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一律義務化 免れ銀行安堵 モラトリアム法案、金融相が原案了承

10月10日8時16分配信 フジサンケイ ビジネスアイ

一律義務化 免れ銀行安堵 モラトリアム法案、金融相が原案了承
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(写真:フジサンケイビジネスアイ)
 亀井静香郵政改革・金融担当相は9日、中小企業向け融資や個人向け住宅ローンの返済を猶予する「モラトリアム法案」をめぐり、政府・与党の検討チームがまとめた猶予期間を最長3年間とすることを柱とした原案を了承した。「貸し渋り・貸しはがし対策法」として1年間の時限立法で臨時国会に提出、年内の成立・施行を目指す。

 原案には、金融機関に一律の返済猶予を義務づけない代わり、企業が倒産するなどして生じた損失を公的資金で穴埋めする政府保証を用意することが盛り込まれた。また、猶予に応じた件数や金額を金融機関は半期ごとに国会などに報告し、手続きの透明性を確保する。

 ≪業務には一定制約≫

 「モラトリアム法案」から金融機関に返済猶予の「一律義務化」規定が外される見通しになり、銀行業界からは「現実的な所に落ちつき、これなら受け入れられる」(メガ銀幹部)との安堵(あんど)の声が漏れている。

 当初は、亀井金融相の「銀行は反省が足らない」発言などから、「徳政令」のような一斉債権放棄が連想されていた。だが、憲法で保証する「財産権」にも抵触するため、都銀幹部は「さすがに義務の法制化は見送られた」と胸をなで下ろす。

 しかし、法案には返済猶予の実行具合を半期ごと開示する規定が盛り込まれ、銀行としては法案の精神を無視するような厳格な融資姿勢は取りにくい。銀行の業務に一定の制約がかかることは避けられない。

 このため、3メガバンクなど大手は9日、大塚耕平金融担当副大臣に提出を求められていた「意見書」を提出し、猶予した融資が焦げ付いた場合に損失を穴埋めする政府保証などの公的な措置を求めたもようだ。

 法案には、銀行側の言い分に考慮し、「緊急保証制度」の拡充による政府保証が組み込まれる。中小企業向けに、昨年10月から実施された制度で、政府が確保した保証枠30兆円のうちすでに14兆5666億円(今年10月1日までの累計)が利用され、「かなりの倒産を防いだ」(民間調査機関)実績がある。

 「モラトリアム法案」では、この緊急保証制度の対象を新規融資だけでなく既存融資にも広げるとともに限度額を引き上げ、中小だけでなく中堅企業も利用できる枠組みにすることも検討対象とみられる。これが実現すれば、銀行経営に対するリスクを抑えながら、企業支援の効果が広がることになる。

 ≪モラルハザード懸念≫

 「モラトリアム法案」の実現が現実味を帯びるにつれ、副作用への警戒感も広がるばかりだ。政府保証をバックに、審査が徹底されないまま融資がばらまかれる「モラルハザード」(倫理の崩壊)に陥る懸念もぬぐいきれない。ニッセイ基礎研究所の櫨(はじ)浩一・経済調査部長は、「猶予実績作りのため安全企業に融資が集中し、本来必要な企業に資金が回らない危険もある」と、運用の難しさも指摘する。

 猶予期間は最長3年間とされるが、「3年後の日本経済がさらに悪化している可能性もある。そのときはまた延長するのか。融資返済の猶予が続けば、企業の経営努力をそぐことにもなりかねない」(信州大の真壁昭夫教授)との疑問もあがる。

 運用を含めた法案の詰めはこれからで、実際の融資に行政がどこまで介入するのかもはっきりしない。銀行業界は「制度の詳細は極めて不透明」(都銀幹部)と、警戒を緩めていない。

最終更新:10月10日10時18分

フジサンケイ ビジネスアイ

 

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