「ベッド満床」での受け入れ不能が2割強も
「平成20年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査」では、救急患者を受け入れられなかった理由についても調べています。例えば、照会回数11回以上の「重症以上傷病者搬送事案」の場合だと、理由の上位3項目は、「処置困難」(対応できる設備・資器材がないなど)が3532件(29.2%)、「ベッド満床」が2959件(24.4%)、「手術中・患者対応中」が2250件(18.6%)です。
この中で注目すべきなのは、「ベッド満床」です。救急患者に対応できる医療機器とマンパワーがあっても受け入れられないケースが、全体の4分の1もあるのです。先で1都3県の救急医療が危機に瀕しているという話をしましたが、これらの地域では人口当たりのベッド数が少ないため、「ベッド満床」が受け入れのうえでとりわけ大きなネックになっていると予想できます。
救急医療の充実を図るうえでは、常に空きベッドがあるのが好ましいのは言うまでもありません。しかし、現実には異なります。それはなぜでしょうか?
満床にしておかないと経営が成り立たない・・・
理由の1つは、看護師不足により稼働病床の増加が難しい点にあります。
病院では、ベッドに空きはあるのに、それを使えない場合があります。診療報酬の入院料は、配置している看護師の数と入院患者の比率などを基準に決まります。例えば、看護師不足のきっかけになったと言われる「7対1入院基本料」は、大まかにいうと、入院患者7人に看護師が1人配置されている場合に算定できます。つまり、患者数をむやみに増やしてしまうと、看護師を増員しない限り人員配置基準を守れなくなり、その状況下で診療報酬を請求すれば不正請求となってしまうのです。そのため、看護師不足の病院では、病棟を閉めたり、稼働病床を抑えたりしなくてはなりません。
もう1つの理由は、満床にしておくことが、経営効率が最も高いことにあります。当たり前ですが、病床を空けておけば収入が減り、経営上は無駄です。
特に、救急の受け皿となる救命救急病床やICU(集中治療室)は、人件費だけでも1ベッド1日当たり数万円はかかります。また、この数年は、医療費抑制策の影響もあり、病院経営は厳しさを増すばかり。救急患者の受け入れのために空けておくべきベッドを多く用意できない事情があるのです。
仮に医師の不足や偏在が解消されたとしても、一定数の空きベッドを確保しながらの経営が成り立たないならば、救急医療の崩壊には歯止めがかからないでしょう。この点では、救急医療に対する診療報酬上のさらなる評価が必要だと思います。
高齢化の進展や患者の権利意識の変化による救急搬送数の増加、医師の偏在による救急病院の減少、医療費抑制策による経営環境の悪化――。これらの事情を踏まえると、救急患者の受け入れ不能の責を、一方的に医師に問うのは酷かと思います。
そこで、皆さんにお伺いします。受け入れ不能は医師のせいでしょうか? 私の考え方へのコメントと、「『たらい回し』は医師のせい?」に対する「Yes」「No」の投票をお待ちしております。
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