西日本新聞

鞆の浦判決 開発ありき変える契機に

2009年10月8日 10:53 カテゴリー:コラム > 社説

 開発優先で経済大国への道を走ってきた日本の現状を振り返れば、歴史的な景観を国民の財産と判断して公共事業に初めてストップをかけた広島地裁の判決を、多くの人は評価するのではないか。

 万葉集に詠まれ、人気アニメ映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台ともいわれる瀬戸内海の景勝地・鞆(とも)の浦(広島県福山市)の埋め立て架橋事業をめぐる行政訴訟のことだ。江戸時代の風情を残す風景を守ろうと、反対派住民らが県知事の埋め立て免許交付差し止めを求めていた。

 鞆の浦は、灯台の役目を果たした常夜灯、階段状の船着き場「雁木(がんぎ)」などが江戸時代の趣を伝える。「崖の上のポニョ」の宮崎駿監督も、その景観に魅了され、港を見下ろす小高い丘の民家で過ごしながら作品の構想を練ったとされる。

 一方で、道路は車の離合が困難なほど狭く、観光客らの車で渋滞も頻発。高齢化や人口減もあり、地元からは渋滞解消や利便性向上を求める声もあった。

 事業は、渋滞解消や地域活性化を目的にして、県と市が港の一部を埋め立てて駐車場やフェリー埠頭(ふとう)を整備するとともに、湾を横切る全長約180メートルの橋を建設することになっている。

 裁判で、反対派は常夜灯の残る港や古い町並みなどを一体的な景観ととらえて保護の必要性を訴え、県側は利便性向上を図る事業の必要性を主張した。

 これに対し、判決は「事業の必要性、公共性の根拠について調査、検討が不十分」と指摘したうえで「鞆の浦の景観は美しいだけでなく歴史的、文化的価値もあり、国民の財産ともいえる」との認識を示し、「事業が完成すれば復元は不可能」として住民の景観利益を認めた。

 景観利益をめぐっては、最高裁が2006年、東京都国立市のマンション訴訟判決で初めて認めたが、条例違反などがなければ利益侵害とはいえないと範囲を限定した。判例も少なく、法的権利として確立していないとの学説が有力だ。

 そうしたなか、今回の判決は「景観の歴史的、文化的価値」を住民の利益として認めた点で画期的といえる。政権交代で公共事業の見直しが進むなか、開発ありきの姿勢が抜本的に変わる契機となるよう、前向きにとらえたい。

 05年の景観法施行後、九州各地でも街の風情や自然景観を守る動きが活発化している。行政事件訴訟法の改正で地権者など当事者以外にも訴えの資格(原告適格)が拡大され、今後も同じような訴訟が起こされることは十分考えられる。

 景観論争では、とかく開発か保全かの二者択一を迫る議論になりがちだが、両立する道を探ることこそ重要だろう。

 鞆の浦の場合、生活実態として住民が不便を感じているのは事実で、反対派も山側にトンネルを通す代替案を行政に提案していた。景観を争いの種とせず、双方が地域のために生かす観点で話し合えば、おのずと道は開けるはずだ。


=2009/10/08付 西日本新聞朝刊=

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