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きょうの社説 2009年10月9日
◎21美術館が開館5年 商店街救った文化の吸引力
金沢21世紀美術館が、開館から丸5年を迎えた。美術館の「冬の時代」と言われる中
でオープンしたにもかかわらず、1年目から見込みを大幅に上回る約157万人を集めた勢いはその後も衰え知らずで、5年間の来館者数は700万人超。今や地方の文化施設の「勝ち組」として全国区の知名度を誇る。文化で都心を活性化するという金沢市の「壮大な実験」は、今のところ成功していると言えよう。にぎわう美術館を見ながら、多くの市民が文化の持つ吸引力をあらためて実感しているのではないか。そうした思いをとりわけ強く抱いているのは、何と言っても周辺の商店街関係者だろう 。来館者の一部は、芸術鑑賞と合わせて買い物や飲食も楽しみ、商店街に新たな人の流れをつくり、大きな経済効果をもたらしている。特に、おひざ元の広坂、柿木畠は、それがなければ県庁や県警本部の「移転ショック」を払拭しきれず、今ごろは空洞化が相当に進んでいたかもしれない。 オープン当初は、やや離れている香林坊、片町、竪町などでは売り上げ増の実感が薄い とも指摘されたが、最近は「美術館と新竪町の個性的なショップをはしごする観光客が見られる」といった声も聞こえるようになってきた。商店街の登録店舗が、美術館主催の展覧会の半券や「友の会」の会員証を提示した客に割引などのサービスを提供する取り組みも、すっかり定着した感がある。 昨年来の不況で消費が冷え込んでいるにもかかわらず、多くの人を引き寄せ続けている 美術館に対する商店街の期待は、ますます大きくなっている。市には、美術館と商店街の連携をさらに強化する工夫を求めておきたい。 もちろん、美術館自体の集客力を維持するための努力も不可欠である。これまでは強み の一つであった「目新しさ」は、時間の経過とともに薄れていく。それを補うためにも、中身の濃い展覧会などを企画し、新規の来館者とともにリピーターを呼び込むことがより大切になってくる。現状に満足せずに、絶えず進化を目指す姿勢を忘れてはならない。
◎政府税調始動 「三頭体制」を機能させよ
鳩山政権の政府税制調査会が、2010年度税制改正について審議を開始した。新しい
政府税調は、党税調が実質的な決定権を持っていた自民党政権時代の税調のあり方を一新し、税制決定のプロセスを政治主導で透明にすることを第一の眼目にしている。税制の意思決定を政府税調に一元化する狙いはよいが、藤井裕久財務相が会長に、菅直人国家戦略担当相と原口一博総務相が会長代行に就く「三頭体制」がうまく機能するかどうか、不安も抱えながらのスタートである。鳩山由紀夫首相が諮問した案件は、ガソリン税の暫定税率廃止や個人所得課税の抜本改 革、環境税の導入など、利害調整が難しく一筋縄ではいかないものが多い。年末まで時間は多くなく、精力的な審議で多くの国民が納得できる改正案をまとめてもらいたい。 自民党政権下では、税制に精通した大物議員を中心にした党税調が絶対的な力を持ち、 最終決定は「インナー」と呼ばれる幹部会合で行われた。政府税調は首相の直属機関でありながら、税制の基本的な考え方を審議し、提言する役割にとどまっていた。 鳩山政権では、国民の目に審議過程が見えにくかった党税調は廃止され、大臣、副大臣 らで構成する政府税調が主導するが、実際の審議での課題の一つは、財務省と国家戦略室の役割分担が明確でなく、最終決定で混乱する恐れもあることだ。藤井氏と菅氏の呼吸合わせが鍵を握ることになる。 また、自民党時代はさまざまな業界の税制改正要望が直接、党税調に持ち込まれたが、 新体制では党を通じて要望を聞く仕組みにはなっていない。今後、多様な要望を吸い上げる方法を工夫する必要もあると思われる。 地方にとって、原口総務相が会長代行として政府税調をリードできる立場になったこと が大きい。原口氏は政府税調の運営に関して「国が『主』で地方が『従』ということにはならない」と述べている。国と地方が対等の立場で議論すべきということであり、自治体の要望が税調により反映されやすくなったといえる。
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