がんばれ、ウィルコム

works — yam @ October 4, 2009 6:22 pm

w-sim

ウィルコムの経営が苦況にあるというニュースが伝えられています。

同社の戦略技術「Willcom Core Module」の最初の製品である、W-SIMカードの開発に参加したのは、2003年のことでした。

「えーと、いきなり電話でお仕事を依頼しても、いいものなのでしょうか」という、とても遠慮がちな電話をいただいたときから、プロジェクトが始まりました。まだDDIポケットという社名だった頃のことです。

電話をくれたのは、社内で「ミスター104」と呼ばれる企画担当者でした。思い立ったら番号案内で調べて、(遠慮がちな電話を、遠慮なく)どこへでもかける、そんなパワフルな人でした。

彼が企画していたのは、アンテナや通信回路など、いわばPHSの心臓部を内蔵する超小型の通信カード。家電や生活用品にそのカードを入れれば、身の回りのものがみんな通信機能を持つようになる、そんなユビキタスな技術思想が根底にありました。PHSという小型省電力の通信方式の未来を見据えた企画です。

この技術の普及にはデザインが欠かせないと彼は考えて電話をくれたそうです。プロジェクトに参加してからは、メーカーの技術者も含めて、通信カードのサイズや構造、抜き差しの方法などを、さまざまな応用の可能性に照らし合わせながら議論し、図面を描き、何度も試作品を作りました。こういう基盤技術開発に関わらせてくれてたことは、私にとってもたいへん貴重な体験でした。

写真は実際に発売されているPHS通信モジュール、W-SIMカードです。

カードの上部にグレーの円筒が見えると思います。アンテナをカバーするこの部品は、柔らかいゴム素材で作られていて、抜き差しする時のつまみとなり、カードを落としたときのバンパーの役割もします。

実はこれを提案をした日の夜、酔った開発の責任者に「あんた、本気であんな提案するつもりか」と詰め寄られました。ここまで小さくするために開発チームがどれだけ苦労したか知っているのかと。私がこの小さなゴムの突起を加えたために、カードの幅が0.1ミリ大きくなるのですが、百分の一ミリ単位で小型化に取り組んできた彼らにとっては、0.1ミリというのは、とんでもなく大きな数字だったのです。

それでも私は、使う人の手触りのために、その0.1ミリをくださいと訴えました。技術者達もやがて理解してくれ、後にはこの小さな手触りを実現する為に、大変な努力をしてくれることになります。

社名がウィルコムになった2005年に、W-SIMカードは商品化されました。ヒット商品となったスマートフォンW-ZERO3にも搭載され、お店のレジ端末やカーナビ用にも通信ユニットとしても使われるなど、「元気なウィルコム」の象徴的な存在になりました。

しかし先端技術というのは恐ろしいもので、現行のPHS技術そのものが、通信速度などで競争力を失いつつあり、次世代のPHS通信方式への巨大な設備投資にウィルコムは苦しんでいます。

PHSという日本独自の技術のこだわって、ユニークな視点で市場開発に挑んできた、率直でバンカラな社風のウィルコム。生き残って欲しいものです。

1 Comment »

  1. おはようございます。どこの業種・業界も、しかも大手といわれるような大企業でさえ、統廃合されていくこの世の中。日本という国はどこへ向かっていくのでしょうか?その中で自分のような小さな末端の仕事をしている人間はいかにして生きていけるのか・・・。考えさせられます。もう少しゆっくりと時代が進めばいいのに。

    Comment by powaro — October 5, 2009 @ 10:03 am

RSS feed for comments on this post. TrackBack URI

Leave a comment

Copyright(c)2009 山中俊治の「デザインの骨格」 | All rights reserved.