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社説

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新政府税調―政治主導の改革を貫け

 「税」は国民の参加費であり、国の運営の礎となっている。税がゆがめば経済全体がきしみ、国民生活に響く。その税制をつくる仕組みを鳩山政権が刷新しようとしている。

 新しい「政府税制調査会」がきょう始動する。藤井裕久財務相が会長に就き、菅直人・副総理兼国家戦略担当相や原口一博総務相、各省の副大臣ら政治家だけで構成する。

 自公政権の政府税調は学者や経済人など各界から委員が選ばれた。税のあり方を首相に提言する諮問機関だったからだ。官僚主導の場でもあった。

 その一方、毎年度の税制改正案を決める実権を握っていたのは自民党税制調査会だった。「インナー」と呼ばれる少数の有力議員の集団がそれを事実上仕切ってきた。

 民主党は、この複雑で分かりにくい税制決定のあり方を「権力の二重構造」と批判してきた。だから鳩山政権が税制づくりの責任を担う組織を政府税調に一本化し、より透明にしようとするのはうなずける。

 税制論議や決定にあたって政治主導を貫くうえでも、効果を発揮することが期待できる。

 その半面、減税など有利な扱いを求める業界などから、税調関係者への陳情や要請が活発になる事態も予想される。各界の声を聞くのは当然だが、万が一にも個別業界への利益誘導などがあってはならない。

 経済も大転換期にある日本の行方を考えつつ、広い視野から税制のあり方を考えてほしい。

 新税調は、来年の通常国会に提出する税制改正案づくりに追われることになる。民主党が政権公約に掲げた子ども手当の財源となる所得税の配偶者控除と扶養控除の廃止、中小企業の法人税減税などが課題だ。

 とりわけ大きなテーマは、ガソリン税などの暫定税率の廃止だろう。民主党が生活支援策の一つとして唱え続けてきた目玉政策である。実施すれば2.5兆円の減税となる。

 だがそこには大きな問題もある。税収が減るだけでなく、ガソリン需要を刺激して温暖化ガスの排出増加につながるという懸念だ。

 あくまで暫定税率を廃止するというのなら、民主党がやはり検討を公約してきた「地球温暖化対策税」を近い将来に導入することとセットで考えるのが、合理的な選択ではないか。

 税は公的サービスの貴重な財源だ。ほころびが目立つ社会保障を充実させ、主要国で最悪の財政を立て直すにも、消費税の増税を軸とする税制の抜本改革が避けて通れない。

 実施は世界同時不況の克服後だが、今からその議論に取りかかることこそ未来に向けて鳩山政権と新税調が負うべき重大な責務にほかならない。

北朝鮮の核―6者につながる米朝を

 中国と北朝鮮の国交60周年を祝いに温家宝首相が訪朝した。友好を演出し、新たに様々な経済協力にも応じた。その狙いは、6者協議の議長国として、北朝鮮の協議への復帰に道を開くことだったろう。

 金正日総書記は「朝米協議の結果を見て、多国間協議を行う用意がある。6者協議も含まれる」と、復帰に含みを持たせた。

 4月のミサイル発射に対する国連安保理の議長声明に反発し、協議には再び参加しないと繰り返してきた北朝鮮としては、態度を軟化させたともとれる発言である。

 注目しなければならないのは、問題解決の主軸はあくまで6者よりも米国との交渉だと主張したことだ。

 「朝米協議を通じて、敵対関係は必ず平和的な関係に転換されなければならない」とも語ったという。自らの体制生き残りの鍵を握る米国からその保証を得たいということに違いない。

 オバマ米政権も北朝鮮との直接対話に臨む意思を表明しているが、「6者協議の枠内で行う」立場だ。米朝の思惑にはまだ深い溝がある。

 6者協議が途絶えてから10カ月になる。膠着(こうちゃく)した状態から抜け出すには、まず米朝間で突破口を探らねばならないことは事実ではあろう。

 だが米朝は6者に取って代わるものではない。北朝鮮をめぐる問題は核だけでもない。

 4年前の6者協議共同声明を思い起こしたい。北朝鮮は核を放棄する。米朝、日朝の国交を正常化する。経済協力を進める。朝鮮戦争の休戦状態を恒久的な平和体制にする――。こうした包括的な解決へ、関係国で粘り強く仕切り直していくしかあるまい。

 金総書記が言う「多国間協議」とは何なのか。北朝鮮がどのような協議体を思い描いているかわからないが、それがどんなものであれ、日本や韓国は北朝鮮の脅威を直接受ける当事者である。両国を外しての協議は受け入れられるはずもない。

 根本の問題は、金総書記の「非核化に努める」という言葉に信をおけないことだ。このところ米国や韓国などとの対話路線に重点を移したかに見える北朝鮮だが、その一方で核施設を復旧させたり、新たにウラン濃縮に乗り出したりと、核開発は止めていない。

 北朝鮮にまず必要なのは、非核化の意思をはっきりと示したうえで、それを裏付ける誠実な行動だ。それがなければ、国連の制裁も解けないし、米朝関係の本格的な改善もあるまい。

 米国にも注文がある。ブッシュ政権末期には日中韓などとの十分な調整もなく北朝鮮との妥協に走った。その愚を繰り返してはならない。米朝協議を進めるに当たっては関係国との緊密な連携が大切だ。

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