きょうの社説 2009年10月10日

◎北陸新幹線認可 素早い決断に安堵の思い
 衆院選期間中に鳩山由紀夫民主党代表(現首相)が訴えた「政権公約」が守られた。北 陸新幹線長野−金沢(白山総合車両基地)の建築認可が暗礁に乗り上げていた問題で、前原誠司国土交通相が泉田裕彦新潟県知事の受け入れを待たずに認可に踏み切った。前原国交相はさらに、今年度補正予算の見直しで新幹線建設費に手を付けない方針も示し、北陸新幹線の整備を着実に推進していく意思をあらためて明確にした。これでひとまず、2014年度の金沢開業に向けて視界が開け、安堵の思いだ。

 建築認可に当たって沿線知事の同意を得なくても法律上の問題は生じないとはいえ、過 去にそうした例はない。自公政権が続いていたら、役所特有の「前例主義」を打ち破れず、事が長引くばかりだったかもしれない。一知事の「突出」に引きずられず、既に多額の投資が行われて工事が進んでいること、開業が遅れた場合の沿線全体への影響が大きいことに配慮した前原国交相の素早い政治決断を高く評価したい。

 もっとも、建築認可の問題がクリアされたからといって、「新潟問題」がすべて解決し たとは言えない。現行の整備手法を変えない限り、これからも新潟県に対して地元負担金の拠出を要請し続けなければならないからだ。

 北陸新幹線の整備を「人質」に取る形で自県の利益追求に走っているようにしか見えな い泉田知事の言動には、「問題あり」と言わざるを得ないものの、その主張に聞くべき点がまったくないわけではない。たとえば、「地元負担金の増額分の内訳を開示せよ」との要望については、これに応え、国交省側が新潟を含む沿線各県にきちんと説明し、理解を得ていく必要があるだろう。

 沿線各県の負担を可能な限り小さくするために、コスト縮減に努めるのも当然であり、 8日に行われた沿線各県知事と前原国交相との会談で泉田知事が言及した入札の問題に関しても、早急に調査に取り組み、改めるべき点は改めてほしい。ただし、疑問点が一つあるからといって、全体がおかしいということにはならない。

◎利賀ダム凍結 事業効果高く治水に必要
 国直轄の利賀ダム(南砺市利賀村)の事業凍結は、半ば予想されていたとはいえ、大き な衝撃である。利賀ダムが完成すれば、洪水被害が減るなど、事業費約1150億円の1・6倍の事業効果があるとされる。南砺市では昨夏にも集中豪雨の被害があっただけに、ダムの建設は安全・安心のために必要な支出だ。

 利賀ダムは、反対闘争のあった八ツ場ダムなどと違って、地域挙げて建設を熱望してき た経緯がある。同ダム建設促進期成同盟会の綿貫民輔会長は先の総会で、「マニフェスト(政権公約)を一歩も譲らないのは乱暴な政治だ」と強調した。国民新党の最高顧問でもある綿貫氏を先頭に立て、事業継続の理解が得られるよう国に働き掛けていきたい。

 前原誠司国交相は、利賀ダムなど国直轄の48事業について、今年度は新たな工事手続 きには入らず、一時凍結する方針を明らかにした。道府県が事業主体となり、国交省が補助金を出している87の「補助ダム」については、知事の判断を尊重するとしている。

 石川県では辰巳ダム(金沢市)や北河内ダム(能登町)、富山県では舟川ダム(入善町 )が補助ダムに相当するが、いずれも本体工事が始まっており、現時点で事業を中止すべき特段の理由はない。ただ、前原国交相が「補助を出すかどうか相談していただくこともある」としていることもあり、ダムの必要性についてあらためて十分な説明をしておく必要がある。

 国直轄のダム事業を一挙に凍結したのは、個別に精査する時間がなかったからだろう。 利賀ダムの場合、工事進捗率が事業費ベースで28・5%とやや低いのが気になるが、庄川下流は洪水の危機と背中合わせの地域である。

 04年10月の台風襲来時には一時、警戒水位を超え、流域の2800人に避難勧告が 出されている。ゲリラ豪雨が多発するなか、治水・利水面での効果を正しく評価してもらいたい。

 国交省は来年度のダム事業について、来年度予算案の提出時までに決めるというから、 年末までに予算計上の確約を取り付けたい。