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中国、海軍大国への胎動 空母建造へと傾く中国

[Part2] 経済成長が促す「抑止力」の正当性

中国最南端のリゾート地、海南島・三亜。ハワイとほぼ同じ緯度に位置する常夏の楽園には、年間約600万人の観光客が訪れる。

中国のネット上にある「国産空母予想図」=環球網提供

外資系高級ホテルが立ち並ぶ亜竜湾の白い砂浜から3キロほど離れた対岸に、バカンス気分とは不釣り合いな2本の巨大な桟橋が見える。中国軍が整備を進めている最大規模の海軍基地だ。
湾内にはすでに原子力潜水艦用のトンネル基地が完成。入手した軍の内部文書「大航空母艦計画」によると、空母群も2015年にはここに配備される。目の前には、ベトナムやフィリピンなどと領有権問題を抱える南シナ海が広がる。

国防大学教授で海軍少将の張召忠に話が聞けた。張は「広大な海域を守り、軍事的に劣勢な東南アジア諸国を威圧するためにも、空母は不可欠だ」と訴えた。
最長で沿岸から約2000キロある南シナ海の海域を守るには「浮かぶ航空基地」が有用だ。その迫力は、中国自身が身にしみて体験している。
台湾で初の総統選があった96年、中国軍は、独立を志向する李登輝を牽制するため、大規模なミサイル演習を実施した。だが、米軍が即座に2隻の空母を台湾近海に派遣、圧力をかけたため、演習は中止に追い込まれた。
「米国の実力を思い知った。と同時に、空母が、強国の象徴としてのパワーを持っていることを認識した」と、ある海軍幹部は悔しげに振り返る。

現在、世界で現役空母を擁するのは9カ国(右下図表参照)。国連安全保障理事会の常任理事国で空母を持っていないのは中国だけだ。

 

国民の「空母熱」も高まっている。
広東省の南方日報系のニュースサイト南方報網が、2535人に「中国は空母を造る必要があるか」と尋ねたところ、92%が「必要」と答えた。空母建造のための募金集めをする学校やサイトまである。

「毛沢東号」「北京号」「始皇帝号」……。多数の空母特集サイトで今流行っているのが、第1号艦の命名だ。「釣魚島(尖閣諸島の中国名)号」や「打倒小日本(日本の蔑称)号」など、日本人としては顔をしかめたくなる名前もある。
陸地に2万キロ超の国境線を有する中国は、建国以来、陸軍重視が続いた。だが、旧ソ連が崩壊し「北」の脅威がなくなると、「東進」「南進」の余裕が出た。04年の国防白書では海・空軍と第2砲兵(戦略ミサイル部隊)の拡充が明記された。

特に、海軍の増強は著しい。主力艦艇は80年代に比べ約5倍に。04年から08年までの間に水上艦艇16隻、潜水艦18隻が新たに導入された。中には、弾道ミサイルを搭載した原潜も含まれる。
何より、中国軍の目を外洋に向けさせているのは、年10%前後の伸びを続ける経済成長だ。
エネルギー需要の急増で、96年に原油は輸入が輸出を上回る「純輸入国」に転じた。対外依存度は48%(08年度)。うち8割は、中東やアフリカからインド洋・マラッカ海峡を通って運ばれる。

「テロリストや海賊にシーレーンを破壊されたら、経済損失は計り知れない。その点、空母は核兵器並みの強い抑止力を持つ」。昨年、海軍司令部の内部会議で空母建造の意義についてこう進言したのは、上海政法学院教授の倪楽雄だ。
海軍の戦略決定に関与するブレーンの一人で、ソマリア沖での海賊対策に消極的だった幹部を説得し、初の艦船派遣を決定させた人物。「空母の話を聞きたい」と取材を申し込むと、応じた。日本メディアに対しては初めてだ。
倪は「11隻の空母を保有する米軍に対抗するつもりはない」と強調した。「あくまで海外の経済利益を守るための『防御兵器』だ」
空母が機能するまでには、艦載機の発着技術の習得など課題も多い。中国指導部や軍内には空母重視に消極論も残る。だが、ある海軍幹部は言い切る。

「国家主席ですら、もはやこの流れは止められない」

(文中敬称略)

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