小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

スーパー雑草と日本の農業

 米国のABCのニュース番組をネットでチェックしていたら、最後にスーパー雑草(superweeds)について報告がなされていました。

 場所は、アーカンソー州のマーベル。一面の綿花畑です。そこで何が起きているかといえば、農薬が全然きかないpig weeds というスーパー雑草が繁茂しているのだとか。1日に3インチも伸び、茎はバットのように固いと。農夫のような人々が、手に鎌を持って1本1本刈っています。


 スーパー雑草という言葉を聞いたことがありますか?

 


 日本でもつい先日、NHKが取り上げていました。9月7日に、クローズアップ現代で、水田に生い茂るオモダカが紹介されていたのでした。

 そうです、スーパー雑草というのは農薬が効かないのです。農薬が効かないからこそ物理的に引き抜いたり刈ったりするしかない、と。でも、刈るのであれば、何も手で刈らなくても機械でまとめて刈ればいいものをと、私は一瞬思ってしまいました。大規模な農地と機械化が特徴であるアメリカの農業なのに、何故人が1本1本スーパー雑草を刈っているのか?

 それは、機械で刈るとなると、大事な綿花も一緒に刈ってしまうからなのではないでしょうか。不必要な雑草だけを選りわけて刈る必要がある、と。

 いずれにしても、今アメリカでは、スーパー雑草が大繁殖しているのです。

 ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、アーカンソー州、テネシー州、ケンタッキー州、ミズーリー州、と。

 あまりのスーパー雑草の繁茂ぶりに、農地を手放してしまうケースもあるとか。

 では、一体、どうしてこんなことなことが起きているのか? さあ、何故でしょう。

 年配の人なら想像がつくかもしれません。我々、小さな時に習いました。農薬を使い過ぎると、だんだん農薬が効かなくなる、と。農薬が効かなくなるというよりも、農薬に耐性を持つ植物に変異する、と。

 では、アメリカの農家は農薬を使い過ぎたのか?

 アメリカの化学会社は、こんなことを言って遺伝子組み換え作物を宣伝しました。「遺伝子組み換え作物にすれば、農薬を撒く回数も少なくなるから‥」、と。そして、雑草を除去する手間がなくなるから仕事が楽になる、と。

 ただ、遺伝子組み換え作物の種子は、農薬もセットになって販売されているのです。そして、その農薬を散布すれば、雑草は生えないが、栽培される本体の植物が枯れることは決してない、と。何故かといえば、その農薬に耐性を持つように遺伝子操作がなされているからです。

 しかし、一部の人が予想したとおり、遺伝子操作された植物が大量に栽培されるようになると、当該農薬に耐性を持つ雑草が出現してしまったのでした。

 結果、雑草を刈る手間を省く目的だったのが、却って雑草を刈る手間を増やしてしまった、と。

 本日のABCのニュースは、ここまでの説明をすることはありませんでした。単にスーパー雑草が大発生して、農家は大変な状態になっています、というところで終わりです。遺伝子操作作物という言葉も出なければ、遺伝子操作作物の種を販売している化学会社の名前も出てきません。

 何故、原因について考えないのでしょう。

 本当は、薄々何かを感じているわけです。ですが、因果関係が必ずしも科学的に確認されていないからだ、と。

 では、何故科学的に因果関係が確認されていないのか?

 それは、そのメーカーが、政府などに有形無形に働きかけているからでしょう。

 よく、世界の食糧問題を解決するためには、遺伝子操作作物を世界にもっと普及させることが必要だ、などと言われることがあります。しかし、そうした戦略に乗ると、単にメーカーを儲けさせるだけの話なのです。しかも、今回のニュースのように、却って農家には大きな被害がもたらされる、と。


 ここで私は、日本の農業について少し考えてみたいと思います。

 日本の農業を採算の合うものにするためには、農地を集約化し効率を上げるべきだ、などとよく言われます。要するにアメリカ式の農業を目指せ、ということです。

 しかし、その作戦は完全に間違っています。そうした作戦を採用しても、あの巨大な農地を保有するアメリカの農家に日本の農家が勝つことはないでしょう。ここは、アメリカと逆の道を歩むのです。遺伝子操作作物は一切育てない。農薬の使用も極力抑える。自然の摂理を重視した農業に再生させる。そうすると、自然にトキが繁殖できるような水田が出来上がるということです。トキが食べる餌がその水田に生息しているということは、そこで採れるお米が安全である証拠です。そうした安全でおいしいお米を供給すれば、少しくらい価格が高くても必ず需要はみつかると思われるからです。

 日本政府は、自然の摂理を重視した農業を日本の農家が営んでいることを海外に大々的にPRすべきではないでしょうか。

  以上

クルクるアンケート

10月02日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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