九州・全国
死刑是非 裁判員なら… 経験者・動機面など同情も 候補者・人あやめた点同じ 長崎市長射殺 二審判決
長崎地裁で死刑判決が出た長崎市長射殺事件。29日の福岡高裁判決は無期懲役だった。殺人事件は裁判員裁判の対象。今後同様の重大事件が起訴されれば、市民から選ばれた裁判員が極刑の是非を審理することになる。裁判員は何を重視し、どう判断するのか。九州の補充裁判員経験者や裁判員候補者に聞いた。
「あの経験から、死刑判決は厳しく無期が妥当だと感じた」と、福岡地裁であった殺人事件の裁判員裁判で補充裁判員を務めた福岡県内の男性。個人的な恨みが動機で、被害者が1人という点が重いと考えたという。
補充裁判員を務めた事件は70代の父親が長男(49)を刺殺し、懲役6年の実刑判決だった。「遺族心理は相当考慮する。人生を破壊されたのだから」と男性。一方、被告の生い立ちや動機面で同情すべき点もあり、更生の可能性も感じた。
被害者と加害者の間に立ち、心理的に重い負担が掛かる裁判員。まして死刑が問われる事件ならば、その負担も極大化するとみられている。「1人の人生、命を数日の審理で判断していいのか。証拠に不足がないのか」
補充裁判員を経験してから、動機や背景など事件の内容にも注目するようになった。遺族の心情を考慮し、加害者が本当に罪に向き合うには、死刑ではなく、終身刑の創設が必要だと考えるようになったという。
一方、裁判員候補者である長崎県大村市の50代男性は「1人でも2人でも人をあやめた事実は同じ。被告にくむべき情状や理由があれば死刑回避もあり得るが、今回の事件にはない」と死刑判決が妥当との考えだ。ただ「死刑執行後に被告に有利な証拠が出てきたら後悔するかもしれない」。
同じ不安は福岡市の女子大学生(21)も隠さない。昨年、候補者に選ばれたとき積極的だった気持ちが変わったのは、今年になり冤罪(えんざい)が明らかになった「足利事件」がきっかけ。「プロの裁判官でも見抜けないのに、一般人の私はどうしたらいいのか。ある意味で殺人者になる可能性もある」
●無期「予想しなかった」遺族落胆
長崎市長射殺事件の控訴審で、元暴力団幹部の城尾哲弥被告(62)に無期懲役の判決が言い渡された29日、伊藤一長・前長崎市長の長女の横尾優子さん(38)は閉廷後、福岡市内で記者会見し、一審の死刑判決が破棄されたことについて「予想していなかった判決。裁判所は暴力を許さないという姿勢を見せてほしかった」と心境を語った。
優子さんは、控訴審判決で、選挙妨害が犯行の目的ではなかったことなどの理由で死刑が回避されたことについて「不当要求に毅然(きぜん)とした姿勢を見せた市長が、選挙期間中に背後から射殺されても極刑に処されないのであれば、暴力に対し体を張ってノーと言い続けることができるのだろうか」と疑問を投げ掛けた。「結果の重大性は裁判所に理解してもらっていると思っていた…」と肩を落とした。
同席した別の遺族も「被害者が一人であるということや、判例などから結論が出され、理由が付け足された判決。このような犯罪を許さないという司法としての決意が見えず、到底納得できない」と批判した。
優子さんは城尾被告について「真摯(しんし)な反省をしているようには見えず、心を入れ替えることに期待していない」と指摘。「『なぜ』という部分が掘り下げられず、ふに落ちないことはたくさんある」と、二審の審理でも城尾被告の犯行動機が解明されなかったことへの無念さもにじませた。
=2009/09/30付 西日本新聞朝刊=
「あの経験から、死刑判決は厳しく無期が妥当だと感じた」と、福岡地裁であった殺人事件の裁判員裁判で補充裁判員を務めた福岡県内の男性。個人的な恨みが動機で、被害者が1人という点が重いと考えたという。
補充裁判員を務めた事件は70代の父親が長男(49)を刺殺し、懲役6年の実刑判決だった。「遺族心理は相当考慮する。人生を破壊されたのだから」と男性。一方、被告の生い立ちや動機面で同情すべき点もあり、更生の可能性も感じた。
被害者と加害者の間に立ち、心理的に重い負担が掛かる裁判員。まして死刑が問われる事件ならば、その負担も極大化するとみられている。「1人の人生、命を数日の審理で判断していいのか。証拠に不足がないのか」
補充裁判員を経験してから、動機や背景など事件の内容にも注目するようになった。遺族の心情を考慮し、加害者が本当に罪に向き合うには、死刑ではなく、終身刑の創設が必要だと考えるようになったという。
一方、裁判員候補者である長崎県大村市の50代男性は「1人でも2人でも人をあやめた事実は同じ。被告にくむべき情状や理由があれば死刑回避もあり得るが、今回の事件にはない」と死刑判決が妥当との考えだ。ただ「死刑執行後に被告に有利な証拠が出てきたら後悔するかもしれない」。
同じ不安は福岡市の女子大学生(21)も隠さない。昨年、候補者に選ばれたとき積極的だった気持ちが変わったのは、今年になり冤罪(えんざい)が明らかになった「足利事件」がきっかけ。「プロの裁判官でも見抜けないのに、一般人の私はどうしたらいいのか。ある意味で殺人者になる可能性もある」
●無期「予想しなかった」遺族落胆
長崎市長射殺事件の控訴審で、元暴力団幹部の城尾哲弥被告(62)に無期懲役の判決が言い渡された29日、伊藤一長・前長崎市長の長女の横尾優子さん(38)は閉廷後、福岡市内で記者会見し、一審の死刑判決が破棄されたことについて「予想していなかった判決。裁判所は暴力を許さないという姿勢を見せてほしかった」と心境を語った。
優子さんは、控訴審判決で、選挙妨害が犯行の目的ではなかったことなどの理由で死刑が回避されたことについて「不当要求に毅然(きぜん)とした姿勢を見せた市長が、選挙期間中に背後から射殺されても極刑に処されないのであれば、暴力に対し体を張ってノーと言い続けることができるのだろうか」と疑問を投げ掛けた。「結果の重大性は裁判所に理解してもらっていると思っていた…」と肩を落とした。
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=2009/09/30付 西日本新聞朝刊=
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