2009年10月09日
伊藤 元重 | 東京大学大学院経済学研究科教授 | 経歴はこちら>> |
---|
テレビの番組を観ていると、同じ風景が何度も何度も出てくる。政治家などが一度失言すると、その同じ失言が毎日のように放映される。観ている側は、あの政治家はあの失言だけをしているような錯覚にさえ陥る。テレビが映し出すイメージは恐ろしい。
先日、学生と話していたら、「米国の産業は大変ですね」と言っていた。どうしてそう思うのか尋ねてみると、GMやクライスラーなどの自動車メーカーの惨状が毎日のようにテレビに出てくるので、それが米国の産業全体の状況であると勘違いしたようだ。
○「自動車」の苦境が米産業界の全体像ではない
しかし考えてみれば、自動車産業はどちらかと言えば米国の中では古い産業である。米国の強みは幅広い産業で国際的な競争力を持っている企業が多く存在することだ。
グーグルやアップルに代表されるIT分野、日本の企業の何倍もの規模の企業がひしめく医薬品産業、ウォルマートなどの大型小売業群、マクドナルド、コカコーラ、P&Gなどの世界的な消費財企業、エクソンモービルなどの石油メジャー、穀物商社、ハリウッドなど、実に多様な産業で世界有数の企業がひしめいている。
米国の産業のどこが衰退しているというのか。それでもテレビで苦境に陥っている自動車メーカーの映像を繰り返し見させられると、それが米国の製造業の代表的な姿であると勘違いしてしまうのだ。
→次ページに続く(海外メディアに触れる必要性)