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コラム

相場英雄の時事日想:20年前から“押し紙”はあったのだ……大手新聞社のタブーに迫る (1/2)

大手新聞社の間でタブーとされてきた“押し紙問題”。一部週刊誌が報じたため、そのタブーが明らかになりつつあるが、筆者の相場氏は学生時代のアルバイトで、この押し紙をつぶさに見てきたのだ。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 一部週刊誌が大手在京紙の“押し紙”問題について報じていた。この報道を受け、ある新聞が当該の週刊誌を相手取って訴訟を起こすなど、騒動は拡大する気配が濃厚だ。押し紙とは、新聞社が販売店に対し実売以上の部数を買い取らせている事象を指す。筆者は大手紙と販売店の現状を精査しているわけではないので、詳細を報じる立場にはない。だが、過去の経験、そして直近の状況を勘案すると、押し紙は明確に存在すると言わざるを得ない。今回は、この問題に触れてみたい。

広告を出しづらい

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 「あの問題がクリアにならない限り、新聞には広告を出しづらい」――。

 過日、筆者がある大手企業の広報部長と会った際のこと。開口一番、この幹部はこう切り出した。「あの問題」とは、ズバリ一部週刊誌が報じた押し紙のことだ。

 なぜこの部長が苦言を呈したかと言えば、「一部の株主が押し紙問題を契機に広告宣伝費にクレームを付け始めた」からだという。この大手企業は上場会社であり、海外機関投資家の株式保有比率も高い。言い換えれば、常に株主の厳しい監視の目にさらされているわけだ。

 同部長によれば、「週刊誌報道を契機に、一部の株主が広告宣伝費が適正に使われていないのではと言い出した」というのだ。株主の懸念は、押し紙によって水増しされた新聞に広告を載せること。つまり、新聞社の水増し部数によって換算された広告費を企業が払い続けることは、最終的に株主の利益を損ねることにつながる、換言すれば株主への背信行為を企業が犯しているという理屈だ。

 大企業と株主の間のこうした動きは、まだごく一部にすぎない。ただ、海外機関投資家がこの問題に強い関心を示しているのは間違いない。「韓国や台湾企業に比べ、ただでさえ業績回復のピッチが鈍い日本企業なのに、広告宣伝費で余計なコストを垂れ流しているのは看過できない」(米系の企業年金幹部)との発言は、実際に筆者が耳にした言葉だ。

 元来、横並び体質の強い日本企業だが、本業の立て直しとともにコスト削減を急いでいる向きは多い。こうした環境下、もの言う株主の突き上げに抗し切れず、大手紙に実売部数を明らかにせよと迫る企業は必ずや現れると筆者はみる。

 1社が声を上げれば、横並び意識の強い日本企業は雪崩をうったように新聞社に実売部数の開示を迫るだろう。昨年、大手自動車や電機各社が一斉に新聞広告の出稿を絞ったときと同様に。こうした現象は、ただでさえ広告収入の激減で経営の苦しい新聞各社に、更なる重圧となってのしかかるのは明白だ。

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