2009年10月03日 社説
[鞆の浦判決]
未来のため景観保全を
景観利益が開発行政を止めた。
万葉に詠まれた瀬戸内海の景勝地、鞆(とも)の浦(広島県福山市)の埋め立て架橋事業に反対する住民が、知事の埋め立て免許差し止めを求めた訴訟の判決で、広島地裁は鞆の浦の文化的、歴史的景観が「国民の財産ともいうべき公益がある」として、差し止めを命じた。
景観利益の概念が開発を優先しがちな行政に一石を投じた。今後の開発事業に影響を与えるのは必至だ。民主党政権の無駄な公共工事を洗い出す方針とも相まって、行政側は事業効果を精査することに加え、景観、環境、文化への影響も慎重に分析しなければならない時代になっている。
鞆の浦は宮崎駿氏のアニメ映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台とされ、訴訟は関心を呼んでいた。
近世の港湾施設の「常夜灯」(灯台)や階段状の船着き場「雁木(がんぎ)」、干潮時に船を修理した「焚場(たでば)」など、江戸時代の風情が残る。琉球王府とも歴史的にゆかりがあり、瀬戸内の潮待ちの港として、江戸上り使節団が立ち寄った宿舎があった。
世界遺産候補地を調査するユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議は架橋事業中止を求める決議を採択している。
事業は1983年に持ち上がった。港の両岸を埋め立てで架橋し、道路と駐車場を整備、フェリー埠頭(ふとう)も設けて観光振興にもつなげる計画だ。地元の過半が肯定的で、歴史的な景観をどう守るか住民同士で20年あまりも論争を続けてきた。
景観への思いは推進派も同じだが、古い港町の生活は不便を囲ってきた。
大部分の道路が江戸時代からのもので、幅員が狭く交通混雑が慢性的に起きる。救急車や消防などの緊急車両が入るかという不安がある。反対派は緊急車両の小型車導入を提案している。
判決は、交通状況が劣悪で改善する公共性は高いと認めながらも、「コンサルタントの事前調査は不十分」と指摘。景観を犠牲にしてまで道路整備に必要性があるかは「大きな疑問が残る」とした。
事業が地域再生に不可欠とする行政側だが、埋め立てによる事業効果の見積もりの甘さが指摘された。
事業利益が損失を上回ることを明確にするよう求めた判決であり、公共事業のハードルは一層高くなった。景観・環境保全の折り合いをどう付けるか、新しい発想で議論すべきだ。
沖縄では特に復帰後のインフラ整備で開発行政が地域振興の主役を担ってきた。「スクラップ・アンド・ビルド」という考えでコンクリート行政を進めてきた。
巨大な米軍基地に押されて市町村は埋め立てに活路を見いだそうとするが、「美ら海」を失う代償を払わされる。過去20年間だけでも主に埋め立てで県面積が計13・10キロ平方メートル増えた。奥武山球場の620個分にも匹敵する。
その分、海岸が灰色に変わったということだ。そろそろ立ち止まろう。
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