夜の女神ニュクスは地下の闇を表す神エレボスとともにカオスから生まれた原初神の1人です。
愛の神エロスの働きを受けて、兄弟のエレボスとギリシア神話史上最初の結婚をし、天上の光を表す神アイテルと下界を照らす昼の女神ヘメラ、そして冥府に住まう三途の川の渡し守カロンを生みました。
とりわけ娘のヘメラとは仲がよく、同じ館に住んでそれぞれの仕事を交替で果たしていました。
しかし、太古の女神達は、単為生殖だってお手のもの。
ニュクスは、この他にも自分1人の力で沢山の子供を生みます。
この父の居ない子供達は、殆どが闇の世界に属する暗く忌まわしい神ですが、中には人間に優しい眠りの神ヒュプノスや正義を嘉し悪を罰する因果応報の女神ネメシスなど、明るい側面を持つ神々も居ない訳ではありません。
姉のガイアや姪のテテュスと並んで、最初の世界作りに貢献した偉大なる太母、それがニュクスなのです。
<最強の仲裁役>
ニュクスは、人間と神々の世界に静寂に満ちた安らぎを齎す神でした。
彼女の支配する処に騒々しい争いは無縁で、人間達は如何に激しく戦っている最中であっても日が暮れれば武器を揮う手を止め、「夜の言う事を聞くのも悪くはない。また明日」と言って双方の陣に帰りました。
ゼウスでさえもこの女神の面前で、事を荒立てるのを憚り、彼女の息子ヒュプノスに対して烈火のごとく腹を立てながらも手出しを控えた事が在るほどです。
ヒュプノスはある日、ヘラに頼まれてゼウスを眠らせ、女神が継子ヘラクレスの乗った船に嵐を送って遥々コス島まで流してしまうのを助けたのですが、目覚めたゼウスが猛烈に怒って彼を引っ捕らえ、天から叩き落とそうとしました。
しかしいち早く逃れてきた息子の助命嘆願を受け入れたニュクスは、神々の王にも引けを取らぬその権威で息子の身を守り、ゼウスも彼女の不興を買うことを恐れてしぶしぶながら引き下がったのです。
普段は物静かで在りながら、いざという時には頼もしく守ってくれる存在。
真に持つべきものはこういう母ですね。
我が子を守りきることができず、その復讐にまた別の我が子を傷つける、そんな不毛な連鎖を繰り返したガイアと比べると、全く泣けてくるほどの違いではないでしょうか。
続く・・・
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