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鞆港埋め立て・架橋問題:広島地裁判決(要旨)

 鞆(とも)の浦の埋め立て免許差し止めを命じた広島地裁判決の要旨は次の通り。

 ◆主文

 広島県知事は、公有水面の埋め立てを免許する処分をしてはならない。

 ◆裁判所の判断

 景観は、良好な風景として人々の歴史的または文化的環境を形作り、それが豊かな生活環境を構成する場合には、客観的価値を有するものというべきである。客観的価値を有する良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は、私法上の法律関係において、法律上保護に値すると解せられる。

 さらに進んで、上記のような利益を有する者が、行政訴訟法の法律上の利益をも有する者といえるか否かについて検討する。

 公有水面埋立法及びその関連法規は、法的保護に値する、鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保護する趣旨を含むものと解するのが相当である。したがって、原告らのうち上記景観利益を有すると認められる者は、埋め立て免許の差し止めを求めるについて、行訴法所定の法律上の利益を有するものであるといえる。

 鞆の景観の価値は、私法上保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸内海における美的景観を構成するものとして、また、文化的、歴史的価値を有する景観として、いわば国民の財産ともいうべき公益である。しかも、本件事業が完成した後にこれを復元することはまず不可能となる性質のものである。これらの点にかんがみれば、本件事業が鞆の景観に及ぼす影響は、決して軽視できない重大なものであり、瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから、これについての政策判断は慎重になされるべきであり、そのよりどころとした調査及び検討が不十分なものであったり、その判断内容が不合理なものである場合には、埋め立て免許は、合理性を欠くものとして、行訴法にいう裁量権の範囲を超えた場合に当たるというべきである。

 (1)道路整備効果

 調査は不十分なものといわざるを得ない。県知事がコンサルタントの推計結果のみに依拠して埋め立て架橋案の道路整備効果を判断することは、合理性を欠く。

 (2)駐車場の整備

 駐車場確保を目的として本件埋め立てをしようとするのは、鞆の景観の価値をあまりに過小評価し、これを保全しようとする行政課題を軽視したものというべきである。

 (3)小型船だまりの整備

 今あるスペースを最大限有効活用するための方策を検討し、それでも、なお用地が不足するかどうかということについて検討するべきであると考えられるが、このような作業はなされていない。

 (4)フェリーふ頭

 行政当局としては、まず、湾の埋め立てによらないで、フェリーふ頭を整備する方策について調査、検討すべきであるといえるが、このような調査、検討したことをうかがわせる証拠はない。

 (5)防災整備

 計画道路が災害時の交通ルートとして活用される場合があるとはいえるものの、既にある避難地や交通路と比較して、格段に避難等の効果が増すとはいえない。

 (6)下水道整備

 埋め立てによる副次的効果と主張しているのであり、埋め立ての必要性の直接の根拠としているものでもない。

 県知事が本件埋め立て免許を行うことは、原告らのその余の主張について判断するまでもなく、行訴法所定の裁量権の範囲を超えた場合に当たるというべきである。よって、行訴法所定の法律上の利益を有していると認められない原告19人の各訴えをいずれも却下し、その余の原告らの請求は、理由があるから、これらを認容することとし、主文のとおり判決する。

毎日新聞 2009年10月2日 東京朝刊

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