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家計主導型経済の正当性

2009年10月10日0時2分

 民主党の経済政策の本質は、政府・企業から家計により多くの資金を移転し、家計が経済を支える仕組みを作る、という点にある。それは公共投資や補助金を削減する一方で育児支援を強化し、最低賃金の引き上げや派遣労働の制限によって長期安定雇用の増加を目指す、というところによく表れている。

 企業経営者はそれに強い懸念を示す。たしかに、公共投資の削減や雇用コストの増大は、企業収益を圧迫する。事業が継続できない、海外に工場を移すといった声(脅し?)も聞こえる。

 しかし、家計主導型経済への転換には正当性があると考える。自民党政権下の経済政策は、企業主導型だった。規制緩和や労働市場の自由化を通じて企業の収益力と生産性を高める、そこから経済成長の利益が滴り落ちて家計も潤う、といういわゆるトリクルダウン論が、その背景にあった。

 現実はどうだったか。02年から07年にかけて戦後最長の景気回復が実現したが、それはもっぱら企業を潤した。家計は、非正規社員の増大や賃金の抑制によって、雇用・所得不安に直面し、消費は低迷した。所得格差の拡大や低賃金労働の固定化によって、「普通の仕事」が減り、将来のキャリア形成への期待もしぼんだ。つまり経済成長は、家計の犠牲の下で企業が拡大したことによってもたらされたことになる。成長の成果が家計に滴り落ちることはなかった。そしてこの1年で日本経済が急落したことが示すように、企業主導型成長はきわめて脆弱(ぜいじゃく)だった。

 国民が政権交代を求めたように、経済政策思想も転換を求められているのではないか。その象徴が、企業から家計への主役交代なのではなかろうか。(山人)

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 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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