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著者の窓辺

[第10回]主観より科学的根拠、捜査も変わった

「無実を探せ! イノセンス・プロジェクト DNA鑑定で冤罪を晴らした人々」 Actual Innocence

バリー・シェック Barry Scheck イノセンス・プロジェクト共同代表

 

被害者の思いこみによる目撃証言、自称専門家によるずさんな鑑定結果、人種差別に基づく偏見、やる気のない弁護士……。著者らニューヨークの弁護士が立ち上げたチームは、DNA鑑定を駆使して冤罪を晴らしてきた。その原因を一つ一つ描いたのが本書だ。なぜ無実の人が刑務所に入ってしまったのか。壮大な検証ドキュメントだ。

バリー・シェック氏 photo: Mari Sakamoto

――「イノセンス(無実)・プロジェクト」の結果、これだけの冤罪が発覚するとは驚きです。取り組みを始めたときに予想していましたか。
シェック
 DNA鑑定という武器を手にしたとき、とても重大な結果をもたらすことだろうと、私は最初から思っていました。出版されたあとも増えて、無罪が明らかになったのは242人になりました。
問題は、これまで鑑定で科学的と思われていた証拠も、実はきちんとした根拠が定まっていなかったことなのです。例えば、銃弾に残る線条痕。それとどこまで一致すれば、犯行に使われた銃とみなせるのか。その判断には、刑事の経験という不確かな根拠がものを言ってきました。
指紋もそうです。スペインのテロ事件の容疑者として逮捕された無実の人も、指紋が決め手でしたが、あくまでも、データベースと照合したときに「比較的近い」というあいまいな理由でした。
事件が大きければ、なんとかして犯人を挙げなければという圧力が高まり、主観が働いてしまいます。DNA鑑定が導入されたことで、主観を排した科学的根拠を導入する動きが相次いでいます。捜査のあり方が大きく変わりました。

無実を助けるだけでなく本当の犯人を捕まえる

――捜査当局の対応は。
シェック 
変わってきました。最初の頃は、「どうせ弁護士が言っているだけ」という対応でしたけど。検察側も弁護側もそして裁判所も、無実の人が刑務所に入れば、本当の犯人は野に放たれたままになり、さらなる犯行を繰り返す恐れがあるという点では一致しているのです。
DNA鑑定で242人を無罪にした過程で、105人の本当の犯人が捕まりました。だからこそ、17年にわたる我々の活動は、日増しに捜査側の協力を得られるようになりました。冤罪を晴らす活動は、犯罪に甘いという批判を受けがちですが、社会の安全につながると理解を得られるようになりました。

 

――冤罪が起きた原因として、被害者の目撃証言のあいまいさや誤解にも焦点を当てています。日本でも目撃証言はとても重視されているだけに、気になります。
シェック
 被害者は、その時は、うそをついているわけではありません。被害者も間違ってしまう、思いこんでしまう、という事実を直視すべきです。被害者に、捜査線上で浮かんだ容疑者の写真を、ほかの人物の写真と交ぜて見せるとき、「この中には、容疑者がいない可能性があります」と告げるだけで、間違いが起きる確率を小さくできるという研究があります。要は捜査当局のやり方次第です。

(次ページへ続く)

バリー・シェック

1949年生まれ。60歳。
エール大、カリフォルニア大バークレーなどを経て、弁護士。ニューヨークのヤシーバ大のカードーゾ・ロー・スクール教授。
92年にピーター・ニューフェルドとともに「イノセンス・プロジェクト」を立ち上げる。
無罪を勝ち取ったO・J・シンプソン裁判の弁護チームにも参加した。

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