「脱常識の世界史」

脱常識の世界史

2009年10月8日(木)

エネルギーの爆食がもたらした2度目の人口増

産業革命を可能にした石炭と「エントロピー排出」の問題

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 低エントロピーのエネルギー源というのは、高温が得られる。言い換えると熱拡散力が高い、すなわち成分が高度に秩序化され凝縮化しているために、無秩序化、拡散化状態までの落差が大きいエネルギー源のことであり、典型例が石油である。これは、高効率のエネルギー源、ないしエネルギー密度が高いエネルギー源と言える。

環境問題の本質は環境の受容能力を超えたエントロピー排出

 従って、物を生産するというのは、低エントロピー・エネルギー源を使用して、高エントロピー資源を低エントロピー化することにほかならない。その必然的な副産物として、外部に高エントロピー(無秩序)、すなわち、汚れを必然的に捨てることになる。例えば鉄鉱石から鉄製品を製造する際には残滓と廃熱を捨てることになる。

 低エントロピー・エネルギー源は、あたかも雑巾のように、高エントロピー資源からエントロピーをふき取って、低エントロピー化し、ふき取った高エントロピーを環境に捨てるのである。エネルギー保存の物理法則からすれば、必ずこうなるのだ。

 これは、物の生産に限らない。交通活動は、低エントロピーを取りこんで、環境に高エントロピーを捨てながら移動することだ。環境の受容能力を超えたエントロピー排出が、環境問題の本質だ。

 物を大量生産したり、大きく活動したりする以上、環境汚染は不可避であり、物をいくらリサイクルしても、リサイクル自体で生じる環境のエネルギー汚染、すなわちエントロピー拡大=熱汚染やCO2等は原理的に防ぎようがない(スペースの関係でエントロピー概念を詳説できないので、ネット上の種々の解説等を参照願いたい。ちなみに、エネルギー源はリサイクル不可能である)。

環境問題などの基本中の基本が理解されていない

 ある秩序だったシステムや物質は、外部から低エントロピー源を常に取り入れないと、熱力学の第2法則(エントロピー拡大の法則)によって、時間と共に無秩序化していき(高エントロピー化し)、やがてシステムであれば活動が停止し、生物であれば死に、金属のような物質であれば、錆びて使いものにならなくなる。

 このあたりの本質的な議論は、エネルギー問題に30年以上かかわってきた筆者が考え続けてきたことである。将来の人類社会と環境問題を考える際の、基本中の基本の問題であるが、政治家やジャーナリズムも含めて、一般によく理解されていると思えないし、意識されているとも到底思えない。

 次回は、エネルギー源と人口と環境の相互関係、相互矛盾が何も産業革命後や20世紀後半から始まったわけではなく、人類史の古くから存在していることを説明したい。

(次回につづく。掲載は10月15日の予定です)







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著者プロフィール

石井 彰(いしい・あきら)

石油天然ガス・金属鉱物資源機構首席エコノミスト(石油・天然ガス)。1974年上智大学法学部卒業。日本経済新聞社を経て、石油公団にて1970年代後半から石油・天然ガス(LNG)開発関連業務、1980年代末から国際石油・天然ガス動向調査・分析に従事。その間、ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所長などを歴任。著書に『世界を動かす石油戦略』、『21世紀のエネルギー・ベストミックス』、『エネルギー:今そこにある危機』、『石油 もう一つの危機』、『天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学』ほか。


このコラムについて

脱常識の世界史

人類の歴史は、究極的に人口とエネルギー源という、2つの要素の変動に駆動されているのではないか。産業革命も、その後の経済成長・変動も、戦争や革命や自爆テロも、人口とエネルギー源の量的・質的変動の観点から見てみると、通常学校で習ったり、新聞・テレビ等で解説されたりする姿と随分と違って見える。人口動態とエネルギー源の変遷が、どのように世界史の動きに絡んでいるのか。これは新たな視点の文明理解、歴史解釈であり、地球環境問題が深刻化している現在、一石を投じる意味があるものと確信している。

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