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WSEA(Web Site Expert Academia)

第13回 情報のセレンディピティー 宇宙につながる「関係性(Web)」の未来(その3)

国を知る=組織を知る

前田:

お話を聞いているといろいろと気付かされます。要は,技術は華々しいほうに行っているような感じがあって,それはインターネットも例外じゃないなと。Web 2.0とかいう言葉もすごく脚光を浴びてはいますが,それを享受できる人の数の少なさに非常に問題があると思うんです。つまり,そこのインフラの土台も持てない人が世の中にはいっぱいある。そこはその内部事情までいかないとしても,インターネット環境を安価に提供して生活に豊かさを提供するという仕事があるかなと思います。

関心空間代表取締役 前田邦宏氏。
「未来を想像するときに古典を読むと
見えてくることが多い」

関心空間代表取締役 前田邦宏氏。<br />「未来を想像するときに古典を読むと見えてくることが多い」

今度モンゴルに行こうと思っているんです。彼らはようやく携帯を持ち始めたくらいで,そこをネットでつなげるという話が来て,すごく面白いなと思って相談に乗っているのですが。モンゴルは国力で言うとすごく弱くて,僕らがPCにかけられるお金も彼らにはないと思うんですね。でも,やっぱり自分の子供を教育したいとか世界を見せてあげたいとか,そういう気持ちはモンゴルの親御さんにもあると思うんです。今後,何かきっかけとして情報環境があって,それでシェアが広がって,かつそういうことを提供している我々と接点が増えると,また何かハッピーなことが増えるんじゃないかなと思います。

アニリール:

実は私,モンゴルに行ったことがあるので,ちょっとヒントを。モンゴルの他にもケニアにも行って,マサイ族にも会ったことがあります。初めて会うのでみんなが寄って来てくれたんですね。そこで私が「質問ありますか?」って聞いたときに,1人の女の子が「日本で牛,何頭持っていますか?」って聞くんですよ。「持ってないです」って言ったら「えーっ」て感じで皆が離れちゃって(笑)。モンゴルは馬ですね。ゲルの中で食事をしていたときに,外から「オーオー」という声が聞こえるんですよ。何ごとかと思って見に行ったら,1人の男性が馬の上でいろんな芸をしてて。「何やってるんですか?」って聞いたら,そこの家のお父さんが「うちの娘をマークしてるんですよ」と(笑)。そうしないとモンゴルの人達の組織に入れないんですよね。モンゴルやケニアに限られませんが,プロジェクトマネジメントとして行ったら,やっぱり,仕事したい国の組織や考え方――何を大切にするか――ということはすごく大切なんですよ。それは日本でもそうじゃないですか。たとえば東京で仕事するときと大阪で打ち合わせするときは全然違いますね。東京はものすごく真面目で,大阪はフランク(笑)。

前田:

僕,大阪人なんですけど(笑)。

アニリール:

大阪大好きです(笑)。すごくオープン。あと,本気で言っているのか冗談で言っているのかよくわかんないですね。外国人としてすごく住みやすいです,関西は(笑)。

初めて日本に来たとき,研究室から友達の携帯に電話をかけようとしてどうしてもつながらなかった。後で理由を彼に聞いたら「それは難しいですね」と。英語で難しいって言ったらdifficultですよね。だから単純に(電波の関係で)つながりにくいのかと思ったんです。でも数日後,研究室のシステム上,携帯に電話をかけることができないということがわかって…言葉の食い違いですよね。「難しい=やりにくい」という意味とは限らない,日本語だと。日本で外国人は日本語の使い方を学ぶわけですが,それは日本の組織でもあり。たとえばすごく偉い人と一緒にいて,「今日暑いですね」と言われたら窓開けるとか(笑)。私からしてみたら何で?という感じですが。そういうところがプロジェクトマネジメント,これからのインターネットの世界でも,すごく大切ですよね。モンゴルの場合,馬がないと何もできません。本当です(笑)。

前田:

すごくわかります(笑)。この前中国に行って痛感しましたね。日本人がアメリカナイズされたせいかもしれませんが,英語に対してのある程度のリテラシがあったら,どこでも通じると思っちゃうんですよね,僕だけかもしれないですが。でも中国で英語なんか通じないわけですよ。それよりも日本語の漢字や,もしくはその文化的な側面――中国人はこういう感情でこうやってものを返す――というそのプロトコルを知っているほうが最終的に仲良くなったりするということを体で感じました。そういう気持ちでモンゴルに行こうと思います…馬はちょっと(笑)。


編集部:

では最後に前田さんからまとめをお願いします。

前田:

当初の目的が果たされまして,僕も明日からの仕事にすぐ活かされると思います(笑)。まとめるのが非常に難しいのですが,書籍を読んで,また直接お話をさせていただく中で,その前向きな言葉の裏側に,多分いろんなせめぎあいもあると思うんですね。技術的にも政治的にも先端にいるご苦労があると思います。それを乗り越えるには別にマニュアルがあるわけではなく,やはり形にすること,実際の体験が重要。さっきのバジェットの話だって僕にとってはとても重たい話です。ただ単に「宇宙に行きたいな」と思っているだけでは実際に行けないのと同じで。自分の目的のためにバジェットを獲得する,適切に配分する,スタッフが互いを大切にしてプロジェクトをマネジメントし,勝つというイメージを強くもって実行し,それを世の中に広めていく。これは宇宙開発ビジネスだけではなく,どの仕事にも共通する話です,インターネットや無線技術が宇宙開発事業からスピンアウトされた技術であるように,今後インターネットで培われた新たな技術が別の分野にもスピンアウトされるのだろうという確信を,今日ここで得ることができたと思っています。

本日はどうもありがとうございました。

アニリール:

あと最後に私からも一言。インターネットはこのまま進化し続けて良いですか? 人を幸せにしますか? よく考えてみてほしいと思います。

編集部:

どうもありがとうございました。

対談を終えて~前田氏からのひとこと~

かつてインターネットが情報世界の宇宙として無限の広がりを感じさせてくれた時期がありました。それは,人智を超えた新しい価値や対話の可能性を無限に感じさせてくれたからです。

しかしながら,今の自分にとってネットは多くの情報からどれを選択するかという検索に過ぎなくなり,あてどのない探索の場ではなくなってしまいました。

アニリール氏との対談は,こうした私の中での倦怠を一蹴する出来事でした。技術者として宇宙や地球単位で仕事をする彼と話し,「出会い(Serendipity)は人間を知り,宇宙の法則を知るという内面の技術」だという認識がより深まりました。Webを内宇宙につなげる仕事はまだ始まったばかりなのです。

会場のご紹介

今回の対談は,東京ミッドタウン ミッドタウン・タワー5F デザインハブ内インターナショナル・デザイン・リエゾンセンターで行われました。

同センターは,国際的なデザインの人材育成拠点として,デザインを中心としたさまざまなセミナーやイベントの実施や運営サポートをしています。既存のデザインの概念に捉われず幅広い意味でデザインを捉えるのが特徴であり,デザインだけでなくさまざまな分野の人材を集めて人材育成を行っています。

詳細はWebサイト(http://www.liaison-center.net/)をご覧ください。

約70名収容可能のセミナールームは,おかげさまで満員に。向かいのスペースで行われていた企画展「グラフィックデザイン:ジャグダ1981~2006」の帰りに立ち寄る方も見られました。

約70名収容可能のセミナールームは,おかげさまで満員に。向かいのスペースで行われていた企画展「グラフィックデザイン:ジャグダ1981~2006」の帰りに立ち寄る方も見られました。

著者プロフィール

ANILIR Serkan(あにりーる せるかん)

1973年ドイツ生まれ。国籍はトルコ共和国。大学卒業までをドイツ,スイスで過ごし,'95年イリノイ工科大学建築学科卒業,'97年プリンストン大学数学部講師に就任。'99年バウハウス大学建築学科修士課程終了。2003年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程を修了,日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部宇宙構造物工学研究室講師を経て,現在,東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教,エール大学客員教授などを務める。2001年NASAジョンソンスペースセンター宇宙構造・材料系客員研究員として宇宙飛行士プログラムを終了,2004年トルコ人初宇宙飛行士候補に選ばれる。宇宙エレベーター計画など,宇宙構造物に関する研究開発により,U.S Technology Award,ケンブリッジ大学物理賞及びAmerican Medal of Honorを受賞。現在は先端技術を応用し,インフラに依存しないで暮せる空間技術(INFRA-FREE LIFE)を開発,研究している。


前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

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