社説

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:「戦略局」法制化 先送りは容認できない

 「脱官僚」の後退ではないか。鳩山内閣が掲げる政治主導を実現するエンジンと位置づけられた国家戦略局の法制化を先送りする動きが政府内で強まっている。平野博文官房長官は設置法案を秋の臨時国会に提出せず、来年の通常国会に先送りする考えを表明した。

 副総理の菅直人氏を担当相に据え「国家戦略室」として将来の法制化を前提に始動した戦略局だが、本格稼働は遅れている。予算編成などで主導権を発揮するためには法律で権限を明確に与え、陣容を整備することが不可欠だ。鳩山由紀夫首相はなぜ、事態を放置しているのか。先送りを容認してはならない。

 鳩山官邸の「車の両輪」としてさきの衆院選で民主党がマニフェストに掲げたのが戦略局と、行政のムダをはぶく行政刷新会議だ。特に予算案の骨格策定にあずかる戦略局が軌道に乗るかどうかは、政権の命運を左右すると言っても過言ではない。

 だが、これまでの状況を見る限り、先行き不安と言わざるを得ない。国家戦略室で菅氏は当初、党政調も活用した運営をイメージしていたようだ。ところが、政府・与党の政策決定一元化のために党政調が廃止されたこともあり、スタッフの整備は遅れている。

 09年度補正予算の減額をめぐっても戦略室、財務省、行政刷新会議の役割分担をめぐり混乱が起きている。もともと戦略室の役割がはっきりしないうえ、官房長官の直接の指揮系統の下にはない戦略室には、各省庁に指示する法的な裏付けがない。このまま10年度当初予算編成に進んだ場合、期待される機能が発揮できるか、はなはだ疑問である。

 にもかかわらず、平野長官が戦略局設置法案の提出を来年1月召集の通常国会に先送りする意向を表明したのは、解せない。通常国会で予算案審議が優先されれば法制化は、ずるずると引き延ばされるおそれがある。いったん政策決定のレールが敷かれてしまえば、後から法律で別のルールを作って覆すといっても至難の業だろう。

 政府・与党内には戦略局に権限が集中すれば、菅氏の発言力が強まりかねないとの警戒もあるという。だが、戦略局が失速すれば、待ち受けるのは財務省など中央官庁による「官主導」の予算編成ではないか。

 今月下旬に召集される臨時国会について、政府・与党には年内の予算編成に支障を来さないためとして、提出する法案を極力、絞り込むとの意見が強まっている。だからといって、政治主導の体制固めが後回しになってしまうようでは、まさに本末転倒だ。最初のボタンを掛け違えてはならない。

毎日新聞 2009年10月6日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

sn

PR情報

 

おすすめ情報

注目ブランド