「医療の機能強化」テーマに都内でシンポ
財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会の研究機関「医療経済研究機構」(宮澤健一所長)は10月6日、「日本のヘルスケアシステムの役割と財源―医療の機能強化に向けて―」と題した第15回シンポジウムを東京都内で開いた。シンポジウムでは、慶大商学部の権丈善一教授が基調講演した後、早大法学学術院の宮島洋教授を座長に、権丈教授を含む5人のパネリストが議論した。
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■財政も国民の意識も「この国は終わっている」―権丈教授 基調講演の冒頭、権丈教授は日本の債務状況について、「『中福祉高負担』あるいは『低福祉中負担』が分相応という段階までこの国は来ている」と主張。「負担増が実現できなければ、社会保障支出が抑制され、弱者が切り捨てられ、最後は財政が破綻する。社会保障の機能強化など絶対に無理だ」と警鐘を鳴らした。
権丈教授はまた、自身が委員を務めた社会保障国民会議が試算した医療介護費用のシミュレーションについて説明。シミュレーション結果に対して財源措置を行う方針を示した「中期プログラム」(昨年12月に閣議決定)に関連し、今年度税制改正法の付則では、「段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、2011年度までに必要な法制上の措置を講ずる」としている点を指摘した上で、「法律にここまで書き込まれているが、(政権交代して)今後どうなるか分からない」との認識を示した。
さらに、社会保障の機能を強化するため、シミュレーション結果では、25年に必要な追加財源が消費税率換算で「9−13%程度(税方式を前提)」としている点を強調。消費税率を4年間引き上げないことを公約に掲げた民主党が、先の衆院選で圧勝したことなどに関して、「この国の政治や政策論争を眺めていると、財政の面でも国民の意識の面でも、もうこの国は終わっているのかなというのが、最近のわたしの感想だ」と述べた。
■「日本は自縄自縛に陥っている」―宮島教授
権丈教授の基調講演を受け、宮島教授ら他の5人がそれぞれの立場から意見を述べた。
4年前から中央社会保険医療協議会(中医協)の委員を務めている勝村久司氏(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は、中医協について「中身に関しては、全体としていい議論をしていると思う」と評価。また、国民皆保険制度について、「患者が保険者を通じて医療消費者の視点で医療機関と向き合える」などの利点を挙げ、「イニシアチブはやはり患者が取るべきで、患者代表の役割を保険者がきちんとした市民感覚や企業感覚でやるという形を、これから取っていかなければならない」と述べた。
宮島教授は新政権に期待感を示しながらも、「消費税の負担増を4年間先送りしたことは、(高齢化率に対する租税負担率の低さなど)マクロの状況をどのように考えているのか、われわれには理解できない」と発言。さらに、消費税率引き上げ後に所得税を減税していることなどを日本の消費税制度の問題点として示した上で、「日本は医療の機能強化を実現することが非常に難しい政治条件、経済条件、そして税制改革の条件を自らつくり出し、それによって自縄自縛に陥っている状況だ」と指摘した。
■医療の在るべき姿、医療者からの説明が必要 その後のパネルディスカッションで、権丈教授は社会保障の在るべき姿を示した社会保障国民会議のシミュレーション結果について、「ぜひとも、『この救急病院の在り方はまだ物足りない』という形で、医学会とか医師会とかがクレームを付け、『これに上乗せした形でやるべきだ』と言ってほしい。厚生労働省に要求すれば、彼らはそれを試算する義務がある」と強調。東大大学院の橋本英樹教授も、「医療者側が、『今、わたしが理想とすることをやったら、これくらい掛かりますが、どこまで買っていただけますか』という議論を、医者側からしなければならない」と同調した。京都府医師会の森洋一会長は、「医療の在るべき姿をどこまで求めるかという議論を、おそらく医師会も保険者もしてこなかった。国民にも知らせてこなかったということは確かにある」と述べた。
森会長はまた、勤務医の負担軽減について、「医療クラークとか、医師以外のナースプラクティショナーも検討に値すると思うが、そういう分野の人をどのように配分するか。現状では十分に配分できない診療報酬になっているので、そこをしっかりと補充できる形になれば過重労働が減るだろう」との見解を示した。
更新:2009/10/06 22:38 キャリアブレイン
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