患者の視点でつくった大学医学部の学生向け教科書が出版された。25の患者団体が執筆し、患者の言葉で症状が表現され、生活上の悩みも盛り込まれた。執筆に携わった患者会は「患者の生の声を通して、病気だけでなく患者を知るきっかけになってほしい」と話す。来年以降、埼玉医科大看護学科など一部の大学で使われる。
出版されたのは「患者と作る医学の教科書」(B5判、280ページ、日総研出版)。酒巻哲夫・群馬大教授(医療情報学)が06年、医学部の授業に3人の患者講師を招いたのがきっかけになった。講師の一人で、抗利尿ホルモンの不足で大量の尿が排出され、体が常に水分不足の状態になる病気の患者団体「中枢性尿崩症の会」の大木里美副代表は「今の医学教育は患者について学ぶ機会が少ない。患者の生の声を伝えることが重要だ」と実感したという。
酒巻教授が患者の視点で教科書を作ることを発案、慢性頭痛や認知症、気管支ぜんそくなど25疾患の患者団体が呼びかけに応じた。
症状は患者自身が書いているため具体的だ。例えば、従来の教科書で「口渇(こうかつ)」と書かれていた症状は「飲んでも飲んでも潤わない激しいのどの渇き」と表現。患者が日常生活で抱える悩みや問題、間違われやすい病気なども体験を基に記載された。
酒巻教授は「診察室では分からない患者さんの姿を理解することは、適切な治療にもつながる」と話す。【下桐実雅子】
毎日新聞 2009年10月10日 東京夕刊