90年に女児(当時4)が殺害された「足利事件」で再審開始が決まった菅家利和さん(62)の取り調べ録音テープの存在が明らかになった問題で、別の2人の女児殺害事件=不起訴=だけでなく、足利事件そのものについても菅家さんがいったん否認し、再び「自白」に転じる様子が録音されていたことが、事件関係者の話でわかった。
足利事件に関する供述の録音の存在が明らかになったのは初めて。21日から宇都宮地裁で始まる再審公判でのテープの取り扱いが焦点になりそうだ。
複数の事件関係者によると、この供述が録音されていたのは92年12月初旬の2日間。足利事件について犯行を「自白」していた菅家さんが初めて否認に転じた第6回公判(同年12月22日)の直前にあたる。不起訴が決まっていなかった別の2件の女児殺害事件を取り調べていた。
関係者によると、菅家さんは取り調べ中、担当検事に「やっていません」と、足利事件への関与を否認。起訴前の調べで「自白」した理由について「検察官も怖かったからだ」などと話したとされる。
ところが、翌日の調べでは検事から「昨日の否認はおかしい。(菅家さんが)犯人であることは証拠上も間違いない」などと追及され、再び「自白」に転じたという。
検察側は当初、テープは足利事件とは別事件の取り調べのものだとして開示を拒んできたが、再審協議で「本件(足利事件)の自白の任意性に影響を及ぼした可能性を否定できない」と地裁から促されて開示した。弁護側は「自白の任意性を調べる重要な資料で、法廷で再生されるべきだ」と主張している。
■足利事件の捜査の経過
90年5月 足利市の渡良瀬川の河川敷で女児(当時4)の遺体発見
91年12月 菅家さんを女児に対する殺人などの容疑で逮捕・起訴。別の保育園児に対する殺人容疑で再逮捕
92年1月 家族に無実訴える手紙を出し始める
92年2月 宇都宮地裁の初公判では起訴内容を認める
92年12月初旬 拘置所で菅家さんの取り調べを録音。「やってない」と否認。翌日の取り調べで検事に否認はおかしいと迫られ、再び殺害を認める
92年12月22日 第6回公判で突如否認に転じる
93年2月 保育園児と幼稚園児の二つの殺人事件で不起訴処分
93年7月 足利事件で宇都宮地裁が無期懲役判決