親権

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  1. 親権1 基礎知識
    1. 親権の内容
    2. 離婚後の親権・親権者
    3. 親権はどちらに
    4. 離婚後の親権者の変更
    5. 子の奪い合いと引渡請求3つの方法
    6. 人身保護法による子の引渡請求の実例

  2. 親権2 未成年者略取誘拐罪
    1. 夫が妻に無断で子を連去り未成年者略取誘拐罪に
    2. 未成年者略取誘拐罪の実例1 実子を連れ去りで逮捕・判決(長崎)
    3. 未成年者略取誘拐罪の実例2 実子を連れ去りで逮捕・判決(八戸)
    4. 未成年者略取誘拐罪の実例3 実子を連れ去りで逮捕・判決(徳島)
    5. 未成年者略取誘拐罪の実例4 実子を連れ去りで逮捕・判決(福岡)
    6. 未成年者略取誘拐罪の実例5 実子を連れ去りで逮捕・判決(最高裁)
    7. 未成年者略取誘拐罪の実例6 孫を連れ去った祖父母に執行猶予(最高裁)

  3. 親権3 関連条文
    1. 1刑法
    2. 2民法      親権・親権者  親権の効力  親権の喪失
    3. 3戸籍法 
    4. 4家事調停・審判
    5. 5人身保護法
     

親権1 基礎知識

     

親権の内容


民法が定める親権の主な内容


 民法 第4編 親族 第4章 親権 第2節 親権の効力 は親権の効力として、
  監護・教育の権利義務、居所指定権、懲戒権、職業許可権、財産管理権と代理権、共同親権者の一方が共同名義でした行為、親権者と子の利益相反行為、親権者の注意義務、財産管理の計算等を定めています。
  親権の中で争いが生じるのは子の監護権(離婚後、実際に未成年の子を引き取って育てる権利)ですが、監護権は親権の一部であり親権者に属するのが原則です。したがって夫婦双方が子供を引き取りたい場合は、親権を争うということになります。
  通常は、離婚に際し、子の成長には母親の愛情が欠かせないので、母親が子を引き取って育てます。


関連条文


第820条[監護・教育の権利義務]

  親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。


第824条[財産管理権と代理権]

  親権を行う者は、子の財産を管理し、又、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。但し、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

     

離婚後の親権・親権者


  離婚後の親権・親権者は下記のようになります。


親権者

  離婚に際し、子がいる場合、離婚後の子の親権者(法定代理人)を決めます。
  親権者は離婚届の記入事項です。
  婚姻中は父母の共同親権であったものが、離婚後は一方の単独親権となります。
  が、単独親権の現実は、親の権利よりも、むしろ親の義務が多く、親の負担も大きいことを考えておく必要があります。

関連条文


  民法 第4編 親族 第4章 親権 第1節 総則 は親権者について下記のように定めています。


民法第818条[親権者]

   成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。但し、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う。

民法第819条[離婚及び認知した場合の親権者]


 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母がこれを行う。但し、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父がこれを行う。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調(ととの)わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

     

親権はどちらに


親権は母親が断然有利、90%が母親に


親権の帰属先の考え方


  離婚の犠牲者である子の利益・福祉を最優先で考え、どちらで育てられた方が経済的・精神的に安定した環境であるかを考えるべきです。
  子供が幼児のときは、格別の事情がない限り、母親が親権者・監護者になるべきです。
  幼児期に必要な母親の愛情・細かい気配りは、夫の父母(祖父母)のそれでは代替えできない性質のものであるからです。
  裁判所での調停・裁判では、上記考え方を基準に個別の事情が判断されます。


親権の帰属先の状況

 昭和30年代までは、経済的に安定している父が親権者とされるケースが多かったのですが、昭和40年代に逆転、現在は母が親権者となるケ−スが9割となっています。
  親権の帰属が夫婦間の協議で話合いがつかない場合、家裁に離婚調停を申立て、調停で財産分与・慰謝料・養育費・その他の条件と一緒に親権を交渉することになります。


子への対応

  離婚を意識した母親が、子供に「もしお母さんとお父さんが別れたら、○○ちゃんはどっちの方に行く?」等という質問をしたり、母親が子供に夫の浮気の愚痴を言ったりするケースがありますが、こういう事は子供を悲しませ、動揺させるだけですから止めるべきです。
 離婚が本決まりになるまで、子供の前では、夫婦喧嘩・離婚の話は一切してはいけません


離婚調停成立又は24条審判では、親権の帰属先は母親が90%

  父母が子供の親権を当事者間で解決できず、調停・審判で争った場合、「父母のどちらが親権を取りやすいか」という問題があります。
  平成19年版司法統計によれば、離婚調停成立又は24条審判で未成年の子の親権者が確定した総数19,189件の内、父親2,312件(12%)、母親17,448件(91%)となっています。(構成比合計が103なのは、複数の子がいて父母双方に引き取られダブルカウントになる例が3%あるから)
  総数約2万件の各々に個別の事情があるはずなのですが、結果的には母親91%父親12%とという数字になっていて、圧倒的に母親有利です。
  裁判所の考え方の基本原則は、先ほど述べたように「子供が幼児のときは、格別の事情が無い限り、母親が親権者・監護者になるべき。幼児期に必要な母親の愛情・細かい気配りは、夫の父母(祖父母)のそれでは代替えできない性質のものである」と判断しているからです。
  父親が親権者となるのは、不可能ではないが、確率は12%しかなく、かなり厳しいと言えます。
 
※平成19年版司法統計 第22表 「離婚」の調停成立又は24条審判事件のうち未成年の子の処置をすべき件数--親権者別--全家庭裁判所


親    権    者
総数 (内母が
監護者)
(内父が
監護者)
定め無し
19,189件 2,312 (225) 17,448 (44) 23
(100%) (12%) (1%) (91%) (0.2%) (0.1%)
(注)「離婚」の調停成立又は24 条審判事件とは,調停離婚,協議離婚届出の調停成立又は家審法24 条による審判離婚の事件をいう。
     

離婚後の親権者の変更


離婚後の親権者の変更は家裁で


親権者変更の申立

 離婚後に、親権者・監護者として子供を引き取った側が、子供を暴行・虐待している、子供を祖父母に預け自分は他の場所で同棲している等の事実があれば、家庭裁判所に「親権者変更の申立」をすることが出来ます。

  協議離婚では、離婚協議の際に親権者を親の一方に定め、離婚届に記入すれば終わりですが、離婚後の「親権者の変更」は簡単ではありません。

  離婚後に「親権者の変更」について合意が出来たとしても、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てる必要があります。この申立は父母だけでなく子の親族も申し立てることが出来ます。

  家庭裁判所は、子の利益のため必要があると認めるときは、許可を出します。
  許可後、入籍届と調停調書謄本又は審判書謄本を市区役所に届出します。


関連条文

民法 第819条[離婚及び認知した場合の親権者]
 
 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

     

子の奪い合いと引渡し請求3つの方法


引渡請求3つの方法


子の引渡請求3つの方法


 別居中の妻のもとにいる子を夫が無断で奪い去るというケースがあります。
  この場合、妻は、1家庭裁判所の家事調停・審判2人身保護手続3民事訴訟の三つの方法で引渡を請求できます。
  裁判所は、引渡請求がいずれの方法であっても、
夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するか
特段の事情がない限り、妻(母)が養育する方が適切
顕著な違法性がないか
等の視点から個々の事例を判断します。

【 1.家庭裁判所の家事調停・審判 】

  民法766条で父母が協議離婚をする際の監護権の紛争は、家庭裁判所の管轄となります。
  これに基づき家庭裁判所は、家事審判法第9条[審判事項]乙類で「子の監護者の指定その他子の監護に関する処分」を行い、家事審判規則第53条で「審判において、子の引渡又は扶養料その他の財産上の給付を命ずる」ことができます。

  監護権の紛争は、家庭裁判所に申し立てます。
  手続的に一番簡単なのは、家庭裁判所に調停を申立て、調停前の処分として子の引渡を命令する処分命令書を出してもらいます。(家審規133)

  別居中の夫は、夫婦である以上、共同親権者でもあるのですが、長期間、妻が子を監護している場合は監護権は妻にあり、たとえ夫であっても子を無断で奪い去るという行為は、監護権の侵害とされます。


【子の引渡し請求は「子の監護に関する処分」として家事審判事項】
 親権者または監護者が親権者または監護者でない親に対し子の引渡しを求めることは、子の監護者の指定変更を伴わない場合であっても、独立して子の監護に関する処分として家事審判事項となりうる。(福岡高決昭52.03.29家裁月報29-11-87)


【 2.人身保護手続 】


  基本的人権を保障する憲法の精神に従い、不当に奪われている人身の自由を、裁判により、迅速且つ容易に回復させることを目的とした手続です。(人保1)
  但し、法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されている状況があり、他の方法ではその目的が達成できないことが明白である事が必要とされます。(人保2)
幼児の場合は、意志・感情の如何にかかわらず拘束となります
  又、救済の請求は、弁護士を代理人としてしなければなりません。(人保3)
  請求は、被拘束者、拘束者又は請求者の所在地を管轄する高裁若しくは地裁です。(人保4)
  人身保護・救済の請求は、「速かに裁判しなければならない」とされています。(人保6)

  子を奪われた親が、人身保護を請求した判例は下記のようになっています。

  両親ともに共同親権者である場合(離婚前)、拘束者による幼児の監護・拘束が権限なしにされていることが顕著であるといえるためには、その監護が請求者の監護に比べて子の幸福に反することが明白であることが必要。(最判平成5年10月19日民集47巻8号5099頁)

   子の監護権を有する者が監護権を有しない者に対し、人身保護法に基づき幼児の引渡しを請求する場合、幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、拘束の違法性が顕著である。(最判平成6年11月8日民集48巻7号1337頁)



【 3.民事訴訟 】


  裁判の専属管轄の原則から、家事審判事項は民事訴訟事項の対象外となります。
  人身保護手続のみ、家事審判と民事訴訟の二つの方法と併存する関係にあります。
  従って監護権の紛争を民事訴訟として扱うため、親権者の親権行使・監護教育を妨害しないように求める親権妨害排除請求とします。

     

人身保護法による幼児引渡請求の実例


人身保護法の適用と最高裁まで争った特異なケースとして紹介しています。
 実際には、子の奪いあいをしていても、人身保護法の適用には至らないケースがほとんどです。

人身保護法による幼児引渡請求を顕著な違法性で認容

【原審の認定した事実関係の概要】1999.04.26最高裁


平成11年4月26日最高裁判決及び新聞等より
夫 ― 40才。地方の医師。年収4400万円。
妻 ― 37才。

平成 6年 9月  夫婦が結婚。夫の実家である○階建てビルの○階に居住した。
            (○階医院、○階夫の両親、○階姉夫婦が居住)
平成 8年 1月   長男が誕生。
平成 9年12月  長女が誕生。

平成10年 7月  妻(上告人)と夫(被上告人)の両親及び姉との折り合いが良くなかったことから、次第に夫婦の仲も悪化し、妻は、二人の子を連れて夫宅を出て、○○県A市所在の婦人保護施設であるB寮に二人の子と共に入寮した。

平成10年 9月  妻は夫を相手方として○○家庭裁判所に離婚調停を申し立て。夫は妻を相手方として同裁判所○○支部に夫婦関係円満調整の調停を申し立てたところ、離婚調停は、同支部に回付された。

平成10年10月  夫が同支部に長男及び長女との面接交渉を求める調停を申し立てたので、以上の調停事件は全部併せて行われることとなった。(以下、各調停事件を併せて「本件調停」という。) 

平成10年11月12日  調停において夫が長男・長女と面接することを要望。

平成10年11月26日  妻は、調停委員から夫の心を和らげるために面接をさせたらどうかと勧められ、また、妻としても本件調停を円滑に進めるためには、夫の要求に応じることが必要であると考えたことから、これを了承した。
  そして、右期日において、調停委員を介した協議の結果、妻と夫の間で同年12月10日に○○市所在の児童相談所において夫と二人の子が面接することの合意が成立した。
  本件調停の次の期日は、12月24日と指定された。

平成10年12月10日 予定された面接は、長女が発熱したために中止された。

  妻と夫とは、改めて協議し、平成10年12月19日午後3時から妻の代理人である弁護士の事務所で面接することを合意した。

平成10年12月19日 午後3時 から弁護士事務所の打合せ室において夫と二人の子との面接が行われた。
  打合せ室は、外部に通じる扉を机で封鎖してあったが、夫は、午後3時30分ころ、ひそかに右机を除去して右扉を開け、二人の子のうち長男を強引に連れ去った。

平成10年12月24日  夫は本件調停の期日に出頭せず、 同日、本件調停のうち妻の申立てに係る離婚調停は不成立により終了した。

  妻は「家庭裁判所の調停中に夫が実力で長男を連れ去ったのは違法」として、人身保護法に基づいて長男の引き渡しを求めて、夫を相手に地方裁判所に提訴した。

  一審は夫勝訴、妻敗訴。

  最高裁(上告審)は「原判決を破棄する。本件を○○地方裁判所に差し戻す。」旨の判決を言い渡した。



【妻の主張】


○子供と暮らしている母子寮は、監護養育のための配慮が十二分に備わっている。
○月給約20万円で新たな就職先も内定した。
○将来、両親宅に隣接する妻の父所有の建物に居住する予定であり、養育環境が悪いとは言えない。



【夫の主張】


○私の年収は4400万円あり、施設よりも実家で過ごすのが子供にとって幸せだ。
○私にとって子供は生きがいだ。
○子供は私の父母や姉夫婦にもよくなついていて、情緒的に安定した何不自由ない暮らしを送っている。
○長男を自宅から引き離すなどということは到底考えられない。


【一審地裁判決 ― 妻の人身保護請求を棄却】


  は、医師であり、夫及びその親族の共有する○階建てビルの○階において医院を開業している。夫の住居は、右ビルの○階にあり、右ビルの○階に夫の両親、同○階に夫の姉夫婦がそれぞれ居住し、夫並びにその両親及び姉が長男(被拘束者)の監護養育に当たっており、監護養育状況は良好である。 

  は、現在、無職であって、長女と共に両親宅に戻り、両親のもとで生活しているが、将来は経理関係の職に就くことを希望している。
  妻は、長男の引渡しを受けた場合、当面、B寮において監護養育することを予定しているが、将来、両親宅に隣接する妻の父所有の建物に居住する予定である。

  原審は、右事実関係の下において、が長男(被拘束者)を連れ去った行為の態様は悪質であるが、夫並びにその両親及び姉による長男(被拘束者)の監護養育状況は良好であり、が長男の引渡しを受けた場合に同人を監護養育することを予定しているB寮は同人の監護養育にとって必ずしも良好な環境であるとはいえないことからすると、夫による長男の監護が同人の幸福に反することが明白であるということはできず、夫による長男の拘束が権限なしにされていることが顕著であるとは認められないと判断して、妻の本件人身保護請求を棄却した。


【平成11年4月26日最高裁判決―原判決を破棄。本件を原審に差し戻す】


  原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 
  前記事実関係によれば、妻と夫は、本件調停の期日において、調停委員の関与の下に、現に妻が監護している二人の子を日時場所を限って夫と面接させることについて合意するに至ったものであり、夫は、右の合意によって二人の子との面接が実現したものであるにもかかわらず、その機会をとらえて、実力を行使して長男を面接場所から夫宅へ連れ去ったのである。
  の右行為は、調停手続の進行過程で当事者の協議により形成された合意を実力をもって一方的に破棄するものであって、調停手続を無視し、これに対する上告人(妻)の信頼を踏みにじったものであるといわざるを得ない。
  一方、本件において、が長男を監護することが著しく不当であることをうかがわせる事情は認められない。

  右の事情にかんがみると、本件においては、夫による長男に対する拘束には、法律上正当な手続によらない顕著な違法性があるというべきである。長男が、現在、良好な養育環境の下にあることは、右の判断を左右しない。
 そうすると、原審の判断には人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

  論旨は理由があり、上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
  そして、前記認定事実を前提とする限り、上告人(妻)の本件請求はこれを認容すべきところ、本件については、幼児である被拘束者(長男)の法廷への出頭を確保する必要があり、この点をも考慮すると、前記説示するところに従い、原審において改めて審理判断させるのを相当と認め、これを原審に差し戻すこととする。


◆メモ
一審は、夫の行為の悪質さを認めながらも、
  「妻が監護養育を予定している母子寮は監護養育にとって必ずしも良好な環境であるとはいえないことからすると、夫による長男の監護が同人の幸福に反することが明白でない。夫による長男の拘束が権限なしにされていることが顕著であるとは認められない」
と判断し妻の請求を棄却しました。

最高裁は「本件においては、夫による長男に対する拘束には法律上正当な手続によらない顕著な違法性があるというべきである。長男が、現在、良好な養育環境の下にあることは、右の判断を左右しない。」と顕著な違法性を重視して、原判決を破棄・差戻としました。

調停委員の関与の下に合意された子との面接交渉の場所が、当初児童相談所、次いで弁護士事務所が指定された事から判断して、妻側は恐らく当初から夫の行動に不安を感じ警戒していたと思われます。
  妻・弁護士がここだったら大丈夫だろうと指定した弁護士事務所から幼児を連れ去った夫の行為は、「行為の態様は悪質」、「合意を実力をもって一方的に破棄するもの」、「調停手続を無視した」、「調停手続に対する妻の信頼を踏みにじった」などと裁判所から滅茶苦茶に非難され、顕著な違法性を認定されても仕方ないものがあります。
  又、幼児の年令(当時長男2才11ヶ月、長女1才)を考えると母親の庇護が絶対的に必要な状況であり、夫が幼児を奪い去る行為は暴挙に近いものがあります。

夫が本心から子供を大切に思い、離婚に際し子供を引き取りたいと希望する場合、繰り返しますが妻に無断で子供を連れ去る行為は絶対にしてはいけません。

    

親権2 未成年者略取誘拐罪


  1. 夫が妻に無断で子を連去り未成年者略取誘拐罪に
  2. 未成年者略取誘拐罪の実例1 実子を連れ去りで逮捕・判決(長崎)
  3. 未成年者略取誘拐罪の実例2 実子を連れ去りで逮捕・判決(八戸)
  4. 未成年者略取誘拐罪の実例3 実子を連れ去りで逮捕・判決(徳島)
  5. 未成年者略取誘拐罪の実例4 実子を連れ去りで逮捕・判決(福岡)
  6. 未成年者略取誘拐罪の実例5 実子を連れ去りで逮捕・判決(最高裁)
  7. 未成年者略取誘拐罪の実例6 孫を連れ去った祖父母に執行猶予(最高裁)
     

夫が妻に無断で子供を連れ去り未成年者略取誘拐罪に


夫の子の連れ去りの動機

  夫の一部の方は、「自分は父親なんだし、浮気をしている妻には、子を渡せない」と考え、子を夫の実家に連れ去るケースがあります。
  子供を連れ去る時点では、先のことは余り考えないで、復縁に応じない別居中の妻との話し合いのきっかけになればという程度の軽い気持ちで実行するようです。
  (浮気をする妻を許せないという反面、復縁を望んでいるというのは、矛盾しているようですが、自分が片親で育ったので子を片親にしたくない、子のために妻を許し復縁を望む、という優しい夫の方が男性のお客様には多いです。)


お客様の事例


(1)1週間後に、妻が、父親・男兄弟を引き連れて、子を取り戻しに来た。
(2)子を連れ去って3日後に家裁から呼出の連絡があった。
(3)1週間後に家裁に呼出され、事情を聞かれたが、怒られた。
(4)色々あったが、話し合いの結果、妻が子は離婚後の自立の妨げになる事、再婚の邪魔になることに納得し、妻が諦めた。
等の例があります。

  これらの事例から分かることは、妻が子を諦めた例は別にして、妻は第1に腕力のある親兄弟、第2に(身近に親兄弟がいない場合は)家庭裁判所に頼って取り戻しにくるという事です。
  又、家庭裁判所の対応が、子の奪い合いに関しては非常にスピーディであることです。
  その結果、軽い気持ちでした行為が「誘拐」と非難され、大騒ぎになります。



子の連れ去りは止めるべし


  夫としては、離婚紛争の内容がいかに自分に有利であり、言い分があっても、妻に無断で子供を連れ去る行為は止めておくべきです。
  妻を激怒させ、感情的にこじれるもととなり、調停委員・裁判官には怒られ、解決は長引き、且つ不利な結果に終わってしまいます。
  下記の人身保護法による幼児引渡請求を認める判例(平成11年4月26日)においても「家庭裁判所の調停中に実力で幼児を連れ去った夫の行為は違法」として夫が敗訴になっています。
  又、実子を未成年者略取誘拐で逮捕・判決の例を見ると、実子であっても連れ去りは夫が未成年者略取罪を適用される例が増えつつある事が分かります。

     

未成年者略取誘拐罪の実例1 実子を連れ去りで逮捕・判決


【実例1】2004.02.04 復縁を断られ実子を連れ去った容疑で男を逮捕


2004年2月4日長崎県。
夫 ― 20才。ガソリンスタンド従業員。
妻 ― 24才。

2003年8月−二人は昨年8月頃まで同居していた。

2004年2月2日−男は女性を○○町の路上に呼び出し、復縁を迫ったが、受け入れられなかったため、女性の乗用車から長男(生後4ヶ月)を連れ出し、自分の軽ライトバンに乗せて逃げた。
  長男は二人の間に生まれた子供だった。
  女性が「以前交際していた男が子どもを連れ去った」と警察に届け出た。緊急配備中、約一時間後に男が女性の長男を連れて勤務先のガソリンスタンドに現れたので、未成年者略取の現行犯で逮捕された。

     

未成年者略取誘拐罪の実例2 実子を連れ去りで逮捕・判決


【実例2】2004.3.9別居中の父親に実子略取誘拐を異例の認定。父親に懲役1年


2004年3月9日青森地裁八戸支部判決。新聞等より
夫 ― 33才。無職。東京都。
妻 ― --才。

2002年05月−夫は、妻に暴力を振るったとしてドメスティックバイオレンス(DV)防止法に基づき、6カ月間の接近禁止命令を受けた。

2002年09月−夫(被告)は、長男を連れ去った未成年者略取容疑で逮捕・送検されたが、この時は起訴猶予処分であった。

2002年11月22日午後−夫(被告)は、青森県八戸市内の保育園近くの歩道で、義母と一緒にいた長男(2)を抱きかかえ、6時間にわたり車で連れ去った。
  当時、長男(2)は別居中の妻が養育していたものであり、夫は実子の親権者でありながら、未成年者略取罪に問われた。

 久留島群一裁判長は、「再び犯行に及んでおり、規範意識が乏しいと言わざるをえない」と指摘、「長男は劣悪な養育環境に置かれていたわけでなく、連れ去りは親権者の権利行使には当たらない。親権者であっても未成年者略取罪の主体になり得る」として、懲役1年、執行猶予4年(求刑懲役1年)を言い渡した。

  地検八戸支部によると、親権者が実子を連れ去ったとして同罪の成立が認められるのは異例という。弁護側は「長男を自宅に連れ戻そうとした正当な親権の行使だ」として無罪を主張しており、控訴する方針。

  →その後仙台高裁・最高裁へ
   2005.12.06 最高裁 八戸事件の実父に未成年者略取罪成立

     

未成年者略取誘拐罪の実例3 実子を連れ去りで逮捕・判決


【実例3】2004.4.2 面会中に施設から実子を連れ去った父に執行猶予付判決


2004年4月2日徳島地裁判決。
内縁の夫 ― 46才。元県警警部補。現リフォーム業。
内縁の妻 ― 30代。

2003年12月−内縁関係の女性との間にできた実子の女児(3)(内縁関係の女性が親権者)が児童福祉施設に入所。

2004年1月6日−夫は、6日午後4時10分ごろ、児童福祉施設で、女児と面会。
  職員が目を離したすきに、女児をレンタカーで児童福祉施設から連れ去った。
  児童福祉施設からの捜索願を受けて捜査していた警察官が、この日午後、○○町の飲食店で、夫が女児と食事をしているのを発見し、追及したところ、連れ去りを認めたという。
  女児を保護した7日午後3時15分までの間略取したとして、未成年者略取誘拐容疑で逮捕した。
  杉田友宏裁判官は「自己中心的な犯行で、周囲に迷惑をかけた」と厳しく指摘しながらも、「子どもへの愛情に基づく行為である」などとして懲役1年6月、執行猶予4年(求刑・懲役1年6月)を言い渡した。

     

未成年者略取誘拐罪の実例4 実子を連れ去りで逮捕・判決


 元妻と同居する長女(9)を連れ去った弁護士を未成年者略取で逮捕


【登場人物】
元夫―47才。横浜市在住。第東京弁護士会所属の弁護士。未成年者略取で現行犯逮捕。
元妻―  才。福岡市在住。
長女― 9才。福岡市在住。小学校3年。親権者は元妻の父母。元妻らと一緒に暮らしていた。
元夫の父―73才。名古屋市在住。無職。同容疑で逮捕。
探偵の男2人―同容疑で逮捕。


【事件の概要】
  平成17年(2005年)10月5日、福岡県警は、離婚した前妻に引き取られ親権を失った小3の長女(9)を連れ去ったとして、 東京弁護士会所属の弁護士●●●●容疑者(47)(横浜市在住)を未成年者略取で現行犯逮捕、同容疑者の父親で無職の●●容疑者(73)(名古屋市在住)を同容疑でそれぞれ逮捕した。
  長女は元気でけがもないが、長女は「父親という認識はあるが、父親は嫌いだ」と話しているという。
  弁護士●●●●容疑者は、「娘を連れ戻しただけ」と供述し、容疑を否認。弁護士の父親(長女の祖父)●●容疑者は認めているという。

  捜査1課などは、弁護士●●●●容疑者らの依頼を受け、長女の行動調査など下準備の調査などを請け負い略取に関与したとして、福岡市南区内の探偵事務所に所属する47才と38才の男2人も同容疑で逮捕した。

  弁護士●●●●容疑者、父親探偵2人は、4日午前7時15分ごろ、福岡市南区の西鉄□□駅構内で、登校中だった弁護士●●●●容疑者の小学3年の長女を抱きかかえて、連れ去った。駅売店の従業員(小母さん)の証言では、女の子の「ギャーギャー助けて〜殺される〜」という絶叫で外に出てみたが、顔が良く似ていて親子のようなので、仕事に戻ったとの事。
  弁護士●●●●容疑者ら四人は、長女を駅横に駐車していたレンタカーに乗せ、四人で名古屋の父親●●容疑者の自宅まで連れ去った疑い。
  「登校してこない」と学校から連絡を受けた元妻が南署に届け、県警が5日夕、名古屋の祖父●●容疑者宅にいた長女を保護し、一緒にいた弁護士●●●●容疑者を現行犯逮捕した。

  弁護士●●●●容疑者は、東大経済学部、法学部卒業。1989年に司法試験合格。□□地裁判事補、□□地裁判事補などを経て現在は第東京弁護士会所属の弁護士。
  2003年に前妻と離婚状態となり、2004年9月に最高裁で離婚と前妻側への親権帰属が確定。2004年10月長女は元妻の父母と養子縁組、親権はこの父母にあった。長女は元妻らと一緒に暮らしていた。
  その後、弁護士●●●●容疑者は、元妻側と親権の変更などを求めて係争中であり、4日は双方の代理人による面接交渉の調停が予定されていた。



メモ


弁護士

 弁護士は、法律のプロとして、余りにも作戦・行動が稚拙でした。
  父親が子の親権・監護権を絶対手放したくなければ


第1 離婚前に妻に暴力を絶対振るわぬこと。生活費を渡すこと。離婚を避けること。


  妻だって離婚すると食うに困るわけで、夫が生活費をきちんと入れてくれて、子を可愛がっていて、暴力を振るわなければ、妻も多少のことは我慢して離婚には至りません。
  今回の場合、夫の暴力が原因で、夫に接近禁止命令が出されていたと聞くと、夫に同情する人がいなくなってしまいます。


第2 最高裁まで争う前に、どんな譲歩をしても離婚を避けるべきでした。


  法律が職業だから最高裁まで争ったのでしょうが、妻と子の心をつかむのは法律ではなく、情の部分です。裁判に勝つために法廷で争えば争うほど、長期になればなるほど、家族の人間関係は破壊されます。
  「郵便ポストが赤いのも♪♪電信柱が高いのも♪♪みんな私が悪いのよ♪♪」と早期に全面降伏して、離婚だけは避けるべきでした。
  提訴は相手の横っ面をひっぱたく様なものですが、思いやりのある優しい言葉とプレゼントは相手の心をつかみます。常日頃から妻子に思いやりのある優しい言葉をかけ、プレゼントをあげていれば、最高裁まで争うとか、長女に「父親は嫌いだ」と言われる事はありません。
  法律には書いてませんが、「植木には水が必要。妻子には優しい言葉とプレゼントが必要」なのです。
  離婚が避けられない場合でも、時間をかけて待っていれば、有利なチャンスは向こうから転がって来るものです。


第3 離婚後の親権者変更の攻め方


  お金をかけ、目的に沿った証拠収集が基本ですが、それでも父親が親権を取るのは難しいものです。親権者変更は、状況が固定化しないように、急がなければなりません。が未成年者略取はまずい。
  父親側の立場に立てば、2004年10月の養子縁組の経緯に、逆転勝訴できるヒントが隠されている気がします。
  再び調停・裁判をしているようですが、最高裁の判決後ホッとしているボロボロになった妻には、とことん嫌われます。


弁護士に贈る歌
  「もののふの矢橋
(やばせ)の船は速けれど急がば回れ瀬田の長橋」宗長

 「急がば回れ」の語源です。急ぐ時は、近道は危険でとかく失敗しがちなので、少し遠回りしてでも安全な道を通る方が結果的に早い。安全着実な方法を取れという格言。
  もののふは武士。室町時代、京の都に上るのに、滋賀県草津市矢橋港から大津市石場港に向かって出る琵琶湖内の水路「矢橋(やばせ)の船」は近道で早いけれど、比叡山から吹く風「比叡おろし」で危険なので、陸路の「瀬田の長橋(唐橋)」経由の方が遠いけど結果的に早い、の意。


探偵


  脱サラして開業後半年だそうですが、探偵の仕事も法律も素人。小学生の行動調査など危ない仕事の依頼は、プロは未成年者略取・身代金目的略取の犯罪に巻き込まれるのを恐れ、断るか、引き受ける場合は策を講じます。
  警察で供述する前に、正犯、共謀共同正犯、従犯、幇助、教唆等の意味の違い、罪の重さの違いを勉強しておきましょう。と言っても、もう手遅れでしょうね。
  探偵は、刑務所の塀の上(グレーゾーン)を突っ走っても、必ず塀の外に飛び降りないと、逮捕され、廃業の憂き目に会う悲しい職業です。最低限、刑法の勉強は必要です。

  それにしても4日早朝に事件発生。5日夕逮捕、発表ですが、警察・テレビ局は短時間で良く調べてあります。(元妻の情報提供にほとんど依存?)

     

未成年者略取誘拐罪 実例5 実子を連れ去りで逮捕・判決(最高裁)


 2005.12.06最高裁 八戸事件の実父に未成年者略取罪成立


※最高裁判所 「最近の主な最高裁判決」より

判例 平成17年12月06日 第二小法廷決定
      平成16年(あ)第2199号 未成年者略取被告事件


要旨妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ
    去った行為につき,未成年者略取罪が成立するとされた事例


内容
 件名 未成年者略取被告事件(最高裁判所 平成16年(あ)第2199号 平成17年12月06日 第二小法廷決定 棄却)
 原審 仙台高等裁判所 (平成16年(う)第69号)

主    文

本件上告を棄却する。
         
理    由


  弁護人○○○○の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
  なお,所論にかんがみ,未成年者略取罪の成否について,職権をもって検討する。

  原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件の事実関係は以下のとおりであると認められる。

  (1) 被告人は,別居中の妻であるBが養育している長男C(当時2歳)を連れ去ることを企て,平成14年11月22日午後3時45分ころ,青森県八戸市内の保育園の南側歩道上において,Bの母であるDに連れられて帰宅しようとしていたCを抱きかかえて,同所付近に駐車中の普通乗用自動車にCを同乗させた上,同車を発進させてCを連れ去り,Cを自分の支配下に置いた。

  (2) 上記連れ去り行為の態様は,Cが通う保育園へBに代わって迎えに来たDが,自分の自動車にCを乗せる準備をしているすきをついて,被告人が,Cに向かって駆け寄り,背後から自らの両手を両わきに入れてCを持ち上げ,抱きかかえて,あらかじめドアロックをせず,エンジンも作動させたまま停車させていた被告人の自動車まで全力で疾走し,Cを抱えたまま運転席に乗り込み,ドアをロックしてから,Cを助手席に座らせ,Dが,同車の運転席の外側に立ち,運転席のドアノブをつかんで開けようとしたり,窓ガラスを手でたたいて制止するのも意に介さず,自車を発進させて走り去ったというものである。
  被告人は,同日午後10時20分ころ,青森県東津軽郡平内町内の付近に民家等のない林道上において,Cと共に車内にいるところを警察官に発見され,通常逮捕された。

  (3) 被告人が上記行為に及んだ経緯は次のとおりである。
  被告人は,Bとの間にCが生まれたことから婚姻し,東京都内で3人で生活していたが,平成13年9月15日,Bと口論した際,被告人が暴力を振るうなどしたことから,Bは,Cを連れて青森県八戸市内のBの実家に身を寄せ,これ以降,被告人と別居し,自分の両親及びCと共に実家で暮らすようになった。被告人は,Cと会うこともままならないことから,CをBの下から奪い,自分の支配下に置いて監護養育しようと企て,自宅のある東京からCらの生活する八戸に出向き,本件行為に及んだ。
  なお,被告人は,平成14年8月にも,知人の女性にCの身内を装わせて上記保育園からCを連れ出させ,ホテルを転々とするなどした末,9日後に沖縄県下において未成年者略取の被疑者として逮捕されるまでの間,Cを自分の支配下に置いたことがある。

  (4) Bは,被告人を相手方として,夫婦関係調整の調停や離婚訴訟を提起し,係争中であったが,本件当時,Cに対する被告人の親権ないし監護権について,これを制約するような法的処分は行われていなかった。

  以上の事実関係によれば,被告人は,Cの共同親権者の1人であるBの実家においてB及びその両親に監護養育されて平穏に生活していたCを,祖母のDに伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り,保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから,その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり,被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される(最高裁平成14年 (あ) 第805号同15年3月18日第二小法廷決定・刑集57巻3号371頁参照)。

  本件において,被告人は,離婚係争中の他方親権者であるBの下からCを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって,そのような行動に出ることにつき,Cの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから,その行為は,親権者によるものであるとしても,正当なものということはできない。
   また,本件の行為態様が粗暴で強引なものであること,Cが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること,その年齢上,常時監護養育が必要とされるのに,略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると,家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。
   以上によれば,本件行為につき,違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり,未成年者略取罪の成立を認めた原判断は,正当である。
  よって,刑訴法414条,386条1項3号により,主文のとおり決定する。

  この決定は,裁判官今井功の補足意見,裁判官滝井繁男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。
  裁判官今井功の補足意見は,次のとおりである。
  私は,家庭内の紛争に刑事司法が介入することには極力謙抑的であるべきであり,また,本件のように,別居中の夫婦の間で,子の監護について争いがある場合には,家庭裁判所において争いを解決するのが本来の在り方であると考えるものであり,この点においては,反対意見と同様の考えを持っている。しかし,家庭裁判所の役割を重視する立場に立つからこそ,本件のような行為について違法性はないとする反対意見には賛成することができない。
  家庭裁判所は,家庭内の様々な法的紛争を解決するために設けられた専門の裁判所であり,そのための人的,物的施設を備え,家事審判法をはじめとする諸手続も整備されている。したがって,家庭内の法的紛争については,当事者間の話合いによる解決ができないときには,家庭裁判所において解決することが期待されているのである。
  ところが,本件事案のように,別居中の夫婦の一方が,相手方の監護の下にある子を相手方の意に反して連れ去り,自らの支配の下に置くことは,たとえそれが子に対する親の情愛から出た行為であるとしても,家庭内の法的紛争を家庭裁判所で解決するのではなく,実力を行使して解決しようとするものであって,家庭裁判所の役割を無視し,家庭裁判所による解決を困難にする行為であるといわざるを得ない。近時,離婚や夫婦関係の調整事件をめぐって,子の親権や監護権を自らのものとしたいとして,子の引渡しを求める事例が増加しているが,本件のような行為が刑事法上許されるとすると,子の監護について,当事者間の円満な話合いや家庭裁判所の関与を待たないで,実力を行使して子を自らの支配下に置くという風潮を助長しかねないおそれがある。子の福祉という観点から見ても,一方の親権者の下で平穏に生活している子を実力を行使して自らの支配下に置くことは,子の生活環境を急激に変化させるものであって,これが,子の身体や精神に与える悪影響を軽視することはできないというべきである。
  私は,家庭内の法的紛争の解決における家庭裁判所の役割を重視するという点では反対意見と同じ意見を持つが,そのことの故に,反対意見とは逆に,本件のように,別居中の夫婦が他方の監護の下にある子を強制的に連れ去り自分の事実的支配下に置くという略取罪の構成要件に該当するような行為については,たとえそれが親子の情愛から出た行為であるとしても,特段の事情のない限り,違法性を阻却することはないと考えるものである。

  裁判官滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
  私も,親権者の1人が他の親権者の下で監護養育されている子に対し有形力を行使して連れ出し,自分の事実的支配下に置くことは,未成年者略取罪の構成要件に該当すると考えるものである。しかしながら,両親の婚姻生活が円満を欠いて別居しているとき,共同親権者間で子の養育をめぐって対立し,親権者の1人の下で養育されている子を他の親権者が連れ去り自分の事実的支配の下に置こうとすることは珍しいことではなく,それが親子の情愛に起因するものであってその手段・方法が法秩序全体の精神からみて社会観念上是認されるべきものである限りは,社会的相当行為として実質的違法性を欠くとみるべきであって,親権者の1人が現実に監護していない我が子を自分の支配の下に置こうとすることに略取誘拐罪を適用して国が介入することは格別慎重でなければならないものと考える。
 未成年者略取誘拐罪の保護法益は拐取された者の自由ないし安全と監護に当たっている者の保護監督権であると解されるところ,私は前者がより本質的なものであって,前者を離れて後者のみが独自の意味をもつ余地は限られたものであると解すべきであると考える。とりわけ,本件のように行為が親権者によるものであるとき,現に監護に当たっている者との関係では対等にその親権を行使し得るものであって,対立する権利の行使と見るべき側面もあるのであるから,それが親権の行使として逸脱したものでない限り,略取された者の自由等の法益の保護こそを中心にして考えるべきものである。
 このような観点から本件を見るに,被告人は,他の親権者である妻の下にいるCを自分の手元に置こうとしたものであるが,そのような行動に出ることを現に必要とした特段の事情がなかったことは多数意見の指摘するとおりである。しかしながら,それは親の情愛の発露として出た行為であることも否定できないのであって,そのこと自体親権者の行為として格別非難されるべきものということはできない。
 確かに,被告人の行動は,生活環境についての判断・選択の能力が十分でない2歳の幼児に対して,その後の監護養育について確たる見通しがない状況下で行われたことも事実である。しかしながら,親子間におけるある行為の社会的な許容性は子の福祉の視点からある程度長いレンジの中で評価すべきものであって,特定の日の特定の行為だけを取り上げその態様を重視して刑事法が介入することは慎重でなければならない。

  従来,夫婦間における子の奪い合いともいうべき事件において,しばしば人身保護法による引渡しの申立てがなされたが,当裁判所は引渡しの要件である拘束の「顕著な違法性」の判断に当たっては,制限的な態度をとり,明らかに子の福祉に反すると認められる場合を除きこの種紛争は家庭裁判所の手続の中で解決するとの立場をとってきたものである(最高裁平成5年(オ)第609号同年10月19日第三小法廷判決・民集47巻8号5099頁,同平成6年(オ)第65号同年4月26日第三小法廷判決・民集48巻3号992頁など)。
 私は,平成5年(オ)第609号同年10月19日第三小法廷判決において,「別居中の夫婦(幼児の父母)の間における監護権を巡る紛争は,本来,家庭裁判所の専属的守備範囲に属し,家事審判の制度,家庭裁判所の人的・物的の機構・設備は,このような問題の調査・審判のためにこそ存在するのである。」として,子の親権をめぐる紛争において審判前の保全処分の活用を示唆された裁判官可部恒雄の補足意見に全面的に賛成し,子の監護をめぐる紛争は子の福祉を最優先し,専ら家庭裁判所の手続での解決にゆだねるべきであって,他の機関の介入とりわけ刑事司法機関の介入は極力避けるべきものと考える。
  このような考えに立つ以上,被告人もまたこの種紛争の解決は家庭裁判所にゆだねるべきであったのであるから,一方の親権者の下で平穏に生活している子に対し親権を行使しようとする場合には,まず,家庭裁判所における手続によるべきであって,それによることなく実力で自分の手元に置こうとすることは許されるべきことではないといえるものである。
  しかしながら,そのことから被告人が所定の手続をとることなく我が子を連れ出そうとしたことが直ちに刑事法の介入すべき違法性をもつものと解すべきものではない。
  そのような行為も親権の行使と見られるものである限り,仮に一時的に見れば,多少行き過ぎと見られる一面があるものであっても,それはその後の手続において子に対する関係では修復される可能性もあるのであるから,その行為をどのように評価するかは子の福祉の観点から見る家庭裁判所の判断にゆだねるべきであって,その領域に刑事手続が踏み込むことは謙抑的でなければならないのである。

  確かに,このような場合家庭裁判所の手続によることなく,他の親権者の下で生活している子を連れ出すことは,監護に当たっている親権者の監護権を侵害するものとみることができる。しかしながら,その行為が家庭裁判所での解決を不可能若しくは困難にしたり,それを誤らせるようなものであればともかく,ある時期に,公の手続によって形成されたわけでもない一方の親権者の監護状態の下にいることを過大に評価し,それが侵害されたことを理由に,子の福祉の視点を抜きにして直ちに刑事法が介入すべきではないと考える。

  むしろ,このような場合,感情的に対立する子を奪われた側の親権者の告訴により直ちに刑事法が介入することは,本件でも見られたように子を連れ出そうとした親権者の拘束に発展することになる結果,他方の親権者は保全処分を得るなど本来の専門的機関である家庭裁判所の手続を踏むことなく,刑事事件を通して対立する親権者を排除することが可能であると考えるようになって,そのような方法を選択する風潮を生む危険性を否定することができない。そのようになれば,子にとって家庭裁判所による専門的,科学的知識に基づく適正な監護方法の選択の機会を失わせるという現在の司法制度が全く想定していない事態となり,かつまた子にとってその親の1人が刑事事件の対象となったとの事実が残ることもあいまって,長期的にみればその福祉には沿わないことともなりかねないのである(このような連れ出し行為が決して珍しいことではないにもかかわらず,これまで刑事事件として立件される例がまれであったのは,本罪が親告罪であり,子を連れ去られた親権者の多くが告訴をしてまで事を荒立てないという配慮をしてきたからであるとも考えられるが,これまで述べてきたような観点から刑事法が介入することがためらわれたという側面も大きかったものと考えられる。本件のようなありふれた連れ出し行為についてまで当罰的であると評価することは,子を連れ去られた親権者が行為者である他方親権者を告訴しさえすれば,子の監護に関する紛争の実質的決着の場を,子の福祉の観点から行われる家庭裁判所の手続ではなく,そのような考慮を入れる余地の乏しい刑事司法手続に移し得ることを意味し,問題は大きいものといわなければならない。)。

  以上の観点に立って本件を見るとき,被告人の行為は親権者の行為としてやや行き過ぎの観は免れないにしても,連れ出しは被拐取者に対し格別乱暴な取扱いをしたというべきものではなく,家庭裁判所における最終的解決を妨げるものではないのであるから,このような方法による実力行使によって子をその監護下に置くことは子との関係で社会観念上非難されるべきものではないのである。

  このような考えから,私は被告人の本件連れ出しは社会的相当性の範囲内にあると認められ,その違法性が阻却されると解すべきものであると考える(私は,多数意見の引用する当小法廷の決定においては,一方の親権者の下で保護されている子を他方の親権者が有形力を用いて連れ出した行為につき違法性が阻却されないとする法廷意見に賛成したが,それは外国に連れ去る目的であった点において,家庭裁判所における解決を困難にするものであり,かつその方法も入院中の子の両足を引っ張って逆さにつり上げて連れ去ったという点において連れ出しの態様が子の安全にかかわるものであったなど,本件とは全く事案を異にするものであったことを付言しておきたい。)。

  以上によれば,本件被告人の行為が違法性を阻却されないとした原判決は法律の解釈を誤ったものであり,その違法は判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。

(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

正直、八戸事件の一報が「夫(33才)無職。東京都在住」とあったものですから、最高裁まで争うほど金銭的に余裕があったのかと、別の意味で驚かされました。
  裁判官今井功の補足意見,裁判官滝井繁男の反対意見は勉強になります。一読して意味の良く分らなかった人も、二三度読み返すと自ずと意が通じて、言わんとすることが分ってきます。
  今後は、「妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある子を有形力を用いて連れ去ると未成年者略取罪が成立する」と肝に銘じておかなければなりません。

     

未成年者略取誘拐罪 実例6 孫を連れ去った祖父母に執行猶予(最高裁)


 2006.10.12最高裁 孫連れ去り祖父母に実刑破棄・執行猶予判決

 新しい交際相手と同居を始めた次女のもとから孫娘を連れ去ったとして未成年者誘拐の罪に問われた会社役員(57)と妻(56)の上告審判決が12日、あった。最高裁第一小法廷(才口千晴裁判長)は「実刑は甚だしく重すぎて、破棄しなければ著しく正義に反する」と述べ、一、二審の懲役10カ月の実刑判決を破棄。改めて懲役10カ月執行猶予3年を言い渡した。最高裁が量刑不当を理由に実刑判決を破棄して執行猶予をつけたのは16年ぶり。


 判決によると、栃木県に住む会社役員夫妻は01年、札幌市で交際相手と同居を始めた次女を訪問。実家に戻るよう説得したが聞き入れないため、次女が離婚した男性との間にもうけた当時3歳の孫娘を連れ去った。


 一、二審は、祖父母である夫妻が孫娘を引き渡さず、違法状態が解消していないとの理由で実刑とした。しかし第一小法廷は「親族間の紛争で、将来的な解決の道筋なども勘案しながら、刑事司法が介入すべき範囲・程度を慎重に検討する必要がある」と指摘。
 夫妻を服役させれば「孫娘の福祉や次女の利益に反する結果を生むおそれを否定できない」と述べた。

 夫妻の長女によると、孫娘は実家から小学校に通っている。次女は電話で娘と頻繁に話し、たまには実家に戻るという。(朝日新聞)

 …孫娘が現実に祖父母の庇護下に置かれており、祖父母を刑務所に隔離すると孫娘・母親の利益に反するとの配慮で、執行猶予付き判決となりましたが、有罪です。

     

親権3 関連条文


     

刑法(抜粋)


刑法第217条 [遺棄]

  老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する。

刑法第218条 [保護責任者遺棄]

  老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

刑法第219条 [遺棄等致死傷]

  前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

刑法第224条 [未成年者略取及び誘拐罪] 

  未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

     

民法


 民法 第4編 親 族  第2章 婚姻  第4節 離婚  第1款 協議上の離婚  


民法第765条 [離婚届出の審査]
 離婚の届出は、その離婚が第739条第2項[婚姻の届出の方法に関する要件] 及び第819条第1項 [協議上の離婚の場合における親権者の決定] の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない。

 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときでも、離婚はこれがために、その効力を妨げられることがない。

民法第766条 [子の監護者の決定]
 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議でこれを定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
 前2項の規定は監護の範囲外では父母の権利義務に変更を生ずることがない。


  

 民法 第4編 親 族   第4章 親権   第1節 総則


第818条 [ 親権者]
 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。但し、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う。

第819条 [ 離婚及び認知した場合の親権者]
 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母がこれを行う。但し、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父がこれを行う。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

  

 民法 第4編 親 族   第4章 親権   第2節 親権の効力


第820条 [監護・教育の権利義務]
  親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

第821条 [居所指定権]
 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。

第822条 [懲戒権]
   親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
2 子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、家庭裁判所がこれを定める。
 但し、この期間は、親権を行う者の請求によって、何時でも、これを短縮することができる。

第823条 [職業許可権]
   子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
2 親権を行う者は、第6条第2項(未成年者にまだ営業に堪えない事跡がある場合)の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

第824条 [財産管理権と代理権]
 親権を行う者は、子の財産を管理し、又、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。但し、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

第825条 [共同親権者の一方が共同名義でした行為]
 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし、又は子のこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときでも、これがために、その効力を妨げられることがない。
 但し、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

第826条 [親権者と子の利益相反行為]
  親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、その一方のために、前項の規定を準用する。

第827条 [親権者の注意義務]
 親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意を以て、その管理権を行わなければならない。

第828条 [財産管理の計算]
 子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。但し、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益とこれを相殺したものとみなす。

第829条 [特例]
 前条但書の規定は、無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは、その財産については、これを適用しない。

第830条 [第三者が子に与えた財産の管理]
   無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。
2 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。
3 第三者が管理者を指定したときでも、その管理者の権限が消滅し、又はこれを改任する必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないときも、前項と同様である。
4 第二十七条乃至第二十九条の規定は、前二項の場合にこれを準用する。

第831条 [委任の規定の準用]
  第654条[委任終了時の緊急処分義務]及び第655条[委任終了対抗要件]の規定は、親権を行う者が子の財産を管理する場合及び前項の場合にこれを準用する。

第832条 [管理に関する親子間の債権の消滅事項]
   親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は、その管理権が消滅した時から五年間これを行わないときは、時効によって消滅する。
2 子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは、前項の期間は、その子が成年に達し、又は後任の法定代理人が就職した時から、これを起算する。

第833条 [子の親権の代行]
 親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。

  

民法 第4編 親 族   第4章 親権   第3節 親権の喪失


第834条 [親権喪失の宣告]
 父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができる。

第835条 [管理権喪失の宣告]
 親権を行う父又は母が、管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その管理権の喪失を宣告することができる。

第836条 [失権宣告の取消し]
 前二条に定める原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、失権の宣告を取り消すことができる。

第837条 [親権・管理権の辞任および回復]

  親権を行う父又は母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる。
2 前項の事由が止んだときは、父又は母は、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を回復することができる。

     

戸籍法


戸籍法第76条 [離婚の届出]

  離婚をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
親権者と定められる当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名
その他命令で定める事項

戸籍法第77条 [裁判上の離婚、離婚の取消]

 第63条の規定は、離婚又は離婚取消の裁判が確定した場合にこれを準用する。
前項に規定する離婚の届書には、左の事項をも記載しなければならない。
   1 親権者と定められた当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名
   2 その他命令で定める事項

戸籍法第77条の2 [離婚の際の氏を称する場合]

民法第767条第2項(同法第771条において準用する場合を含む)の規定によって離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

戸籍法第78条 [協議による親権者の届出]

 民法第819条第3項但書又は第4項の規定によって協議で親権者を定めようとする者は、その旨を届け出なければならない。

戸籍法第79条 [裁判による親権者の決定・変更等]

 第63条第1項の規定は、民法第819条第3項但書若しくは第4項の協議に代わる裁判が確定し、若しくは親権者変更の裁判が確定した場合又は父母の一方が親権若しくは管理権の喪失の宣告を受け他の一方がその権利を行う場合において親権者に、失権宣告取消の裁判が確定した場合においてその裁判を請求した者にこれを準用する。

戸籍法第80条 [親権・管理権の辞任または回復]

 親権若しくは管理権を辞し、又はこれを回復しようとする者は、その旨を届けなければならない。

     

家事調停・審判


民法第766条[子の監護者の決定]

     父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議でこれを定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべし、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
 前2項の規定は、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生ずることがない。


家事審判法第9条[審判事項]

   家庭裁判所は、左の事項について審判を行う。
 乙類
   民法第766条第1項又は第2項(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
   民法第819条第5項又は第6項の規定による親権者の指定又は変更


家事審判規則第52条[子の監護事件の管轄]

   婚姻の取消又は離婚の場合における子の監護者の指定その他子の監護に関する審判事件は、子の住所地の家庭裁判所の管轄とする。
 数人の子についての前項の審判の申立は、同項の規定にかかわらず、その1人の子の住所地の家庭裁判所にこれをすることができる。


家事審判規則第52条の2 [子の監護事件審判前の保全処分] 

 子の監護者の指定その他子の監護に関する審判の申立があった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、家庭裁判所は、当該審判の申立人の申立により、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。


家事審判規則第53条 [子の監護事件の審判]

 家庭裁判所は、子の監護者の指定その他子の監護について必要な事項を定め、又は子の監護者を変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずる審判においては、子の引渡又は扶養料その他の財産上の給付を命ずることができる。


家事審判規則 第54条 [前二条の審判と子の陳述聴取]

 

子が満15歳以上であるときは、家庭裁判所は、子の監護者の指定その他子の監護に関する審判をする前に、その子の陳述を聴かなければならない。


家事審判規則 第55条 [即時抗告]

 父、母又は子の監護者は、子の監護者の指定その他子の監護に関する審判に対し即時抗告をすることができる。

     

人身保護法


人身保護法


第1条 [目的]

 この法律は、基本的人権を保障する日本国憲法の精神に従い、国民をして、現に、不当に奪われている人身の自由を、司法裁判により、迅速且つ容易にせしめることを目的とする。

第2条 [救済の請求権者]
  法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
 何人も被拘束者のために、前項の請求をすることができる。

第3条 [代理人による請求]
 前条の請求は、弁護士を代理人として、これをしなければならない。但し、特別の事情がある場合には、請求者がみずからすることを妨げない。

第4条 [請求手続]
 第2条の請求は、書面又は口頭をもつて、被拘束者、拘束者又は請求者の所在地を管轄する高等裁判所若しくは地方裁判所に、これをすることができる。

第5条 [疎明する事項・資料]
 請求は、左の事項を明らかにし、且つ、疏明資料を提供しなければならない。
1.被拘束者の氏名
2.請願の趣旨
3.拘束の事実
4.知れている拘束者
5.知れている拘束の場所

第6条 [裁判の迅速化]
 裁判所は、第2条の請求については、速かに裁判しなければならない。

第7条 [請求の却下]
 裁判所は、請求がその要件又は必要な疏明を欠いているときは、決定をもつてこれを却下することができる。

第8条 [事件の移送]
 第2条の請求を受けた裁判所は、請求者の申立に因り又は職権をもつて、適当と認める他の管轄裁判所に、事件を移送することができる。

第9条 [迅速な準備調査]
 裁判所は、前2条の場合を除く外、審問期日における取調の準備のために、直ちに拘束者、被拘束者、請求者及びその代理人その他事件関係者の陳述を聴いて、拘束の事由その他の事項について、必要な調査をすることができる。
 前項の準備調査は、合議体の構成員をしてこれをさせることができる。


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