ここから本文エリア 画期的判決に県内外に波紋/鞆の浦訴訟2009年10月02日
福山市の景勝地、鞆(とも)の浦の埋め立て・架橋計画に「待った」をかけた1日の広島地裁判決。文化的・歴史的景観を「公益」と言い切った画期的な司法判断に、県内外で大きな波紋が広がった。 尾道市出身の映画監督、大林宣彦さんは、計画に反対する住民らを支援してきた。今春、尾道に住む小学生らを鞆の浦に連れて行った。「橋ができたら魚はどうなるの? 魚が元気にならないなら、僕たち食べる資格ないよね」。子どもたちは心配そうだった。夏に鞆の浦で泳いだ時も、子どもらはふるさとの海や町並みをずっと守りたいという思いを語ってくれた。 「大人は、かつて美しい海で泳いだり、街角で遊んだりした楽しい思い出を子どもたちにも残してあげて欲しい。日本は伝統的にもったいないという精神で古いものを大切にしてきた。判決は、こうした日本人の古きよき心をもう一度見つめ直すきっかけになる」と期待を寄せる。 「海から鞆港に入る際の景観は、万葉の時代にタイムスリップしたと思うほど美しい」。そう話すのは、建築史に詳しい法政大の陣内秀信教授だ。自然の円形港湾を上手に活用して形づくられ、木造建築の町並みなどの全体構造を今に伝える歴史的港湾都市は世界的にも例がないという。江戸期の商家や蔵の保存状態も良好で、国内の港で常夜灯や雁木(がん・ぎ)、船番所、波止、船の修理場だった焚場(たで・ば)の五つの近世の港湾施設がまとまって残っているのも鞆の浦だけだと指摘。「判決を受け、これらの歴史的遺産を守り、活用することこそ鞆の浦にふさわしいまちづくりだ」と訴えた。 一方、県庁で記者会見を開いた空港港湾部の丸山隆英部長は「極めて残念な判決。到底承服できない」と反発した。控訴するかどうかは明言しなかったが、「事業を継続するための手続きを進めたい」と述べ、判決は受け入れられないとの考えを示した。 判決が、事業の必要性や公共性を担保するための県の調査・検討を、「不十分で合理性を欠く」と指摘した点についても、「極めて客観性に乏しい判断だ」と批判。「事業は景観を侵すものではない。調査も十分にやったと思っている」と語気を強めた。 金子一義・前国土交通相が認可に慎重な姿勢を示したことで、事業は事実上、止まっている。丸山部長は政権交代にも触れ、「民主党は地域主権と言っているので、(事業に賛成する)地元の多数派の判断が優先されるはず。町づくりのため、国交省にも協力してもらいたい」と話した。
マイタウン広島
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