元、気ぃつけな」
「は、はいぃー」
「に、ニノンさぁん。
私たち、ここまで来ちゃって良かったんでしょうか……?
ジョウさん達に、あの家にいろって言われたのに……」
「あたしだって別に好き好んで来たわけじゃないよ。ワケわかんないし…
でも、まだお嬢……とフィリスだけ変な目に遭ってるんでしょ?
そう思ったら、さ、なんか……居ても立ってもいられないじゃん!
そりゃ、何もできないかもしんないけど……でも、何かできるかもしれないじゃん!」
「ニノンさん……」
「ごめんなさい、私も、菫お姉様とフィリスさんのこと、助けたいです!」
「う、うん……まあ、フィリスはどうでもいいんだけど、さ。
とにかく、お嬢を探してみようよ」
「はい!」
その時。
『きゃああっ』『ワぁぁぁ』
遠くから、悲鳴が聞こえた。
「!? 今の声……」
「ジョウさんと、赤羽さんの声に聞こえました!」
「い、行ってみよう!」
「はい!」
少し顔を見合わせた後、二人は瓦礫の山の中を走り出した。
***
「たぁぁぁっ!!」
「おリャぁぁぁ!!」
「はっ!ノロいノロい!!」
「くっ!?」
「そんなパンチじゃハエが止まるぜ、赤いの!」
「もらっタァ!!」
「やらねぇよっ!!」
「うあっ!?」
「代わりにこいつをくれてやらぁ!!」
「きゃああああっ!!」
「ワぁぁぁ!!」
「あははははは!!こんなもんかよぉ!?」
「勇!任せテ!」
「お願い!」
「来イ、フィリス!…クぅぅっ!!」
「ははっ、腕力勝負かよ?いいぜ、乗ってやらぁ!!」
「まずいわ、なんて強さなの…!?
恵、ポイントの特定はまだ!?」
「そ、それが……」
「ポイントが無いんです!
フィリスさんの全身に、魔因子が侵食しています!」
「な、何ですって…!?
それじゃあ、フィリスさんは完全に淫怪人化しているっていうの!?」
「それが、身体組織は人間のままみたいで……
魔因子と人体が完全に共生しているというか……こんなの、初めてです!」
「…!?
よく分からないけど……じゃあ、魔因子だけを取り除けばフィリスさんは元に戻るのね?」
で、でも……そんな方法は……?」
「……"清め"……」
「きよめ?何か策があるの!?」
「……"清め"の作用なら、魔因子だけを滅ぼす事が出来るかもしれません。
で、でも……まだ何のデータもない状態なんです!」
「どういう事?」
「セイバーズ本部を通じて、吉野のある機関からお借りしたものがあるんです。
それは、"清め"と呼ばれる技術を研究するためのもので…
でも、届いたのがつい先日で、まだ何もデータをとっていなくて…!」
「うグぅぅぅッ!!」
「そら、どうしたよ…!このまま潰しちまおうかぁ、ジョウっての!」
「ジョウ!!
…恵、それを転送して!
データなんてぶっつけ本番でとればいいわ!」
「は、はい!分かりました!
"響鳴秘剣"、転送します!
勇さん、構えてください!」
「転送!」
「抜けば魂散る炎の刃!」
「秘伝・響鳴秘剣!!」
「も、もうダメ……」
「そうかい、なら……ぶっ壊れちまえぇっ!!」
「そうはさせない!邪気、退散!はぁぁぁぁっ!!」
ガキン
「あれ」
「……そんなナマクラでアタシを斬ろうってのか?
片腹……」
「痛いぜぇぇっ!!!」
「きゃあああああっ!!」
「ワぁぁぁぁぁぁっ!!」
「話が違ーう!!」
「え、ええっ!?ど、どうして…!?」
「ウー、疲れタ……」
その時。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり。
粘液を引き裂くような不快な音が辺りに響いた。
「ワッ!」
「あ、あれは……っ!」
「まさか……!?」
「……お……」
「ふふ…はははは……あぁっはははははは!!
目ぇ覚めたか、菫ぇ!!」
To Be Continued …