東アジア共同体の先にある悲劇―40万人が失業した国
10月10日11時32分配信 サーチナ
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世界各国の主要株価指数はサブプライムショックにより約半値に暴落しました。2007年高値から2009年安値までの下落率は、英国(FT100指数)がマイナス49%、米国(NYダウ)がマイナス54%、ドイツ(DAX指数)がマイナス56%、日本(日経平均)がマイナス62%。 |
答えは、アイルランド。
アイルランド証券取引所上場全銘柄で構成される株価指数は、2年前の高値から80%を超えるほど著しく下落しました。
なぜでしょうか?
先月、英BBC(日本ではスカパーで放映中)でも特集されていましたが、理由は「ユーロ」。英国と国境を接する先進国のアイルランドは、1999年の単一通貨ユーロ発足当時から、ユーロに参加していました。当時ユーロは参加基準を満たせない国も多く、アイルランドは基準を満たした優秀な11カ国のひとつでした。
アイルランド経済は、2004年あたりから“バブル”と言われるほど、株式や不動産が高騰し続けました。アイルランドでは誰もが金融引き締め(=利上げ)をしてバブル景気を抑制すべきと考えました。ところが・・・、アイルランドは利上げすることができませんでした。
なぜでしょうか?
アイルランドは、欧州共同体に参加し、単一通貨ユーロを採用しています。これはすなわち、通貨政策および金利を自分たちで決めるという国家の主権の一部を放棄することを意味します。アイルランドとしては、自分の国がバブルだから金利を引き上げたいと思っても、金利はユーロ圏共通のものなので、他のドイツやフランスなどユーロ圏を構成する国々が「嫌だ。そんなに利上げしたくない。」といえば、どうにもなりません。
結果は・・・、他のどの国よりもバブルが膨張してしまったアイルランドは、当然のごとく、その反動が他のどの国よりも深刻で、冒頭のグラフのように他のユーロ圏諸国は株価が約50%減でとどまっているのに、アイルランドだけは80%以上も暴落してしまいました。
当然、実体経済への悪影響も深刻で、赤ん坊からお年寄りまで全人口400万人のアイルランドの失業者数はその10分の1の40万人を突破。かつて4%台で安定していた失業率12%超と未曾有の大不況です。物価指数は前年比でマイナス6%と深刻なデフレ状態。ユーロ圏の他の国々が立ち直りの兆しを見せいくつかの経済指標がプラスに好転している最近でも、まだアイルランドの小売売上や住宅価格などの主要経済指標はすでに不況だった前年からさらに1割以上落ち込むなど、目も当てられないような酷い状況です。
このような状況をみて、欧州の偉大なる実験「単一通貨ユーロへの通貨統合」は失敗だったとみる専門家や、当初の経済的発展・拡大を前提とするなら良い構想だったが、景気やマネーが収縮する局面においてはこのようにひずみが生じやすいため、将来的な懸念を指摘する専門家も増えつつあります。
国家主権の一部である通貨制度や金利操作は一度放棄してしまうと、その後、友愛精神で仲良く決められるものでは絶対にありません。経済の根幹を成す政策金利をどれくらい自国に有利な水準に誘導して、自国民の生活と経済的利益を守れるかどうか、エゴとエゴのぶつかり合いとなります。(執筆者:為替王 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
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最終更新:10月10日11時32分