【エルサレム前田英司】イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区攻撃を「戦争犯罪」と糾弾した国連報告書への対応を巡り、パレスチナ自治政府のアッバス議長が厳しい内部批判にさらされている。国連人権理事会で予定された報告書支持の決議案の採択が、議長の「同意」により来年3月の次回会期まで延期されたためだ。ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは議長を「反逆者」と非難し、これを理由に、議長側との和解に難色を示している。
報告書は先月15日に公表。イスラエル軍とガザのパレスチナ武装勢力の双方を「戦争犯罪」と非難し、国連安全保障理事会に対して、当事者の公正な調査を求めるよう提言した。応じなければ国際刑事裁判所に付託すべきだと勧告している。
人権理は2日、報告書を支持する決議案を採択し、議論の場を安保理に移す予定だった。しかし、AP通信によると、今期から理事国になった米国が強く抵抗。「中東和平交渉に悪影響を与えかねない」とアッバス議長を説得し、採択延期に持ち込んだという。
ガザ攻撃を「正当防衛」と主張するイスラエルも「報告書を安保理に送付すれば和平交渉再開の希望はついえる」と警告していた。
人権理が議題を先送りするのは異例。アッバス議長側は「報告書へのさらなる支持獲得のための延期」と釈明したが、パレスチナ内部では議長が圧力に屈し、イスラエルの「戦争犯罪」を追及する矛を収めたと映った。
ハマスの強硬派幹部ザッハール氏は5日、アッバス議長を「もはやパレスチナの代表と見なさない」と批判。ハニヤ最高幹部は「こんな状況で同じテーブルに着けるだろうか」と述べ、議長の母体ファタハとの対立解消に疑問を示した。
ハマスとファタハの仲介を続けるエジプトのアブルゲイト外相は5日、訪問先のヨルダンでの記者会見で、両者が25日にカイロで協議し、そこで和解が成立する可能性を示唆していた。
アッバス議長への不満はファタハ内部でもくすぶっている。議長の基盤のヨルダン川西岸ラマラでは5日、数百人が集まり、「報告書を無視することは(ガザ攻撃で死亡したパレスチナ人の)犠牲を無視することだ」と抗議した。
一方、シリアも議長を非難、6日からの議長の同国訪問中止を発表した。
毎日新聞 2009年10月6日 20時27分(最終更新 10月6日 23時20分)