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2009年08月24日

伊藤 元重 東京大学大学院経済学研究科教授 経歴はこちら>>

消費税に縛られるな「増税論議」(2/4)


 ただ、増税をするためには消費税増税が不可避だ、と決めつける必要はない。最近の日本では、増税とは消費税率引き上げのことであるという考え方があまりにも強いように思われる。

 確かに消費税は非常に優れた税である。法人税のように景気に税収が大きく左右されることはない。個人所得税のように税逃れをする余地が少なく、すべての人からきちっと徴税できる。グローバル化の中では、個人所得税や法人税をあまり高くすると企業の経済活動や富裕層の海外逃避が起きる可能性があるが、消費税ではそうした弊害は少ない。

 また、金融資産の6割から7割を保有しているが所得は少ない引退世代にも、それなりの税負担を求めるという意味では所得税よりも消費税の方が優れている。

 消費税が優れた税であるからこそ、欧州を中心に世界的に高い消費税率を課している国が多いのだ。増税幅は少ないに越したことはない。しかし少子高齢化の中で国民が求める社会保障を実現しようとすれば、ある程度の増税は仕方のないことである。できるだけ経済に過度な負担をかけない税で増税することが望ましい。その結果、多くの国で選ばれているのが消費税であるのだ。

○消費税以外の増税の可能性

 私も消費税は優れた税であると考えている。ただ、以下では消費税以外の増税の可能性について述べてみたい。
 消費税は優れているが、政治的に手垢が付いている感がある。あまり消費税だけにこだわっては増税ができず、日本の財政はますます危機的状況になってしまう。そこで消費税以外にどのような増税の可能性があるか考えてみる必要がある、と考えてみたいのだ。以下、個人所得税、相続目的の消費税、そして炭素税の3つを取り上げてみたい。

 まず、個人所得税であるが、ここでは特にフラットな地方個人所得税を取り上げてみたい。スウェーデンの例が非常に参考になる。スウェーデンは25%の消費税(付加価値税)を課しているが、それよりも高い税収を上げているのがフラットで30%という税率がかかる地方所得税であるそうだ。

 富裕税のようなものがかかる年収1000万円を超えるような高所得者層や、ごく少数の低所得者層は別として、国民の多くはその所得の30%を地方所得税として徴収される。年収300万円でも800万円でも、その30%が地方所得税としてとられる。

 地方所得税としてとられるのは、それが医療や教育など国民が地域の政府から受ける便益への負担という意味が込められているのだろう。「皆さんの生活の中で、医療、介護、教育、育児支援、ゴミ収集などのサービスは重要な意味を持っているはずです。それなら所得の30%程度をその費用として負担してください」、というような意味を込めた税金だと思われる。地方税であるので、費用と便益の関係が見えやすい。

 日本でも、こうした制度を検討する必要がある。スウェーデンのように30%というのは高すぎるかもしれないが、たとえば10%程度の地方所得税を創設して、それを地域で提供される医療や介護や教育などとつなげていくという考え方だ。地方分権あるいは地方主権を進めていくという意味でも好ましい。

  →次ページに続く(世代間の負担を平等化する相続目的の消費税)

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