ファイル共有ソフト「ウィニー」の開発者が逆転無罪となった。判決は開発者の創造性に一定の理解を示した。一方で違法コピーのはんらんは続いており、何らかの歯止めのルールが必要だ。
元東大助手の金子勇被告が開発したウィニーは、サーバー(ネットワークの中心となるコンピューター)に依存しないで利用者が互いに情報を交換できる新しい技術を応用している。専門家によると、ウィニーはこの分野の新ソフトとして高く評価され、インターネット電話や動画配信などへの応用が期待できるという。被告を有罪とした京都地裁判決も応用可能で有意義なソフトと認めている。
焦点は、金子被告がウィニーをホームページ上に公開したことをどう判断するかだった。多くの利用者が画像や音楽などの違法コピーに利用。一審は悪用を容易にしたと認定し、著作権法違反ほう助で有罪とした。
しかし、大阪高裁は悪用する人間が出ることを認識しているだけではほう助に当たらず、悪用を勧めて提供する場合に限ると、ほう助の成立要件を厳格に判断した。一審の有罪判決には各界から「ソフト開発を萎縮(いしゅく)させる」などの批判があり、高裁が技術開発の自由に配慮したといえそうだ。
だが、ウィニーによって何が起きているかをみれば、放置していい事態でないことも明らかだ。
著作権団体の調べでは、ネット利用者のうち一割がファイル共有ソフトを利用。ウィニーで流通したファイルのうち48%が著作物で、そのうち97%が著作権者に無断で流出させたものだった。
また、ウィニーを通じコンピューターウイルスに感染して起きる情報流出も深刻。昨年度は流出事件の37%を占め、神奈川県の県立高校の全生徒十一万人分の個人情報が漏れたケースもあった。
著作権法は、著作物を無断でネットに流すことを禁止しているが、実際に摘発される例は少なく、年間三、四件のペースにとどまっている。無法状態がいつまでも放置されてはなるまい。
ソフトの開発と公開に関してのルールづくりも検討したい。何よりも開発者自体が社会的責任を痛感してほしい。影響がはっきりするまで公開を限定するような慎重さが求められる。金子被告は「どう使うかは自由だが、ちゃんと使ってほしい」と述べている。利用者は著作権の重要性をいま一度理解すべきだ。
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