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トーク21

10月4日

時代を超える映画のメッセージ
「ヴィヨンの妻」でモントリオール世界映画祭「最優秀監督賞」

映画監督 根岸吉太郎さん
“チャンス”はすぐそばにある 

東北総合芸術部長 宮古一夫さん
身近な人からの言葉が大切 


 今月10日から全国東宝系でロードショーされる映画「ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜」。今回の「トーク21」では、先月、同作品で、第33回モントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞した根岸吉太郎さんを迎え、東北総合芸術部長の宮古一夫さんと、映画のもつ魅力などを語り合ってもらいました。

シーン1 生きる上でのヒント
 宮古 モントリオール世界映画祭での「最優秀監督賞」の受賞、大変におめでとうございます。太宰治原作の映画を初めて見ましたが、とても素晴らしい作品で、感動しました。
 根岸 ありがとうございます。今年は太宰の生誕100年。今回の原作である「ヴィヨンの妻」は、だれもが知っているような有名な作品ではないですよね。ただそこに、太宰自身の生き方、女性や家族への思いなどが、非常によく表されていると思うんです。
 宮古 松たか子さんの演じる「佐知」の生き方からは、しなやかでたくましい女性としての強さを学ぶことができます。
 根岸 とても豪華なキャストで、魅力的でしょう。「佐知」だけでなく、浅野忠信さんが演じる「大谷」の生き方などを通して、夫婦として、人として生きる上でのヒントを見つけてもらえればと思っています。
 宮古 戦後まもない時代が舞台になっていますが、現代にも通じるものがあると感じました。
 根岸 そうですね。当時も今も、一人一人が生きている意味を考え、人との関係のあり方を問うている時代じゃないでしょうか。
 宮古 最後の「佐知」のセリフからも、そうした強いメッセージが感じられました。身近な人から、かけられる言葉が、いかに大切なものか――。私も、日ごろから励ましの大切さを実感しています。
 根岸 その人が、どれだけ本当に相手のことを思っているか、“本気の人”の小さな一言が大事なんです。簡単な一言に意味がある時代なんでしょうね。

シーン2 皆の持ち味を生かす
 宮古 映像、音楽をはじめ、美術など、映画には総合芸術的な要素があります。
 センスがないと、できない仕事なんでしょう。
 根岸 映画監督って、独自のスタイルがあって、千差万別なんです。だから、自分に才能があるのかないのか、自分でも気が付かない(笑い)。
 直感は大事なんですが、あまり自分を過信しても良い結果にはならないんですよね。シナリオなら脚本家だし、カメラワークや美術、照明はもちろんのこと、俳優さんなど、それぞれの専門家と一緒に仕事をします。
 だから、自分にないものをきちんと認識して、自分が思っている方向に、その人たちのもつ力によって、進んでいけるようにしてもらうんです。
 宮古 私もかつて、中学校の音楽教諭として吹奏楽団の指揮者をしていました。一人一人のプレーヤーの持ち味を生かすという意味では、似ている部分がありますね。
 根岸 私は現場では、あまり細かく指示を出す方ではありません。ですけど、常に皆から私が何を考えているのか“観られている”と思っています。
 こういうことをやりたいんだとのメッセージを、体から発していられるようにしています。
 宮古 何ごとも、リーダーが、どう自分の思いを発信していけるかで決まります。

シーン3 青年たちに夢や希望を
 宮古 この4月からは、山形にある東北芸術工科大学の教授になられ、映像学科長を務めておいでですね。
 根岸 ええ。これまで、東京や京都の大学から、いくつかお話はありましたが、あまり、人に教えるつもりはなかったんです。
 でも、山形に来てみたら、とても良い場所で、ここは何か“もの”が生まれそうだし、人も生まれそうだと思ったんです。単なる直感ですが(笑い)。
 宮古 昨日の試写会に参加していた学生たちとのやりとりからも、一人一人を大切にしておられる監督の姿勢が感じられました。
 学生に自分の作品を見てもらうのは、どんな気分でしたか?
 根岸 10代の学生たちに見せるつもりで撮ったわけではないので、どんな感想をもったのか、後期の講義で聞くのが楽しみです。
 そもそも彼らの世代には、あまり面白くない作品かもしれないけど(笑い)。
 でも映画って、面白ければ良いものではなくて、そこから何かを感じることができないといけないんだと考えています。
 何年かたって、見返してもらえるとうれしいですね。
 宮古 昨日の監督の「世界につながっているチャンスは、すぐそばにあるんだ」との言葉にも感動しました。
 根岸 なにもこれは大げさに言っているのではなくて、本当にそうなんです。
 映画は、文化や言語、さらには時代を超えて、メッセージが伝わりやすい芸術だと思うんです。
 宮古 そうした思いが、今回の受賞につながったんですね。
 根岸 とにかく学生たちには、人と“もの”をつくる楽しさを知ってもらいたい。たとえ将来、職業にしなくても、こうしたことは、人生を豊かにしてくれると思います。
 宮古 今、私たちも若い青年たちが活躍できるようにと、大事にしているんです。青年が夢や希望をもって進んでいけるように、力を注いでいきたいですね。
 根岸 そうですね。ともあれ、山形の人たちは、本当に映画を愛しています。今、そうした大きな後ろ盾があるのを実感しています。
 宮古 今回の作品でも、山形名産の桜桃(さくらんぼ)が使われていました。今度は、ぜひとも、山形を舞台にした映画をつくってください。楽しみにしています。
プロフィール
 ねぎし・きちたろう 1950年、東京都生まれ。78年に映画監督デビュー。2005年に「雪に願うこと」で、東京国際映画祭においてグランプリを含む4部門を受賞するなど、国内外の映画祭で高い評価を得ている。現在、山形の東北芸術工科大学映像学科長(教授)。

 みやこ・かずお 1948年、山形県生まれ。中学校の音楽教諭時代は吹奏楽部の顧問として全国大会出場を果たす。青年部時代から山形広布に奔走してきた。現在は、副会長、山形総県総合長として尽力する。山形文化会館勤務。69年入会。師範。
根岸さん
宮古さん
今作のポスターを前に映画の見どころを語り合う根岸さん(左)と宮古さ
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