山口県光市で母子が殺害された事件をめぐり、当時18歳だった被告の元少年(28)=死刑判決を受けて上告中=を実名で表記したルポルタージュ本が近く出版されることになり、元少年の弁護団のうち6人が出版の差し止めを求める仮処分を5日に広島地裁に申請した。弁護団の1人は「元少年は実名掲載を了解していないと言っている。実名の出版物への掲載を禁じた少年法の趣旨に反し、出版は許されない」と話している。
本は東京都日野市の「インシデンツ」が出版し、著者は一橋大学職員の増田美智子さん。インシデンツのホームページなどによると、元少年と接見を重ね、周辺の関係者を取材した結果を盛り込み、早ければ7日にも店頭に並ぶという。タイトルや本文で元少年の実名が明かされている。
本は240ページ。ホームページは「被告と同い年の著者が1年以上も面会と文通」「被告の両親や兄弟、友人、恩師、弁護士ら総勢100人以上を取材」などと説明する。
インシデンツの寺沢有代表(42)は、元少年の弁護側と4日に広島県内で会い、「原稿を出版前に読ませなければ、出版差し止めの仮処分を申請する」と伝えられたという。「もし申請されたのであれば、出版の自由、表現の自由を侵害するもので、到底納得できない。著者は、本人と25回も面会し、実名を出すことを了解してもらっている。弁護団は出版直前になって『本人が了解を撤回した』と言ってきたが、それは信じがたい」と話した。
事件は99年4月14日に発生。光市の自宅アパートで母親(当時23)と長女(同11カ月)が殺害された。