ソニーから登場した「VAIO X」シリーズは、11.1型ワイド液晶を搭載したモバイルノートPCだ。VAIOでは、VAIO type PやVAIO type Tなど、携帯性を重視したモバイルノートPCに名機が多く、ヘビーモバイラーに人気がある。VAIO Xシリーズは、11.1型液晶搭載ノートとして、世界最軽量のモバイルノートであり、ソニーがこれまでにVAIOシリーズで培ってきた技術の集大成ともいえる製品に仕上がっている。
VAIO Xは、IFA 2009やCEATEC JAPAN 2009でも参考出品されており、登場が待ち望まれていた。今回は、VAIO Xを試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。ただし、試用したのは試作機であり、製品版とは細部や性能が異なる可能性がある。
●片面実装基板の採用により、VAIO史上最薄を実現VAIO Xは、仕様が固定されている店頭モデルとCTOで仕様をカスタマイズ可能なVAIOオーナーメードモデルがある。今回試用したのは、店頭モデルである。VAIO Xは、紙のノートのように薄く軽く、1日中バッテリの残りを気にしないで使えるモバイルノートPCを目指して開発が行なわれた。VAIO Xでは、極限までの薄さと軽さを実現するために、多くの技術がつぎこまれている。その1つが、VAIOノート初となる片面実装基板の採用だ。通常のノートPCでは、CPUやコンデンサ、抵抗などのパーツは基板の両面に実装されているが、VAIO Xでは、パーツを基板の片面のみに実装することで、マザーボードを非常に薄くすることに成功した。
しかし、単純にパーツを片面に実装しただけでは、パーツの重さや実装工程での熱のかかり方のムラなどによって、基板が反り返ってしまう恐れがある。そこで、VAIO Xでは、電気設計、機構設計、品質評価部門が一緒になって、設計段階から徹底してシミュレーションを行なうことで、信頼性の高い基板を設計。片面実装基板の実用化を果たすことができたのだ。そのほか、薄型のリチウムポリマー電池の採用や超薄型部品の新規開発、薄くて丈夫なハイブリッドカーボンの開発、薄くて軽く消費電力の低い液晶の開発など、VAIO Xのために新たに開発された技術は多岐にわたる。
その結果、VAIO Xは、13.9mmという非常に薄いフルフラットボディを実現したのだ。VAIO史上最薄であることはもちろん、史上トップクラスの薄さだ。重量も、店頭モデルは約765gだが、VAIOオーナーメードモデルの最軽量構成では約655gを実現。この重量は、10型以上の液晶ディスプレイを搭載したノートPCとして、現時点で世界最軽量となる。
手元にあったいくつかのノートPCと厚さを比べてみたが、VAIO Xの薄さはまさに驚異的だ。重量も非常に軽く、片手で楽に持ち上げられる。本体が薄いので、強度が気になるところだが、剛性は本体、液晶部分ともに十分であり、不安な感じはしない。
ボディのデザインも一見シンプルだが、より薄く見えるように細部までこだわって設計が行なわれている。店頭モデルのボディカラーはブラックのみだが、VAIOオーナーメードモデルでは、カーボンファイバーの質感を活かしたプレミアムカーボンとゴールドも用意されている。
●新開発の薄型高画質液晶を採用
店頭モデルのVAIO Xは、CPUとしてAtom Z540(1.86GHz)を採用し、チップセットとしてグラフィックス統合型のIntel US15Wを採用する。メモリは2GB固定で、増設はできない。スペック的には、VAIO type Pの店頭モデル(Atom Z530採用)よりも多少上になる。また、VAIOオーナーメードモデルでは、CPUをAtom Z550(2GHz)/Z540(1.86GHz)/Z530(1.60GHz)から選べる。ストレージとしては、64GBのSSDを搭載。なお、店頭モデルの64GB SSDはUltra ATA接続となっているが、VAIOオーナーメードモデルでは128GB SSDや256GB SSDの選択も可能で、それらはSATA接続となる。OSは、Windows 7 Home Premium 32bit版で、店頭モデルのスペックで、十分快適に動作する。
液晶ディスプレイは11.1型ワイドで、解像度は1,366×768ドットである。1,024×600ドット液晶のネットブックでは解像度の低さが気になることがあるが、VAIO Xならそうした不満はない。ノートPCで一般的な1,280×800ドット液晶と比べても、一度に表示できる情報量は1,366×768ドット液晶の方が多い。VAIO Xの液晶は、内部のガラス板や偏光板を極限まで薄くすることで、薄さ1.8mm、重さ104gを実現している。また、画質にもこだわっており、色純度100%の広い色域と各色8bitの色階調数を達成しており、発色も鮮やかだ。表面の仕上げは光沢タイプではなくアンチグレアタイプなので、外光の映り込みが少なく、長時間使っていても目への負担が少ない。液晶上部には、約31万画素のWebカメラ「MOTION EYE」が搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる。
キーボードの出来も優秀だ。キーピッチは約17mm、キーストロークは約1.2mmで、キー配列も標準的だ。VAIO type Tなどでも好評の、1つ1つのキーが独立したアイソレーションキーボードを採用。爪の長い女性もキートップがひっかかりにくい。キータッチも良好で、快適にタイピングが行なえる。ポインティングデバイスとしては、タッチパッドを採用。タッチパッドの操作性もよく、ジェスチャー機能にも対応している。
液晶は11.1型ワイドで、解像度は1366×768ドットの16:9仕様となっている。LEDバックライト採用で薄型化と低消費電力化を実現。アンチグレアタイプなので、外光の映り込みも少なく、長時間使っていても疲れにくい | 液晶上部に約31万画素Webカメラ「MOTION EYE」を搭載 |
全87キーで、キーピッチは約17mm、キーストロークは約1.2mm。キーとキーの間が空いているアイソレーションタイプのキーボードを採用。配列も標準的で、快適にタイピングできる | ポインティングデバイスとして、タッチパッドを搭載。ジェスチャー機能にも対応している | キーボード右側に電源スイッチがあり、電源を入れると緑色に光る |
●薄型の折りたたみ式LANコネクタとアナログRGB出力を搭載
VAIO Xは、単に薄く軽いだけでなく、外出時に必要になるインターフェイスを全て備えていることも魅力だ。アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)やLANポートを搭載していれば、講演会でのプレゼンの際にプロジェクターに接続して出力したり、出先でLANに接続することもできる。しかし、VAIO Xの本体側の厚さはわずか9.6mmしかなく、通常のミニD-Sub15ピンコネクタやLANコネクタ(RJ-45)を入れることはできない。そこで、VAIO Xでは、折りたたみ式のLANコネクタや通常よりも薄いミニD-Sub15ピンコネクタを新規開発することで、薄いボディの中に、アナログRGB出力とLANポートを搭載することに成功した。
もちろん、単に薄くするだけなら、専用形状のコネクタにしてしまえばいいのだが、それでは周辺機器を接続する際に変換ケーブルが必要になってしまう。VAIO Xでは使い勝手を重視して、通常の周辺機器のケーブルをそのまま装着できるように薄型コネクタを搭載したのだ。特に、LANコネクタの折りたたみギミックは素晴らしい。ただし、LANケーブルを接続するためにLANコネクタを開くと、下側にはみ出してしまう。そこで、底面の後部左右に折りたたみ式の脚が用意されている。LANポートやアナログRGB出力を利用する際には、脚を立てることで、本体下側に空間ができ、ケーブルを装着しても本体が浮き上がらなくなる。脚の強度が気になるが、脚は柔らかい素材でできており、力が加わっても折れるようなことはないという。脚を立てると、本体に傾斜が付き、キーボードがより使いやすくなるというメリットもある。
アナログRGB出力とLANポート以外に、USB 2.0ポート×2とヘッドフォン出力を搭載。メモリカードスロットとしては、SDメモリーカードスロットとメモリースティックデュオスロットを搭載する。
左側面には、USB 2.0ポート×2とヘッドフォン出力が用意されている | 左側面のポート部分のアップ | 右側面には、アナログRGB出力やLANポートが用意されている。どちらも薄型化のために、特殊なコネクタを採用している |
前面には、SDメモリーカードスロットとメモリースティックデュオスロットが用意されている | メモリカードスロット部のアップ。左がSDメモリーカードスロット、右がメモリースティックデュオスロットである |
●ワイヤレスWANとワイヤレスLAN、Bluetoothに対応
VAIO Xは、ワイヤレス機能も非常に充実している。店頭モデルでは、NTTドコモのFOMAハイスピードに対応したワイヤレスWAN機能とIEEE 802.11b/g/n対応のワイヤレスLAN機能、さらにBluetooth 2.1+EDRの3種類のワイヤレス機能を内蔵している。キーボード上部にワイヤレススイッチが用意されており、ワイヤレス機能の有効/無効を素早く切り替えられるのも便利だ。NTTドコモとの契約を行なうことで、全国のほとんどの場所でインターネットアクセスが可能になることは嬉しい。また、VAIOオーナーメードモデルでは、ワイヤレスWANの代わりにWiMAXを搭載することも可能だ(ワイヤレスWANとWiMAXは排他選択となる)。
キーボード上部にワイヤレススイッチが用意されており、ワイヤレス機能の有効/無効を素早く切り替えられる | 本体前面中央にワイヤレスインジケータを含む、各種インジケータが用意されている |
●大容量のXバッテリで約20.5時間の長時間駆動を実現
VAIO Xは、バッテリ駆動時間が非常に長いことも魅力だ。店頭モデルには、標準でLバッテリが付属しているが、店頭モデルの公称駆動時間は約10時間である。また、オプションとして、Lバッテリの2倍の容量を持つXバッテリが用意されている。Xバッテリを使えば、公称約20.5時間もの超長時間駆動が可能になる。Xバッテリは、Lバッテリとは形状が大きく異なり、底面の大半を覆う形になり、装着すると本体がくさび形になる。後部には、冷却のための隙間が設けられており、本体やバッテリが過熱する心配はない。Xバッテリを装着しても、重量は1kgをわずかに超える程度であり、気軽に携帯できる範囲だ。Xバッテリを装着すると、本体に傾斜が付くので、キーボードが打ちやすくなるほか、LANケーブルやアナログRGBケーブルを接続する際に、脚を立てる必要はなくなる。
さらに、VAIOオーナーメードモデルでは、Lバッテリの半分の容量を持つSバッテリを選択することも可能だ。Sバッテリの外形はLバッテリと同じだが、重量が90g軽くなっている。もちろん、バッテリ駆動時間も約半分(約4〜5時間)になるが、Sバッテリ装着時の最軽量構成はわずか約655gとなる。重量的には、500mlペットボトル1本を持ち歩く感覚に近い。駆動時間よりも軽さを重視するのなら、Sバッテリを選択すればよいだろう。ただし、LバッテリとXバッテリは単体で発売されるが、Sバッテリの単体発売はない。
実際にバッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとにWebサイトへの無線LAN経由でのアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、Sバッテリでは2時間57分、Lバッテリでは6時間2分、Xバッテリでは12時間56分もの長時間駆動が可能であった(電源プランは「バランス」に設定し、バックライト輝度は中)。バックライトの輝度を下げたり、無線LANを無効にすれば、さらに駆動時間は延びるだろう。一般的な使い方なら、Lバッテリでも一日の業務をこなすことができそうだ。また、海外出張など、移動時間が長い場合でも、Xバッテリを装着していれば安心だ。
店頭モデルに標準で付属するLバッテリ。リチウムポリマー電池採用で非常に薄い | Lバッテリは、7.4V/4100mAhの4セル仕様になっている |
CDケース(左)とLバッテリのサイズ比較 | Lバッテリ(上)とSバッテリ(下)は、全く外形が同じだ。なお、SバッテリはVAIOオーナーメードモデルで選択可能だが、単体発売はされない |
●ベンチマークスコアは妥当だが、使用感は満足
参考のためにベンチマークを計測してみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較対照用にBrule「Viliv X70」、NEC「LaVie Light BL350/TA」、NEC「VersaPro UltraLite タイプVS」、日本HP「HP Mini 2140 Notebook PC」の値も掲載した。
VAIO X | Viliv X70 | LaVie Light BL350/TA | VersaPro UltraLite タイプVS | HP Mini 2140 Notebook PC
(1,366×768ドット液晶) |
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CPU | Arom Z540(1.86GHz) | Atom Z520(1.33GHz) | Atom N280(1.66GHz) | Atom Z540(1.86GHz) | Atom N270(1.6GHz) |
ビデオチップ | US15W内蔵コア | US15W内蔵コア | Intel 945GSE内蔵コア | US15W内蔵コア | Intel 945GSE内蔵コア |
PCMark05 | |||||
PCMarks | 1248 | N/A | N/A | 1850 | 1566 |
CPU Score | 1583 | 1207 | 1521 | 1739 | 1482 |
Memory Score | 2421 | 1957 | 2453 | 2456 | 2350 |
Graphics Score | 245 | N/A | N/A | 319 | 546 |
HDD Score | 3526 | 2586 | 8939 | 18226 | 5713 |
3DMark03 | |||||
1024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks) | 365 | 計測不可 | N/A(1024×600ドットでは638) | 445 | 718 |
CPU Score | 207 | 計測不可 | N/A(1024×600ドットでは240) | 200 | 242 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | |||||
HIGH | 436 | 計測不可 | N/A | 347 | 1010 |
LOW | 766 | 計測不可 | 1459 | 550 | 1386 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | |||||
DP | 36.17 | 7.1 | 31.97 | 8.2 | 36.9 |
HP | 85.5 | 7.33 | 88.2 | 31.2 | 75.97 |
SP/LP | 100 | 99.43 | 99.37 | 99.93 | 99.97 |
LLP | 100 | 99.7 | 99.93 | 99.97 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 78 | 46 | 81 | 50 | 68 |
HP(CPU負荷) | 78 | 44 | 80 | 53 | 68 |
SP/LP(CPU負荷) | 59 | 37 | 64 | 42 | 42 |
LLP(CPU負荷) | 39 | 24 | 38 | 34 | 32 |
CrystalDiskMark 2.2 | |||||
シーケンシャルリード | 65.90MB/s | 73.01MB/s | 83.31MB/s(C)
56.50MB/s(D) |
107.4MB/s | 未計測 |
シーケンシャルライト | 38.42MB/s | 35.21MB/s | 40.39MB/s(C)
54.63MB/s(D) |
112.4MB/s | 未計測 |
512Kランダムリード | 63.23MB/s | 72.45MB/s | 79.24MB/s(C)
31.25MB/s(D) |
103.6MB/s | 未計測 |
512Kランダムライト | 3.108MB/s | 24.58MB/s | 29.44MB/s(C)
31.23MB/s(D) |
102.8MB/s | 未計測 |
4Kランダムリード | 4.135MB/s | 8.402MB/s | 12.43MB/s(C)
0.560MB/s(D) |
11.03MB/s | 未計測 |
4Kランダムライト | 1.523MB/s | 1.272MB/s | 1.928MB/s(C)
1.551MB/s(D) |
10.36MB/s | 未計測 |
BBench | |||||
Sバッテリ | 2時間57分 | なし | なし | 未計測 | 未計測 |
Lバッテリ(標準バッテリ) | 6時間2分 | 5時間3分 | 7時間8分 |
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Xバッテリ | 12時間56分 | なし | なし |
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PCMark05のスコアは、ほぼ妥当なものであろう。SSD搭載の割には、HDD Scoreは高くないが、店頭モデルのSSDはPATA経由で接続されているため、それほど高速なものが使われていないのであろう。SSDの性能については、CrystalDiskMarkの結果からも裏付けられる。しかし、メモリを2GB搭載していることもあり、Windows 7 Home Premiumのレスポンスは満足できる範囲だ。プリインストールアプリも最低限のものしかないので、VAIO type PのVista搭載店頭モデルのように、反応が遅くてイライラするということはない。もちろん、Atomマシンなので、動画編集ソフトのような重いアプリケーションを動かすには向いていないが、Webブラウズやメールチェック、文書作成といった作業なら十分に行なえる。
●PCの持ち歩きを断念していた人にもお勧めできる真のモバイルノートPCVAIO Xは、モバイルノートPCにとって最も重要な、薄さと軽さ、そしてバッテリ駆動時間を世界トップレベルでクリアしており、ソニーの高い技術力が遺憾なく発揮された製品だ。
携帯性という点では、VAIO type Pも素晴らしいのだが、液晶のドットピッチが狭すぎて目が疲れるという人もいるだろう。VAIO Xは、見やすい液晶と使いやすいキーボードを備えた完成度の高いモバイルノートPCである。店頭モデルの予想実売価格は11万円前後であり、搭載されている機能を考えれば、十分リーズナブルだ。常にPCを持ち歩いているヘビーモバイラーはもちろん、これまでPCを持ち歩きたくても、重さやバッテリ駆動時間の短さといった不満があって断念していたという人にもお勧めできる製品だ。