ニュース:国際 RSS feed
【記者ブログ】滑稽節、じゃなかった国慶節日記 福島香織
■新中国成立60周年を迎える国慶節、テレビでごらんになりましたか?私はわざわざ北京にまで見に行ってしまいましたよ。ですが、天安門広場はもとより長安街に近づくことすらできませんでした。外交人員公寓の中国総局の窓から長安街が見えるんじゃないかとと思って、行きたいと総局長に頼んだのですが、部外者は入れてはダメだと通達がいっていたそうで、断念。それで友達の家にこもってCCTVの中継をみたのでした。でも、大望路近くの友達の家の前を戦車がごろごろ通ったり、上空を戦闘機がぶんぶん飛ぶ、北京らしさは堪能できた!
■さて、あの大閲兵式と60周年祝賀行事をみて、どう思われましたか? なーんだ、この程度の兵器、米軍の水準とくらべれば1世代半は遅れているな、と軍事好きの友人は言ってました。私は兵器音痴なので、空を飛んでる戦闘機がどの程度のものかぜんぜんわかりません。
■それより、恐ろしいと感じたのは、軍事パレードのあとの学生と市民ボランティアによる一糸乱れぬマスゲームと祝賀パレードです。18万人が参加したそうですが、夜中の3時にすでに建国門内に入ってスタンバイしていました。で夜が明けて、午前10時から午後1時ごろまで立ちづめ、踊りづめですよ。食事もパン一個、牛乳一本しか与えられなくて(トイレに行きたくなると困るから)、紙おむつしているとかいう話が地元紙にのっていたました。日本人の友人に報告すると「それって人権問題じゃない!」とかいいますが、ボランティアですから、本人たちが志願して楽しんでやっているのですから、しかたありません。
■50周年の祝賀行事を知る日本人の友人は、「こういう中国のマンパワーを全面に出す演出はなかった。少なくとも50周年のときは、マスゲームは北朝鮮に比べるとまだまだなと思った」といいました。私は正直、核弾頭を三つ登載できるICBM東風31A型よりも、8万人が一人もミスしない人文字の方が日本にとって脅威だと感じました。背丈も腰の高さもそろえて、表情さえみな同じにできる。党のためならトイレもがまんできる、ああいう人たちが、束になってかかってきたら、日本はたちうちできませんて。
こんな風に中国の人の多さを見せつけられると、日本がいくら最低賃金を引き上げても、技術をもっていても、安価な労働力でもって安価な商品を大量につくって日本に輸出してくれれば、日本は永遠にデフレから脱却できないような気がしてきますね。
■私は個人的には、あの2000万人も餓死者を出した大躍進や文化大革命を乗り越えて、いまだ地方・辺境に民族問題の火だねや農民暴動の危機をかかえていながら、北京や主要都市では、ここまでのすばらしいパンとサーカスを市民に与えられる中国に対して、と本当に立派になったねぇ〜と心から祝福したいと思います。街に戦車が走っていても、もう人民に向かってくることはありません(と思います)。とりあえずは今のところ、漢族にむかってこないと思えるとは本当にすばらしい国になったものですね!(棒読み)
■印象的だったのは、大閲兵式の胡錦濤国家主席のグレーの中山服(人民服)。こういうときは、軍事委主席用の緑の軍服もどきを着るのが慣例だったはずですが、あえて、軍人とは違うのだよ、ということを控えめにアピールしてましたね。相変わらず軍事委の制服組とは折り合いが悪いんでしょうか。パレードで軍の存在感を誇示する一方で、軍事パレードをしのぐマスゲームや山車パレードを演出する。軍の機嫌をうかがいつつ、民衆に媚びを売る、微妙な胡錦濤政権の姿勢がかいま見えるような気がしますね。
■日中友好協会からは、老朋友として村山富市元首相、加藤紘一会長ら4人が招待されたそうです。村山さんは天安門楼上にいたのがテレビでしっかりうつっていました。あの狭い天安門楼上にあげてもらえる国賓は相当絞られているので、村山元首相がいかに中国政府から大事にされているかがわかります。あと、朱鎔基・前首相がサングラスかけてちらりとうつっていて、「おお、朱鎔基がテレビでうつるのひさしぶり〜」と、なぜか感動していました。
■建国門内は、一般市民や一般観光客は完全に閉め出されていました。私は建国路沿いのホテルにいたので、朝4時くらいに道路沿いに出て、「大閲兵式に参加する戦車はぜったいここを通るから」と河北省からわざわざ北京にきたお上りさん観光客のおばさんたちに言われて、一緒にずっと待っていました。ですが、結局、戦車は通らず。ホテルの人にきくと「夜中の3時ごろに、もう建国門内に入っていたよ」と。恥ずかしながらその時刻は爆睡中で、戦車が通ったのに気付きませんでした。
■街中に140万人ぐらいボランティアの治安要員が動員されていたんですが、そのボラティア治安要員が、偉そうで、何があるわけでもないのに、早く帰れ帰れと追い立てます。結局、戦車はあきらめて友人宅の家にいって一緒にテレビ中継をみたわけです。でも、そのおかげで閲兵式が終わって基地に帰る戦車を、結構間近でみることができました。戦車って結構スピードでるんですね。
■ちなみにこの日はすばらしい晴天。人工消雨のためのヨウ化銀ミサイルをばんばん打ったそうです。おかげで2日も中秋の名月の3日も、北京はすばらしいお天気でした。3日は友達と上海ガニを食べ、故宮にお月見というフルコースを堪能。天安門広場は、国慶節祝賀パレードに登場した山車が展示され、特別設置された大画面で何度も大閲兵式の様子を放映していました。このころになると「戒厳令」もどきの交通規制も、外出禁止令(?)もほぼ解かれ、市民や観光客の表情も本当にリラックスして、明月を楽しんでました。身動きとれないほどの人出でしたが。
■でも、久しぶりに中国の自信を肌で感じることもできました。月明かりに照らされた穏やかな市民の笑顔をみると、この豪華絢爛なパレードが演出する中国の平和と発展が、ヨウ化銀ミサイルの作り出したひとときの晴れ間と同じ種類のものでないことを、お月様に祈りたい気分になりました。
<2009/10/05 21:50>
▼「福島香織」の記者ブログ<北京・平河趣聞博客(ぺきん・ひらかわこねたぶろぐ)> http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/