公共事業も時代に合わせて変えなければならない。そんな主張がにじむ判決だ。鞆港(福山市)の埋め立て・架橋計画をめぐる訴訟で広島地裁は、埋め立てを許可しないよう広島県知事に命じた。
景観の保護を理由に、全国で初めて公共事業に待ったをかけた。画期的な司法判断といえる。事業主体でもある県は、その重みを踏まえて、計画をゼロから見直すべきだ。
最大の争点となった「法的保護に値する景観利益」が住民にあるかどうかは、あっさり認めた。
もう一つの争点は、この事業が景観に重大な影響を与えるかどうか、だった。
近世の港を特徴付ける雁木(がんぎ)や常夜灯、船の修理場だった焚場(たでば)などの「5点セット」が全国で唯一残る。万葉集にも8首の歌が載るほど歴史も古い。そんな景観を判決は「国民の財産ともいえる公益」と評価した。
もし、埋め立てられて車が走るようになれば、景観は損なわれ、文化的、歴史的価値も大きく減じる。復元はまず不可能で影響は重大だ、とも認めた。
となると、政策判断は慎重を期さねばならないはずなのに、県は代替の山側トンネル案などをきちんと検討していない。これでは埋め立ては認められない、というのが地裁の判断だ。
景観は国民の共通財産、とする「景観法」ができたのは2004年。国民の間には、景観を大切にしたいという考え方が急速に高まっている。それをさらに推し進める判決といえよう。
県には厳しい言葉が並ぶ。「景観の価値をあまりに過小評価した」とし、保全するという行政の役割を軽視した、とする。まず埋め立てありき、の発想で事業を進めてきたのではないか。そう断罪しているようだ。
公共事業をこれまでの感覚で進め、かけがえのない自然環境や歴史的景観などを軽んじがちな地方自治体や国に反省を迫っている、といえそうだ。
ちょうど「コンクリートより人間を大事にする政治」を掲げる民主党が政権に就いたばかり。前原誠司国土交通相は「県の判断を見守りたい」と今のところ慎重な姿勢を示している。しかし不要不急の公共事業に対する国の姿勢が、これまで以上に厳しくなるのは確実だろう。
県でも来月、新しい知事が誕生する。思い切った政策転換のチャンスだ。積み上げた手続きを考えると苦渋の選択かもしれない。それでも、控訴は避け、地元の福山市や住民と一緒に、あらためて鞆の発展策を考えるべきだ。
道が狭く慢性的な交通渋滞や観光客向けの駐車場不足は深刻だ。埋め立てや架橋を望む声は、そんな現状から出てきた。景観を守りながら、住民の要求にも応える努力を重ねることが不可欠だ。
計画への賛否をめぐって、住民の間には激しい対立も生まれた。これからの町づくりへ、どう踏み出すかも課題である。
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