弁護士(ホーム) > 法律事務所 > 離婚/婚約破棄 > アメリカの裁判所での幼児引渡し判決の効力は
Last updated 2008.10.17
弁護士河原崎弘
アメリカの裁判所での幼児引渡し判決の効力は
相談
私は日本でアメリカ人の夫と結婚し、アメリカ人の夫とユタ州に渡りそこで子供をもうけましたが、夫の暴力のため、子供(3歳)を連れ日本に逃げ帰り2年経過しました。まだ、離婚は成立していません。
最近、夫は私に対しユタ州の裁判所に、子供を引き渡すように訴えを起しました。夫に言わせればアメリカでは私は行方不明者になっているそうです。
夫のアメリカの弁護士が日本の弁護士に頼み、呼び出し状が日本の弁護士から送られてきました。
私は、この裁判に出頭すべきでしょうか。
アメリカの裁判所で夫に有利な判決が出た場合、日本でも効力がありますか。
回答
国際離婚の典型的なケースです。
仮に、夫がアメリガで判決を得た場合、アメリカでの判決はそのままでは日本で強制執行できません。夫は、日本の裁判所で、執行判決を取る必要があります(民事執行法24条)。
執行判決を得るには、外国判決が確定し、次の要件を備える必要があります。- その外国裁判所が管轄を持っていたこと。
- 敗訴の被告が適法な送達を受けたこと。
不適法な送達の場合は被告が応訴したこと。 - 判決の内容が日本の公序良俗に合致すること。
- その外国でも同様な日本の判決が認められること(相互保証)
よく問題になるのは、管轄、呼出状の送達です。正規の送達はアメリカの裁判所は領事を通し、日本の当局に嘱託します。日本の場合、裁判所を通して送達されます。日本語の翻訳文を付ける必要があります。これは民事訴訟手続に関する条約によって決められています。
不適法な管轄、あるいは不適法な送達(弁護士からの送達、翻訳文のない送達)の場合は、応訴すると、管轄が認められたり、送達の欠陥につき異議を言えなくなります。対応は2つあります。- 裁判所に出頭しない。
アメリカの裁判所に出頭しないと、夫に有利な(あなたにとって、不利な)判決が出る可能性があります。しかし、それは適法な呼び出しに基づいてはいないので、日本の裁判所は執行力を認めない可能性が大きいです。
その意味で応訴しないことも1つの作戦です。
- ユタの弁護士に依頼し応訴する。
応訴して、負けた場合ですが、日本の裁判所は、下記判例のように、公序良俗の点からアメリカの裁判所の幼児引渡の判決につき執行判決を認めない可能性もあります。
あなたがアメリカに行った場合、子供を誘拐した犯人とされ、身柄を拘束される危険があります。ユタの弁護士に事前に相談すべきでしょう。
実際、母親(日本人)がアメリカで身柄拘束され、その間に、父親(外国人)が子供を預かっていた日本の両親を人身保護法で訴え、合法的に子供を本国へ連れ去った例があります。不用意にアメリカへ行ってはいけません。まあ、アメリカに行かないほうが安全です。アメリカでなくとも、アメリカと犯罪人引渡し条約を結んでいる国も危険です。
この件は、上記状況を考慮し、弁護士に相談し、応訴すべきか否かを決めるとよいです。
夫が、正当な手続きを経ないで、子供を連れ去った場合は、犯罪(誘拐罪)となります(下記判例)。
別れた配偶者が子どもとの面会を求めた場合、連れ去られないよう用心する必要があります。先日も、復縁(再婚)を口実にタイで面会し、そのまま、夫に子どもをドイツに連れ去られた例がありました。
第三国での面会は、その後の対処、手続きが面倒ですので、避けるべきでしょう。
なお、日本の女性が子供を連れ帰ることには、各国から批判があります。日本は、近い将来、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」を批准するようです。そうなると、本件のような例では、子供を元いた場所へ戻す手続きが立法化されます。
参考判決
- 東京高裁平成5年11月15日判決
右の事実によれば,本件外国判決は,ヒロコ(子)が日本で生活するようになった場合には,ヒロコの聴覚障害,
日本における少数者に対する偏見・差別,激しい受験競争等の事情から,アメリカ合衆国において生活するよりも適応が困難になるので,アメリカ合
衆国で生活させる方がよりヒロコの福祉に適うとの理由により,ヒロコの単独支配保護者を控訴人(母親)
から被控訴人(父親)に変更し,それに伴
って,控訴人に対し,被控訴人へのヒロコの引渡及び扶養料の支払等を命じたものであり,
他には右の変更を基礎付ける事由はないものと推認されるところ,ヒロコが日本に居住してから既に4年余を経過しており,同人は,最初のうちは,日本語が理解できず苦
労をしたが,小学5年生の現在では,言語の障害もかなり少なくなり,明るく通学しており,かえって,現在では英語の会話や読み
書きができない状態にあるのであるから,いま再び同人をしてアメリカ合衆国において生活させることは,同人に対し,言葉の通じ
ないアメリカ合衆国において,言葉の通じない支配保護者のもとで生活することを強いることになることが明らかである。
ヒロコが
幼児であるならばいざ知らず,本件口頭弁論終結時において,間もなく11歳になろうとしているのであるから,このようなヒロコ
を,現時点において,右のような保護状況に置くことは,同人の福祉に適うものでないばかりでなく,かえって,同人の福祉にとっ
て有害であることが明らかであるというべきである。したがって,ヒロコの単独支配保護者を控訴人から被控訴人に変更した本件外
国判決を承認し,これを前提とした本件外国判決中の給付を命ずる部分を執行することは,ヒロコの福祉に反する結果をもたらすも
ので公序良俗に反するというべきである。
以上のとおりであるから,本件外国判決は,全体として民事訴訟法200条3号の要件を欠くというべきである。
(家庭裁判月報46巻6号47頁)。
- 最高裁平成15年3月18日判決
被告人は、共同親権者の1人である妻のもとで平穏に暮らしていた長女、外国に連れ去る目的で、入院中の病院から有形力を用いて連れ出し、保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いてものであるから、被告人の行為が国外移送略取罪に当たることは明らかである。そして、その態様も悪質であって、被告人が親権者の1人であって、長女を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても、違法性が阻却されるような例外的な場合に当たらないから、国外移送略取罪の成立を認めた原判決は正当である。
この被告人は、船に乗ろうとしたところで、逮捕されています(判例時報1830−150)。
登録 Oct. 29, 2000
法律事務所
弁護士(ホーム)