社説

景観保護判決/司法が道開く意味考えて 

 宮崎駿監督のアニメ映画『崖(がけ)の上のポニョ』で知名度が高まった瀬戸内海の景勝地・鞆(とも)の浦(広島県福山市)。県と市の埋め立て事業に反対する住民たちが起こした訴訟の判決で広島地裁が差し止めを命じた。

 景観の価値が大きい場所での公共事業は、たとえ道路整備など生活環境の改善が目的ではあっても、景観保護の観点から、事業の必要性が慎重に吟味されなければならない。

 そんなふうに諭してストップをかけた初めての司法判断を、まずきちんと受け止めてほしいのは、公共事業の設計、推進にかかわる行政の人たちである。「景観利益」の保護を前提に立案しなければならない時代になった。その自覚が欠かせない。

 公共事業の望ましい決め方、進め方をもう一度、見直すべきではないか。判決は地域にそう問い掛けてもいる。

 裁判所に判断を仰ぐ前に、住民と行政の対話によって是非を決定していくためには、現状のどんな改善が必要か。問題意識を深めたい。

 県と市は港の一部を埋め立てて湾を横切る橋(全長約180メートル)を建設する計画を立てた。反対する住民が2004年、国に県が申請する埋め立て免許の差し止めを求めて提訴した。

 「文化的、歴史的価値のある景観は、いわば国民の財産とも言うべき公益である。事業の影響は重大で復元は不可能だ」。判決はこう指摘して、鮮明な景観保護を打ち出した。

 最高裁が「良好な景観の恵沢を享受する利益」(景観利益)を法律上も保護すべきだと、初めての判断を示したのは06年。東京都国立市の高層マンションをめぐる訴訟の判決だった。今回の広島地裁判決はこれをよりどころにして、大型公共事業差し止めへの道を開いた。

 今回の判決で印象的なのは、住民生活の不便の改善と関連付けて細かに論じていることだ。

 道路の混雑は、橋を架けなくても山側のトンネル案で相当解消できるのでは。フェリー埠頭(ふとう)の整備は、埋め立て以外の方法もあるのでは。下水道整備は、ほかの工法でもできる可能性があるのでは…。

 提訴に至る長年のいきさつを別にすると、こうした検討点を住民と行政が丁寧に検証し合う確かな場があれば、景観を生かしたまちづくりの議論がもっと早く前進していたのかもしれないと思わせる。

 判決が要請する検証の視点は、歴史的な景勝地での景観利益の問題を離れて、公共事業の手掛け方全体に対する地域の合意形成の道筋を考えさせる。

 司法が道を開かなければ、新たな展開が生まれない場合も確かにあるが、分野によっては司法に委ねる前に取り組むべきことを考える姿勢が大事だ。

2009年10月05日月曜日

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