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「法に不備」ウィニー開発の金子被告に笑顔 逆転無罪判決
「あいまいな基準で著作権法違反幇助(ほうじょ)の成立を認めれば、技術者が開発自体をできなくなる」。ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を開発・公開した元東大大学院助手、金子勇被告(39)は一貫してこう主張してきた。ソフトウェア業界も論争に巻き込んだ事件に、2審の大阪高裁が示した判断は無罪。金子被告や弁護団からは笑顔がこぼれた。
黒のスーツ姿の金子被告は証言台で両手を後ろに組んで裁判長の言い渡しを待った。「原判決を破棄する。被告人は無罪」。裁判長の声が法廷に響くと、傍聴席はどよめき、12人の弁護団のなかには小さくガッツポーズしたり、握手を交わしたりする姿も。金子被告は裁判長に深くお辞儀をして被告人席につき、判決理由に耳を傾けた。
金子被告は1審公判中の平成15年末ごろ、東大大学院助手を辞職。その後、ネット関連会社の技術顧問に就任し、ウィニーの技術を生かした新たなファイル共有システム作成に携わった。ネットワーク管理と課金システムを組み合わせて著作権侵害の可能性を排除し、商業利用もされている。
しかし、他のソフト開発は自粛しているという。金子被告は判決前の取材に、「現段階では、何をやったら罪に問われるのかが分からない」と話した。
実際、ウィニー事件はソフト開発の現場にも大きな影響を与えた。金子被告を支援する技術者によるNPO法人「ソフトウェア技術者連盟」の新井俊一理事長(31)は「ネットの法整備がしっかりしておらず、技術者は手探りするしかない」と指摘する。
同連盟によると、事件後、コンピューターの性能が飛躍的に向上し、大量のデータを集中管理するため違法なデータの削除が容易な「サーバ型」が主流になった。「YouTube(ユーチューブ)」などの動画投稿サイトが人気を集め、技術者の関心もそちらに向かった。
一方で、ウィニーのようにパソコン同士で直接データをやりとりする「P2P型」と呼ばれるソフトの開発は、金子被告が立件された影響もあり、敬遠され続けているという。
判決を傍聴した新井理事長は「著作権侵害という問題点があるソフトは規制されるべきだが、法整備が何もできていない段階で不意打ちで逮捕、起訴されるのはおかしい」と改めて捜査のあり方に苦言を呈した。
社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は「ネット上での技術開発自体に罪があるわけではない。今回の事件は幇助罪で、直接的な著作権法違反ではないので、判決について発言する立場にはない」と中立の立場を貫いた。