2009年05月05日

日本建築学会「建築雑誌」2009年1月号を読んで

建築学会の会報誌「建築雑誌」は何だか固いイメージがあって、今まではあまり読んでいなかったのだけれど、編集長が五十嵐太郎氏に代わってから少しずつではあるけれど読むようになってきた。今日も何の気なしに読んでいると、2009年1月号の特集「新景観」に面白い記事があった。

特集「新景観」と題されて、映画監督の庵野秀明氏と五十嵐太郎氏、そして石川初氏の対談が組まれている。庵野秀明氏と言えば、説明する必要はないだろうけれど「新世紀エヴァンゲリオン」の監督で、他にも「ふしぎの海のナディア」や「ラブ&ポップ」(この映画はアニメではなく、村上龍原作の小説の映画化で、村上龍氏が初めて自分の作品を自分以外の監督に任せたものとなった。当時僕は村上龍氏と庵野氏のファンだったこともあって、真っ先に観た)最近では「ヱヴェンゲリヲン新劇場版」でも活躍している。石川初氏は僕は知らなかったけれど、ランドスケープデザインでは有名な人らしい。

対談は庵野氏の好きな景観や原風景について、そしてそれらがアニメの風景としてどのようにつかわれているのか、というような話から始まって、現代の都市の風景・新興住宅地の風景について膨らんでいく。庵野氏の意見を簡潔に言うと「コンビナートや工場、電柱・電線のような、機能を追求したものが好き」というもので、少し前に流行った「工場萌え」のような展開に近いのだけれど、個性的だと感じるのは「無計画な街並みや新興住宅地のような『〜風』の街並みをゴチャっとした電柱や電線が緩和している」という意見。実は建築デザインにも少し触れているのだけれど、人が介在したことの痕跡が残るデザイン、というものに庵野氏は惹かれていて、その延長線上に「電柱・電線」を捉えているようだ。

電柱や電線、土木工作物に対する庵野氏の意見は万人受けするものではないけれど、僕はこの対談で「肯定する」ということがひとつのキーワードになっているのではないかと感じる。自分たちが生まれ育った風景、現在の生活圏の風景、現代都市の風景。「ひどい景観だ」と否定することは簡単なのだけれど、では「どのような景観がいいのか?」というと誰も明快な答えを持ち合わせていない。景観というのは当然「主観」が入るものだから、完全なものはない。だからこそ、ひとまず「肯定する」ことから始めることが重要なのではないか。良いか悪いかをとりあえず棚上げにしておいて、ひとまず肯定する。その上で、その次の景観について考えてみる。三者の対談では、そういう具体的な話にはならなかったけれど、この対談を読んで、僕はとりあえず「肯定する」ことから始めてみたいと思った。


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sttts
posted at 23:59
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