第六幕でございます。
エロシーン?無いよ!
さて、実は前回からそうだったのですが、一部の文章は例の赤い人によるものだったりします。
それに加えて、今回は日頃からお世話になっているEnne様にも一部執筆いただいております。
さらに今回、アクノス研究所世界の設定を一部(勝手に)お借りしました。
堕ち玩は様々な方のご支援の下で成立しております。多謝。
「白猫さ〜ん」
「えっ…?」
「こんにちは、お嬢さん」
菫に背後から声をかけたのは、イーズだった。
にこにこと、いつもの笑顔を浮かべている。
「…くんくん、あら、貴女はレインの淫隷人さんなのね」
「い、淫隷人?わたしはそ、そんな、浅ましい呼び方をされるようなものじゃぁありませんわっ」
「あらら〜〜、それは失礼したわ〜〜、じゃぁなんなの?」
「わ、わたしはっ、レインさ、さまのっ…」
「レインの??」
「い、淫獣隷奴ですっ」
「……あらら〜〜、それはぜんっぜん違いますね〜〜」
「そ、そのとおりですわっ」
イーズの微笑に、暗い影が差し込む。
「で、麗しい、淫獣隷奴さん、貴女を追い出してレインは中でなにしてるのかな〜」?
「れ、レイン様は、そ、そのあの、って貴女はどなた?
レイン様を呼び捨てになさるなんて、失礼な態度ではなくって?」
「あらら〜〜、自己紹介が遅れましたね〜〜
私はイーズ、貴女のレイン様のうふふ〜〜お友達ってところかしらね〜〜、淫怪人とも言いますね〜〜」
「は、はわっ、し、失礼しました、イーズ様」
淫隷人にもなっていない菫は、淫怪人の魔因子を感じとる事が出来ない。
目の前の女が淫怪人であると知るや、あたふたと姿勢を正す菫に、イーズは相変わらず影のさした笑顔を向けている。
「あらら〜〜、い〜のよ〜〜、貴女にとっては
レインが一番大事な方だものね〜〜、で、その大事なレイン『サマ』は?」
「れ、レイン様は、レイン様は…その、わたくしのゆ、友人、い、いえ、その、し、知り合いを、そっ、そうです知り合いを…」
「ふぅん、お友達を〜〜」
「あっ、あんながさつなヒトはわたくしの、とっ友達などでは……」
口ごもって俯きかけるお嬢がふと気がつくと、
目の前、前にイーズの顔がほとんど密着している。
「ひゃ、ひゃぁっ」
「あらら〜、どうかしましたか〜麗しい淫獣隷奴さん?うふふ〜〜」
…………
そのあと、お嬢は自分が何を話したのか
どれだけの間イーズと一緒にいたのか
いや、そもそも誰かと何かを話したのかさえ、ほとんど忘れ去っていたが
気がつくとお嬢は一人ぽつねんと、まだかすかな喘ぎが聞こえる扉の外に立っていて
彼女の胸のどこか
心のどこかに
うずざわうずと波立つものだけが残された。
こつ、こつ、こつと、軽やかな足音が響く。
「ふふ〜〜ん、生徒さんをレインさんにもお預けしようかと思いましたけど、や〜めた、やめやめ〜〜
私の可愛い生徒さんを淫獣隷奴とかといっしょにされちゃたまりませんね〜〜
魔獣使いねぇ、体を縛るより
心を縛れば、ヒトは魔獣にも、淫獣にも変わるのにねぇ
ま、レインさんは、も少し苦労をなさるといいかもしれませんね〜〜』
独りごちながら、笑顔を崩さないイーズ。
彼女の胸の内には、軽蔑とも哀れみとも、憎悪ともとれる感情が渦巻いているらしいが、外見からそれを察する事は誰にも不可能であっただろう。
内面を波立たせていた彼女が、魔因子のごく微かな、そして異常な胎動に気付かなかったのは無理からぬ事なのかもしれない。
その爆発は、不意に起こった。
ぞわっ。
大気が殺到し、イーズの身体を全速力で吹き抜けていく。
同時に、イーズは背中に吹き付けてくるもう一つのモノに気付いた。
それは、魔因子。
淫怪人の存在を支えるその物質、慣れ親しんだ「あの方」の欠片。
だが、これは……
くるり、振り向いたイーズは、その正体を知った。
だが、向かってくるその脅威を理解する事は出来なかった。
ごぼごぼと、沸騰するかのように爆裂を繰り返す魔因子の奔流の中を
脅威が、狂気と共に歩み寄っていた。
「ん…っ」
「ゆな!」
「ゆなっち!」
「あ…ニノンさん、ジョウさん…」
ライブエンジェルとフィリスによってレインの首輪を破壊された少女達は、皆無事に解放されていた。
長期間の呪縛により、極度に体力を消耗していたニノンとゆなは、ライブエンジェルの本拠地とも言える恵のセーフハウスに保護されていた。
「わたし、いやな夢、見てたみたいです……」
「ゆな……残念だけどさ、夢じゃなかったみたい。
あたしら、ホントにワケの分かんない事してたらしいよ……」
どうやら、レインに洗脳されていた間の事は、鮮明ではないにせよ覚えているらしい。
自らの意思では無いとはいえ、自分が行った事の恐ろしさと非常識さに打ちひしがれ、どんよりとする二人。
「大丈夫大丈夫、ゆなっちやニノっち悪くないヨ」
「でも、菫お姉さまが……あっ、す、菫お姉さま!菫お姉さまは、どうなったんですか!?」
「お、落ち着け、ゆな!お嬢は…」
不意に菫の事を思い出し、狼狽するゆな。
軽くパニックになりかけた彼女だが、それは即座に治められた。
「落ち着いて、ゆなさん!」
勇の凛とした声が、室内に響く。
「…菫さんは、まだダーククロスに捕まってる。
ごめんなさい、私達が間に合わなかったせいで、フィリスさんと一緒に連れ去られてしまったの」
「あっ…、フィ、フィリスさんまで一緒に……」
「いつもはバカ強いくせに、肝心な時に使えないな…!」
憎まれ口を叩くニノンも、その表情には二人への心配が露骨に表れている。
「お願いします、ライブエンジェルさん。
菫お姉さまとフィリスさんを、助けて下さい!」
「あたしも……頼むよ、お嬢を助けてあげて!
フィリスは、まあ、そのついででいいからさ……」
「ボクからもお願…」
「あんたは頼まれる側でしょうが!
……こほん、うん、分かってる。
私達に任せて。絶対に、貴方たちの仲間は助けてみせるから!」
その時、ぱたぱたと廊下を走る音が聞こえた。
勇は表情を引き締め、ジョウはゆっくりと立ち上がる。
「勇さん、ジョウさん!
大変です、街が……!」
「分かった、すぐに行こう!」
「ンッ!」
ドサッ
地面に倒れ伏す機械人形。
『Savage Federal』、通称『Safe』の尖兵にして、強烈な戦闘力を誇るロボット部隊『Slaughter』の一体である。
身体を重力に預け、動かなくなった人形の頭部を、踏みつける足。
ギリ、ギリ、ギリ、と、躊躇するそぶりも見せずに圧力を増していく。
バギィッ
鈍い音が聞こえ、人形の頭の付け根からバチュン、と火花が散る。
「ふふ、ふ、ふふふふ……」
それを断末魔の声と受け取ったのか、破壊者はおかしさを堪えきれなくなったように笑いだす。
「あはは、は、はは、はははははははは……!」
「あぁぁぁっはっははははははははははぁ!!あっははははははははは……!!!」
それは、聴く者の魂を凍りつかせるような、狂気を孕んだ笑い声だった。
「うぅ…ん……」
「……ここは……私は、一体……?」
寝かせられていた地面の上で、菫が目を覚ます。
破壊者は、その声にひょいっと振り向くと、子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。
「菫!目ぇ覚めたか!」
「きゃっ!?んむっ……」
がばっ、と抱きつかれると同時に、菫は唇を奪われていた。
舌が進入し、菫の狭い口腔を蹂躙する。
「ぐむっ、んぶっ……!?」
空気を求めて身体をよじる菫の目に、わけの分からない光景が飛び込んでくる。
燃え盛る瓦礫の街並みに倒れ伏し、全身から火花を散らせる女の身体。
ひときわ大きな火花が上がったかと思うと、瞬く間にそれは全身から噴き上がり――
次の瞬間、女の身体は爆発四散していた。
これは、機密保持を目的とした『Slaughter』の自爆シークエンスに過ぎないが、状況把握もままならない菫に動揺を与えるには十分すぎた。
(あ…ああ…っ!?何が、一体何が起こってるんですの……!?
そ、それに……この、激しい口づけ……この匂いは……)
必死の思いで腕に力を込め、唇への陵辱者をなんとか押し離す。
「……はぁっ!はぁっ、はぁっ……!」
「おっ…何だよ、どうした?あっ、ごめんな、苦しかったか?」
「ど、どうしたじゃありませんわ……フィリス……これは一体、何が起こってるんですの……!?」
異形の装甲を身に纏った破壊者、陵辱者は、フィリスだった。
菫に分かったのは、それがフィリスであるという事だけ。
自分がレインに責められて気絶してから何が起こったのか、分かる筈も無い。
「何って?見りゃ分かるだろ、ぶっ壊してんだよ」
「こ、壊す…?何を、ですの…?」
「要らないもんをさ」
「要らない……?」
「そうさ、要らないだろ?こんな街」
「ど、どうして……」
「どうして?アタシと菫以外、何が要るんだ?」
「フィ、フィリス……?」
「要らないんだよ、何もかも。
この世界にはさ、アタシと菫がいればいいんだ。
他の何も要らないんだ、邪魔なんだよ。
だから、全部ぶっ壊すのさ。それだけの話だろ?」
菫の心臓は、我知らず鼓動を速めていた。
フィリスに、何か、とても恐ろしい何かが起こっている。
「そ、それは……その、レイン様の、ご指示……ですの?」
菫がその名を口にした瞬間、フィリスの笑顔は霧散した。
「違う」
「ち、違うって……レイン様のご命令でもなく、こんな事を、してらっしゃるの?」
「ああ」
「いけませんわ、フィリス……
レイン様は、いいえ、ダークサタン様は無秩序な破壊など望まれておりませんもの。
落ち着いて、私と一緒にレイン様の下へ……」
「菫ぇっ!!!!」
「ひっ……」
感情を一気に、一瞬の内に放出するようなフィリスの雄叫びが、菫を飲み込む。
「レインだダークサタンだって、そんなモノ要らねえんだよ!!
アタシとお前、それだけだ!!
それだけあれば、他は何も要らねえ!!!
アタシだけ見てろ、お前はアタシだけ見てればいいんだ!!!!」
「な、な、何を言うの!
私達ダーククロスにお仕えする者は、ダークサタン様無くして……」
フィリスの腕が伸び、菫の首輪を乱暴に掴む。
「ぅあっ!な、何を……!?」
「そうか、こいつがまだあったんだよな……」
うっすらと口の端を吊り上げ、笑顔を作るフィリス。
だが、その瞳に理性の輝きは無い。
「や、止めなさい、フィリス!それはレイン様から頂いた……!」
「安心しろよ、菫。すぐに元のお前に戻してやるから……なっ!!」
ブチィッ……
フィリスの握力が首輪を砕き、菫の首から呪いを奪い取った。
「あ…」
「あああああああっ!!」
ザアッ。
レインの呪縛が消え去り、菫は元の自分を取り戻していく。
「は、あははははは!元に戻ったな、菫!」
フィリスはまた無邪気に笑いながら、首輪の残骸を握り潰す。
「思い出しただろ?なあ、思い出したよな?」
「あ……あ……フィ、フィリ……ス……」
突然、正気に戻された菫。
正常な感覚で異常な記憶を辿る彼女には、しかしより異常な現実が待っているのだ。
「こ、これは……こんな事……夢です、わ……夢に、決まってますわ……」
「夢じゃねえよ。
アタシと菫の世界、これから作るんだ。
邪魔なモノを何もかもぶち壊してな」
「ああ、そうだ……
全部、ぶっ潰してやる」
「ダークなんとかもライブなんとかも要らねえ。
菫はアタシの横にいればいいんだ」
「アタシは菫を守る。
絶対に離さねえ、それで十分だ。
他には」
「何も」
「「「!」」」
「要らねえよなぁっ!!」
大気の動きが、止まる。
ゆっくりと立ち上がったフィリスは、その場で振り返ると『Slaughter』の小隊に無造作に歩み寄り――
「な、そうだろ?菫……」
「さぁ……行こうぜ、アタシ達の世界へ、よ」
「あ、あ、あ………」
菫の、声にならない悲鳴が瓦礫の街に、悲痛に響く――。
To Be Continued …