――容疑者自身の誤った「自白」も問題にしています。捜査側の誘導尋問をなくすには、どうしたらいいのでしょうか。
シェック 虚偽の自白を避けるには、取り調べのビデオ録画が最良の手段です。犯人か捜査関係者しか知り得ない内容を、尋問側が容疑者側にほのめかしていないか、チェックしなければいけない。
米イリノイ州では、死刑囚の冤罪が明らかになって、計171人の死刑囚が減刑・恩赦になりました。そのため、州では取り調べのビデオ録画を義務づける法律をつくったのですが、当時、州議会議員として法律の制定に奔走したのが、オバマ大統領だったということはあまり知られていません。
――本に登場する捜査関係者は、無実の人を刑務所に入れながら、誰も謝罪したり、責任を取ったりしていません。
シェック 米国では、日本のように「恥」の文化もありませんしね(笑)。第一に、人間の習性として、過ちを認めたくない。次に、被害者への配慮です。犯罪に苦しむ人に「我々が犯人だと思い、あなたが極悪人だと思っていた人は間違いでした」とはなかなか言いづらい。その気持ちはよく分かる。
冤罪が発覚したときの被害者の心理的負担は大きいだけに、我々のプロジェクトでは、新聞に出る前に被害者に伝えるよう捜査当局に求めています。
そして、最後に、現在の捜査への影響でしょう。検察側は、現在進行中の法廷で、検察側証人や鑑定結果に対する信頼性を損なうことを恐れます。米テキサス州ダラスでは、証拠物が保存されていたため、検察側が積極的に過去の捜査を検証した結果、多くの冤罪が発覚しました。信頼が落ちたかというとその逆で、間違いもきちんと認めることで、地域での評価が高まりました。
――各章の一つ一つのエピソードにドラマが詰まっていて、それぞれで一冊の本が書けそうな気がします。
シェック 作家のジョン・グリシャムは、ある章で取り上げた事件を実際に本にしています。だからこそ私たちの本も10年近く、出版され続けているのだと思います。出版時から変わったこともあるし、変わっていないこともある。
改訂版を出すことも検討しています。それと、私とピーター・ニューフェルド氏は弁護士ですが、ジム・ドワイヤー氏は、ピュリツァー賞を2度受賞したことがあるベテラン新聞記者です。彼がいなかったら、こうした読み物にはできなかった。
――そもそもなぜ、弁護士を目指したのですか。
シェック 奨学金であこがれのカリフォルニアの大学に行けることになったから(笑)。それはさておき、公民権運動が激しかった60年代に育ったからでしょう。ロバート・ケネディ上院議員の選挙運動にも携わりましたが、暗殺されてしまい、政治には幻滅しました。法律が社会を変える手段でした。
(聞き手 ニューヨーク支局 田中光)