母子の健康と代替医療−ホメオパシーと助産師−(若干修正有り)
前回のエントリでは、助産所の位置づけからくる代替医療の親和性、そこから現代的医療の忌避が結びつくのでは?という推測をしてみました。今回は助産所で扱われることの多い代替医療の代表格であるホメオパシーについて考えたり調べたりしたことを書いてみたいと思います。
ホメオパシーとは
ホメオパシーという言葉自体に馴染みのない方もいらっしゃると思いますので、その説明を紹介しておきたいと思います。(大まかすぎるので、どのようなものか詳しく知りたい方はエントリの最後にオススメリンク等を記しますので参考にしてくださいね。また、読み物ですので詭弁的表現も使用しております。あと、この文章は分かり易さ重視なので用語の定義等に若干のブレがあるかも知れません。ご了承願います)
ホメオパシーは日本語で同種療法として紹介される事もある代替医療で、約200年前にドイツの医師ハーネマンにより確立されたとされるものです。その思想の大元として、『症状を起こすものは同時に症状を取り去る作用を持つ』があります。この話を聞くとああ、なるほど『毒を以て毒を制す』とか『アレルギーの減感作療法』が思い出されますよね。自分みたいな面倒くさがり屋だとこの話と並べて書かれてしまうと短絡的に似たようなものであると結び付けてしまいたくなりますが、実際には似せて非なるものであるようです。
ホメオパシーではレメディという砂糖玉を治療(?)に用いるのですが、レメディは砂糖玉に病気と同種の症状を引き起こすとされる植物や鉱物若しくは昆虫などを希釈したお水をしみこませて製造されるものです。この希釈は単に薄めるというレベルではなく、元の物質がほぼ含まれないぐらいまで希釈している事が大きな特徴です。元々の物質が体になんらかの反応を引き起こし症状を改善させることを目的とする、『毒を以て毒を制す』、『減感作療法』とはまったく違った作用であるのです。
元々の物質を含んでいないのですから、当然
『プラシーボ』とは偽薬とも呼ばれるものです。それ自体はなんら薬理作用や治療効果を持たないものを服用した場合に、それが薬や治療器具としてもたらされた場合に身体的、生理的に顕れる効果として測定される事があります。その効果の事を『プラシーボ効果』と呼んでいます。この効果があるために、新しい薬を開発する場合、その新しい薬を飲んで貰うグループと外見上まったく同じニセ薬飲んで貰うグループと比較する二重盲検試験が行われているのです。この試験は薬を提供する側にもどちらが偽薬なのか知らされずに実施されます。薬を飲むグループと飲まないグループに分けてしまうと、本当は効果が無い薬でもなんらかの効果が測定されちゃう事が多いのです。だから、偽薬以上の効果が出ないと薬の効果として認められないのです。
ホメオパシーの方々が効果を喧伝する場合、このプラシーボ以上の効果を確認できる論文が求められます。しかし、現在の所十分な効果を確認できた信頼に足る発表は無いとされております。(巻末参考資料Skeptic's Wiki及びhttp://www.eurekalert.org/pub_releases/2005-08/l-ceo082405.phpホメオパシーの効果はプラシーボである等)
何にも含まれていないはずの砂糖玉に何故効果が期待できると彼らは主張するのでしょうか。ハーネマンの時代には希釈を続ける事で、元の物質が完全に含まれなくなるとは知られておりませんでしたので、何も含まないものが効果があるはずもないという疑問はでなかったでしょうが、現代ではそれが明白な事となりました。その為、新たに作用する理由を考えなければならなくなりました。それは『水は元の物質のパターンを記憶する』というものです。この考えはなにも証明されていない空論でしかありません。この考えは水からの伝言との親和性が高いため、相互補完されて用いられる場合があるようです。
ホメオパシーのレメディが効くという作用がプラシーボそのものであるのならば、それがプラシーボであると認めてしまえば効果がなくなってしまう事でしょう。『ホメオパシーはプラシーボだから安全である』と擁護できない所以は此処にあります。効果を高めるためには尤もらしい根拠と権威が必要になります。根本に根拠がないのですから、危険な領分(虚偽の説明や科学の否定等)に手を出してしまう可能性が高いのです。
うわぁ、長文になってしまったヨ。興味のない人は初めの4段落ぐらいまでで十分だと思います。(それでも長い?)カウンセリング的側面は彼ら自身の主張には無いので今回は言及しませんでしたが今後採り上げるかも知れません。
助産師とホメオパシー
(さて、どうやって話をつなげましょう・・・)
一部助産所が現代(的)医療に否定的な態度を示すことにホメオパシーが影響を与えていると考えるのかというと、日本の代表的ホメオパシー団体の一つ日本ホメオパシー医学協会が主張する内容にそれと対応する記述があるからです。
日本ホメオパシー医学協会ホームページttp://www.jphma.org/case/etc_1.html#dより引用
「なぜ、親たちが予防接種に疑問を持つのか 10の理由」(オーストラリア・予防接種・ネットワーク)
ワクチンは未だかつて(安全性の)検証がなされていない。
ワクチンには有毒な添加物と重金属を含まれている。
ワクチンは人間および動物のウィルスとバクテリアで汚染されている。
ワクチンは深刻な、即効性の副作用を引き起こす可能性がある。
ワクチンは深刻な、長期に渡る副作用を引き起こす可能性がある。
ワクチンは必ずしも感染症を予防するわけではない。
医師はワクチン商品の為のセールスマンで、もはや、その安全性と効果の信頼できる審判者(権威者)ではない
製薬会社が今日までのほぼ全てのワクチンの調査に対して資金をだしてきた。
医師たち、および医療従事者は、ワクチンの副作用(被害)についてめったに報告しない。
いくつかの子供の病気にかかることは有益な面があり、従って、子どもの病気を予防することは必ずしも子供にとって最善の策とは言えない。
これを載せといてワクチン否定でないと言えるのでしょうか?
また、会長である由井寅子氏は『予防接種トンデモ論』 という本を執筆しており、氏の講演会では予防接種に否定的な言説を行っていることが講演会の感想を読むとわかります。参考→ttp://www.homoeopathy.co.jp/event/ankeito_2007_12_21_okinawa.html
その一方、同ページ内には
実際に予防接種は、私たちの将来の健康に大きな影響を与えうるものです。私たちは、予防接種に反対する団体ではありません。行うかどうかは、個人が責任を持って、判断し、選択すべきものだと考えます。予防接種については、海外を含め「ホメオパシー医学」の200年以上の実践を通して、多くの事実が明らかになってきております。私たちは、学術団体として、「ホメオパシー医学」の見地から予防接種に関する事実や情報を公開し国民に提供することが、責務であると考えています。
予防接種を忌避するか否かは自己責任であると述べている文章が堂々と掲載されていたりします。しかし、同じページに事実として公開される情報は否定的なものばかりなのです。どらねこが助産所でホメオパシーが推奨される事に危険性を感じる理由の一つです。
どこから伝わってくるのだろう
出産にホメオパシーを使いたい、そういった利用者のニーズに応えるためにホメオパシーを導入したという助産師さんもいらっしゃるみたいですが、ホメオパシー団体からのアプローチも見過ごせないものがあるようです。
先ほど紹介した日本ホメオパシー医学協会は日本助産学会と共催で、助産師を対象としたホメオパシー講演会を行った実績があります。そこには参加者からのアンケートが掲載されていたのですが、どらねこはその内容に不安を持ちました。
ホメオパシーイベント体験談 ttp://www.homoeopathy.co.jp/event/ankeito_2008_3_16_kobe.htmlより抜粋(強調等はどらねこによる)
【2008年3月 第22回日本助産学会学術集会・ランチョンセミナー】(神戸)
●私は今、看護学生ですが、ホメオパシーということを学校の先生に教えてもらって初めて知りました。今回のランチョンセミナーを聞いてあらためて命の大切さやそのような治療法があることを知り、今後も深く学びたいと思いました。
●私自身、心に病気を抱えている身ですがどうも、薬では対処できていないように思います。薬を飲むとさらにしんどくなるというか・・・・そのようなことがお産の現場でも起こっているように思います。薬で解決できないことをどのような方法で解決するか・・・そんな方法はないと思って不全感を持ちながらお母さんたちと接してきました。でもホメオパシーの考えを知り、昔から言われている自然治癒力を高めることができると分かり希望をもてました。西洋医学や薬に頼らない自分の持っている力を信じるホメオパシーをもっと勉強していきたいと思いました。とらこ先生ありがとうございました。
●以前、助産院で研修させていただいた際に、見せてもらい大変興味を持ちました。本日のご講話も大変面白かったです。しかし、今は、総合病院に勤めているので、医師の前で、使っていくのは難しい気がします。また、周囲にホメオパシーを知っている方も居ないので、もっと知ってもらえたらいいなあと思いました。今は、自分自身よくわかっていないので、人に説明する能力がないのですが、今後、機会をみて、勉強していけたらいいなと思っています。
●人間本来の自己治癒力を高めていくことが大切だと感じました。今までは症状が出現すれば、すぐにおさえなければと薬に頼っていたので、一歩立ち止まって本当に必要なのか考えていこうと思います。
●昔の人の知恵に納得できた。心が病みそうになるときも有りますが自分を信じて今から自分自身の自然治癒力を高めて行きたい。
●代替補完医療に関心をもっていますので、ホメオパシーにも以前から関心をもっていました。今回はとても良いチャンスでした。
●症状が上がり強くでると悪くなってしまったように思っていましたが、そうして自分で自分を治そうとしているのだとお話からよく分かりました。
●いろいろ考えさせられました。同種療法について、納得しました。使ってみたいと思います。(自分でためしてみます。)
●大変興味を持ちました。ぜひ、自分の生活に周囲の人にとりいれられるよう、学習したいと思います。
●とても興味深く拝聴いたしました。 誰にでも使えることがよく分かりました。
●新しい視点でした。薬には抵抗があったのでとても興味をもちました。
看護学生が先生からホメオパシーを奨められているようです。助産師養成課程の実習カリキュラムにも助産所での実習があるようですので、当該実習先がホメオパシーを利用していた場合、影響を受けることがありそうです。学生のウチからホメオパシーが入りこむ下地が出来ているのかもしれません。薬に頼るなという考えに共鳴している様子が伺える感想が見られることが更に心配になります。
抗生物質や予防接種の普及は公衆衛生の向上と並び、母子の健康に大きく貢献してきたからです。現在でも産褥熱の発生を完全に無くす事はできておりませんが、産褥熱に罹っても死なないで済むのは抗生物質のおかげなのです。
同団体では、JPHMA提携助産院も紹介しております。
ttp://www.jphma.org/nintei/teikei_clinic/clinic_jyosan.html
養成施設から助産師へ、助産所(院)から妊産婦や地域に対する情報発信によってホメオパシーが広がっているのかも知れません。
少し纏まりを欠く文章となってしまい、申し訳ありません。次回は出産育児に代替医療を積極的に導入することの危険性を考えてみたいと思っておりますが、他にも書きたいことがありまだ未定です。ご意見ご感想は大歓迎です。
※参考になる資料へのリンク※
懐疑論者lets_skeptic様のブログ Skepticism is beautifulでの記事ホメオパシーFAQ がとても参考になります。
その1
http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20070501
その2
http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20070502/
その3
http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20070507/
その4
http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20070508/
その5
http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20070510/
同じく、let_skeptic様の所からプラシーボ効果について
http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20081218/p1
Skeptic's Wiki 項目:ホメオパシー
http://sp-file.qee.jp/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%A5%DB%A5%E1%A5%AA%A5%D1%A5%B7%A1%BC
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