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北九州・若松区の小5自殺:判決「体罰が原因」 がんと闘い、集め続けた目撃証言

 ◇お母さんは頑張ったよ

 担任の体罰が永井匠君(当時11歳)の自殺を招いたと認めた、1日の福岡地裁小倉支部判決。指導は正当だったとする北九州市の主張を覆したのは、病をおして母和子さん(48)が集めた同級生の目撃証言だった。子宮がんで「余命数カ月」を宣告された和子さんは「これで喜んで天国の匠に会えます」と涙をぬぐった。【朴鐘珠】

 次男の匠君が自殺したのは06年3月。まだ小学校5年生だった。和子さんが外出先から帰ると、ひもに首をつっていた。「学校で何があったのですか」。問い掛けに市教委から満足な答えはなく、事故報告書は黒塗りだった。和子さんは、級友の家を訪ね歩き始めた。

 子宮からの出血に気付いたのは、訪問を始めたばかりのころ。医師に精密検査を勧められたが、匠君への思いを優先した。学校ににらまれるかもしれない証言に、ためらう保護者の気持ちも分かったが、ひたすら頭を下げ続けた。

 検査を受けたのは、提訴した一周忌の後。「進行性の子宮けいがん」。だが短期入院や、抗がん剤・放射線治療を受けながら、訪問はさらに1年以上続けた。熱意に、級友6人とその保護者が裁判に出す陳述書の署名に同意し、16人はノートを回して体罰の様子を寄せ書きしてくれた。ノートはある日、自宅の郵便受けに届いていた。「涙が出るほどうれしかった。匠は幸せな子だなって」

 迎えた判決の日。入院先から外出許可をもらい、足を引きずりながら原告席に座った。すぐには勝訴と分からず、弁護人を見ると、Vサインで笑いかけてくれた。遺影を抱きしめたまま、床に崩れ落ちた。「匠……良かったね。お母さん頑張ったよ」

 閉廷後の会見で弁護人は懇願するように声を震わせた。「和子さんは1審だけでこんなに体を悪くした。判決に不合理な点はない。いたずらに控訴するのはやめてほしい。市長へのメッセージです」

 ◇「責任逃ればかり」--子供自殺の遺族ら傍聴20人

 この日の傍聴席には、教員の叱責(しっせき)後に自殺した子供を持つ遺族ら約20人が全国から集まった。判決言い渡し直後は拍手に沸いたが、市教委の情報隠ぺいが認められなかった点などに不満の声もあった。

 04年に高3の息子を亡くした埼玉県志木市の井田紀子さん(56)は「今日は国民的常識で判断してもらえたけど、こんな判決が珍しいこと自体が悲しい現実」。自身が学校を訴えた裁判は今年7月、東京高裁で棄却された。02年に高1の息子を亡くした兵庫県伊丹市の西尾裕美さん(51)は「市教委も担任も最後まで責任逃ればかり。間違ったことをしても反省しない、それが教育者のあるべき姿でしょうか」と話した。

毎日新聞 2009年10月2日 西部朝刊

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