発足以来、国民の高い支持率を維持している鳩山政権にとってアキレスけんとなるかもしれない。鳩山由紀夫首相の資金管理団体の政治資金報告書に故人や実際には献金していない人たちの献金が記載されていた問題である。
市民団体の告発を受け東京地検特捜部が関係者から参考人聴取を始めており、早ければ年内にも立件するかどうか判断するとみられている。
首相はこれまでも説明や謝罪を繰り返してきたが、世論調査を見れば国民が納得しているとはいえない状況だ。しかも、首相は「これから捜査当局が調べていく段階で影響がある発言は避けなければならない」と捜査を理由に説明を避ける姿勢に転じてしまっている。これではますます国民の理解は得られない。
鳩山首相が今年6月明らかにしたところによると05~08年の収支報告書の記載のうち94人(193件)、計2177万円余が故人の名前などを使ったものだった。首相は虚偽記載だったと認めて報告書から削除し、担当の元公設秘書も解任した。
ただ、なぜ、そのような虚偽の記載をしたのかについて今に至るまで説得力のある説明をしていない。
首相は「元秘書の独断だった」と強調し、「個人献金があまりに少なく、それが分かったら大変だったという思いがあった」などと説明する一方、個人献金額は削除分を除いても他の政治家より多いと指摘されると「企業献金がなかなか集まらない焦りではないか」とも語るなど、一貫性に欠けるからだ。
加えて、毎日新聞の取材では削除された「寄付者」のうち10人は「実際に献金している」と証言。虚偽が発覚した後の調査もずさんだった疑いが出ている。
自民党は今月下旬に召集予定の臨時国会で、この問題を追及する構えだ。一方、政権側は、臨時国会は審議する法案を減らし、極力短期間で終えたい意向という。新年度予算編成を優先させるというのが理由だが、献金問題も避けたいからではないかとの見方も出ている。仮にそうだとしたら「国民目線」の看板が泣く。東京地検が適正な捜査を進めることは当然だが、首相も逃げずに対応すべきだ。
民主党では原口一博総務相が代表を務める政党支部の政治資金収支報告書で寄付の記載漏れが発覚し、藤原良信参院議員の資金管理団体が建設資材会社から事務所と光熱水費、人件費の無償提供を受けていることも分かった。
今回の政権交代で、多くの国民は政治とカネの問題についても「チェンジ」を期待したはずだ。こうした問題から国民の信頼が崩れていくということを自覚する必要がある。
毎日新聞 2009年10月7日 東京朝刊