梨田ハム優勝！「ファンの皆さまは宇宙一です！」

優勝を決め、ナインの手で胴上げされる梨田監督

　◆日本ハム５ｘ─４西武＝延長１２回＝（６日・札幌ドーム）　日本ハムが２年ぶり５度目（東映時代を含む）のパ・リーグ制覇を決めた。優勝マジック１で臨んだ西武戦。２回に鶴岡の適時打で先制、４回には金子誠が球団通算７０００号となる１４号２ランを放つなどリードを広げた。守護神・武田久が９回に同点とされて延長に入ったが、２位・楽天がロッテに２―５で敗れたため、Ｖが決定。試合は１２回、金子誠の中犠飛でサヨナラ勝ち。就任２年目の梨田監督が３度舞った。日本シリーズ出場に向け、２１日から本拠・札幌Ｄでのクライマックスシリーズ（ＣＳ）第２ステージに臨む。

　至福の時間を堪能するように、梨田監督はゆっくりと歓喜の輪を目指した。険しい表情は解け、両目が潤んだ。ナインに体を預け、宙に舞うこと３度。「本当に感動しました」。自身は近鉄を率いた０１年以来、８年ぶり２度目のＶ。前回が代打・北川の逆転サヨナラ満塁弾で決着なら、今回もサヨナラ。延長１２回、リーダーの金子誠が、中犠飛を放ち、４時間１４分の死闘を制した。

　２位・楽天が先に敗れ、その時点で優勝は決まったが「大勢のファンがいたし、やっぱり勝ちたかった」。監督インタビューでは「ファンの皆さまは宇宙一です！」と絶叫。ヒルマン前監督の「世界デ一番デス」を“上回る”言葉で喜びを表現した。

　今季は２年契約の２年目。「ダメなら責任を取るつもり」と不退転の決意を持って臨んだ。ヒルマン政権を引き継いだ昨季は、“遺産”である守り勝つ野球にとらわれ、チーム打率、得点、本塁打がリーグワーストの「極貧打線」が響き、Ｖ３を逃した。変革を求め、大胆にタクトを振った。

　４月３日、楽天との開幕戦。指揮官は「チームの顔」でもあった森本を外し、糸井を中堅でスタメン起用した。「勝負をかけなきゃいかん１年。足、肩、長打力を含め、糸井が入ればだいぶ変わると思った」。悩んだ末の結論の裏には、２月の沖縄・名護キャンプで大社オーナーからかけられた「今年は監督の好きなようにやってください」の一言があった。糸井は走攻守で大ブレーク。決断は正しかった。

　梨田監督は「次の作戦はこうしてとか、想像するのが好きなんや」という。日本ハムの指揮官に就任して間もなく、札幌Ｄの監督室にトイレを新設するように求めたのは、腰を据えて戦術を練るための空間作りが理由の一つだ。糸井だけではなく、登録は捕手の高橋を打撃に専念させるため、５月から一塁へ本格的にコンバート。４番に固定し、強力打線の中枢を任せた。巧みな用兵でチーム打率、得点、犠打数がリーグトップ。防御率１位の投手陣と合わせ、投打のバランスがとれたチームを作り上げた。

　開幕３連敗スタートなどすべてが順調なわけではなかった。８月のインフルエンザ騒動は特につらかった。「選手を使うにしても、起用の仕方がない。何もできなかった」。黒星が重なり、もともと加齢による右肩痛を抱えていた指揮官は、寝付きの悪さから背中にも痛みが出た。「熟睡はできなかった。朝、起きるたびに『また何人かかかってるのかな』と思ってしまうし」。遠征先では感染拡大防止を理由に、ウエート場など一部施設を使えなかったこともあった。

　「それまでがうまくいきすぎた。連勝して連敗するのが野球だし、それは他のチームにもある。これでダメとは思わなかった」。新型インフルエンザのスレッジ、検査は陰性ながら発熱した小谷野、糸井、二岡ら野手は登録を抹消せず、一日も早い復帰にかけた。傷口を小さく抑え込み、７月１９日からの首位の座を守り通した。

　最強馬からの見えない力にも支えられた。競馬が趣味のひとつである梨田監督は、北海道安平（あびら）町の社台スタリオンステーションで種牡（しゅぼ）馬生活を送るディープインパクトを見に数度、現地を訪れたことがある。そして、昨秋に関係者を通じて、ディープのたてがみを手渡された。「日本一になれますように」と願いを込め、それを額に収めたものを今年は本拠地の監督室に飾った。今季、札幌Ｄでは３８勝１９敗１分け。史上最多タイのＧＩ７勝馬にあやかり、まずはリーグを制した。

　２球団での優勝監督は史上１０人目。そして、次に目指すのは近鉄時代に現役、コーチ、監督を通じて、一度も成し得なかった日本一だ。「故障者も多いけど、みんな元気になって、頑張ってもらいたいです」。名将の戦いは終わらない。歓喜の終着点はまだ先にある。